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それにしられてはならない。6(あいにくですが、私は父の実の娘になりたかったです!!)より

私は目の前の男を見つめた。私が一番大事な男と、よく似たどころか、同じ人間としか思えない程共通点しか見つけられない、砂漠どころか大陸の半分を支配していると大言壮語を言っている男を。

私の疑問に答えてくれると言うのならば、私の頭が思いつく限り、聞きたい事を聞こう。

男が答えられる事ならば、きっとこの男は出し惜しみをしないで言うに違いない、と思えたからだった。


「ここはどこ? ……こんな漠然とした問いかけじゃあなたも答えにくいか。もっと絞るとそうだな……この砂漠にある場所は、どことどことどこの町と交易路があるの?」


「何を聞き始めるかと思えば。ここは大河のある町と、それから……」


男は私の問いかけに答えてくれた。そして聞いた事実から、私は知ったのだ。

この城のある場所は、私がこうなる前に、夫と暮らしていた城と同じ位置にあるという事実を。

これによって導き出せるのはなんなんだ。……だって、あり得ないのだ。その場所にある城には、ケビンのお兄さんが王様として君臨しているはずだったから。

同じ場所としか思えないのに、いる人間も、そこを支配している人間も違う。

それが意味するのは何なのだ。私は過去を変えて、自分という存在を失って、この姿に何の因果か生まれ変わったのだ。

だから、何かが起きたのか。何かが働いて? でも解せない。


「前にあなたは、このあたりも、ケビンのお兄さんが前は支配していた、と言う事を言ったでしょう。その、前っていつの事? あなたはケビンのお兄さんの王様から、王位を簒奪したの?」


かなり遠慮の無い問いかけだし、失礼千万な言葉に違いない。

でもこれくらい切り込まないと、私の知りたい答えは見つからないような気がしたのだ。

そして、こんな、普通は怒り出しそうな事を聞いたのに男は、機嫌を損ねる様子もなく答えたのだ。


「王位を簒奪はしていない。……ケビンの兄のあの方は、王位を継いですぐ、神の怒りに耐えきれずに焼き殺されてしまった。とてもよい方だったんだぞ」


「……っ!?」


言われた言葉に、私は目をむいた。それは、私が覆した過去のはずだった。





私は、世界で一番幸せになって欲しい相手の、親兄弟を皆殺しにされた原因が、私の両親の逃走だと知ったから、その過去を、過去に遡れるすごい力を持っている竈の神の力を借りて、無かった事にしたはずだった。

そしてそれが成功したから、私は自分の存在を失って、生まれ変わったのかなんなのかわからないけれど、この姿で生き直す事になってたんだ。

ケビンのお兄さんの死因も、また、私の両親の考え無しの結果だったから、私が過去を変えたから、ケビンのお兄さんも死ぬ運命じゃ無くなったはずなのに。

この人は何を言っているのだ。

これではまるで、私が自分の消滅の恐怖をねじ伏せてでも、変えた過去が存在しないかの様な言い方じゃないか。

……まさか。

私はある可能性にも思い至って、だから唇をなめて、大きく深呼吸をしてから、目の前の男に問いかけた。


「あなたの家は、神の愛し子を育てていて……神の愛し子がどこかに消え失せたという理由で、あなた以外の家族は皆殺しの憂き目にあった?」


「お前は俺の何を知っている? ……まあこの話は巨大な醜聞の一つだ。娼婦が偶然聞いていてもおかしくないか」


「じゃあ、事実なの」


「事実だな。俺の肉親はすべて死んだ。神の愛し子が、神から背を向けるという大罪を犯した結果」


「……じゃあ、これが最後の質問になりそうだから、最後に一つだけ」


「もう聞きたい事は終わりなのか。もう少しあってもおかしくないだろうに」


「聞きたい事がほかにできたら、後からあなたに聞くよ。……あなたには、お妃様がいる?もしくは、いた?」


この質問は予想とは違っていたのかもしれない。彼は一瞬黙った後に、かすかに笑った。

ああ、その奥さんを愛しく思っているのだ、と明らかにわかる表情の変化だった。


「いた。……もう何年も行方知れずだ。姿さえなぜか、もう誰も覚えていないが、神の怒りすら解いた強い心と愛情を持った女が。……大陸の半分を支配しても、見つけ出す事の叶わない、妻が」


「……」


血の気が引きそうになった。この事が意味していそうな可能性が、頭に浮かんだからだ。


「……ありがとう。色々訳がわからなかった事が、納得できそうで助かった。……なんか、納得して肩の力が抜けたら、眠くなってきた」


「そうか」


男はそう言うと、私に手を伸ばしてきた。娼婦とかだとか商売女だとか思っているから、そういう中身の事をするかもしれない、でも今は頭の中を整理したいからやめたい、と思って固まっていると、男は私の髪に手を滑らせて、苦い顔になった。


「お前は何一つ妻と共通点のなさそうな姿をしている。……なのに妻と同じように、俺を恐れる顔を見せない。少し不思議だ」


「奥さん女傑だったみたいな言い方」


「女傑だろうな。本来ならば恐ろしく強いというのに、自分以外の事が関わると途端に弱くなる、優しい女だった」


「そっか」


数回、彼は私の髪の毛をすいた後、立ち上がった。


「お前はこの場所に入れられても、一言も泣き叫ばない。……何か欲しいものがあるなら、都合してやる。外に出せ、というのは叶えないが」


「欲しいもの? 外に出せ以外の何でもいいの?}


「俺はお前の願いを、大体は叶えられる身分だ」


「じゃあ、暇つぶしになる本と、楽器一式と楽譜と、筆記用具ひとそろい」


「なんだ、宝石や衣類ではないのか」


「宝石と衣類があっても暇は潰せない」


「そうか」


彼はそう言って、私を一瞥した後に、こう言った。


「お前が眠いのならば、俺は別の場所で休む。……また来るぞ」


「……待ってよ。あなたも眠いの? 疲れてるの? だったら私が床に絨毯敷いてあるし、そこで雑魚寝できるよ」


「なんだそれは」


「こんな時間に、また寝床探し回るの大変でしょう。何もできない距離でなら、同じ部屋で寝ても問題ないじゃない」


「……お前はまた妙な事を。……だがそうだな、今日ばかりはそうさせてもらおう」


敷布を一枚よこせ、と彼は言うから、私は戸棚に置かれていた敷布を一枚渡した。

そうすると、彼は適当な、絨毯の敷かれた床に寝転がって、敷布を被って、そのまま目を閉じてしまったのだった。止める間もなかった。


「よっぽど疲れてたんだ……」


そんな感想しか出てこなかったけれど、それは事実なのだろう。隈の浮いた目元や、雰囲気からも、どこかそんな物が匂ったような気がしていたので。


「……」


とりあえず寝台は使っていいらしい。少し後ろめたいが、私はその中に潜り込んで、導き出した可能性を、頭の中に浮かべた。


それは。




ここは、私がいなくなった後の、もともと私がいた世界なのではないか。と言う事だった。

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