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それにしられてはならない。5(あいにくですが、私は父の実の娘になりたかったです!!より)


「それにしても、ここなんでこんなに、住人が外にでられる場所が限られてるんだろう。砂漠の建物って知る限り、もっと開放的なんだけどな」


さて、扉から出て行く事もできないとなったので、私はお得意の窓もしくは通気口からの脱走という事を念頭に置いて、また室内を見渡してみた。

しかし、……なんというか、ここ、そう言った事を考える人を想定してるとしか思えない造りの部屋なのだ。

明かり取りの窓は、いくつもあるのだが、そのどれもが小さい。人は一人くぐれない。子供だって結構厳しそうな大きさの窓を、いくつも作って、室内を明るく仕上げている。

通気口には、網がしっかりとはめ込まれていて、おまけに私が助走をつけて飛び上がっても、手の届かない位置にある。

手が届く場所なら、何か網を外す方法でも考えて、外に出る事も出来そうだったのだが、それもかなり無茶の部類に入りそうだ。

元盗賊のおばあちゃんだったか、それともジョン兄ちゃんだったか。どちらかが言っていた言葉をここで思い出した。

それは、

「人を閉じこめる事を考えていない建物から出ていくのは、簡単だ。でも、人を閉じこめておく事を念頭に入れている建物から出て行くのは、至難の業なのだ」

という言葉で、人を閉じこめておく事を考えた建物は、脱走する方法をいくつも考えて、それが出来ないように考慮して作るから、脱出が難しいのだと真面目に言われたのだ。

まさに、彼等の言葉を借りるなら、ここは人を閉じこめておく事を念頭に入れた場所というわけだ。

こんな綺麗に作って、あらゆる不満点を、外に出られない事以外はないように準備して、それは一体どういう目的を持っての事なのだろう。

やはり、あの男に直接聞かなければ、答えは出てこないだろう。


「……やっぱり飛び上がっても、ここは狭いか」


肩幅からして潜り込めそうにない。私は一度は試しに、と飛び上がって、明かり取りの窓に手を引っかけて、大きさを確認したのだけれども、これはどうやってみても無理だ。

そんな事を思いつつ、私は降りようとして……明かり取りの窓から見えた外に、いっそうわけが分からなくなったのだ。

外は見覚えのある風景に、よく似たものが広がっていた。

過去をさかのぼる前、夫に頼んで、何度も一緒にあるいてもらって、通路とかを覚えた、あの、砂漠の城によく似た世界が。


「……建物の感じもあれと同じだ……」


女の子達とおしゃべりをした、泉のある東屋。もうそこは枯れていなくて、水が満たされていて、鳥が来ているみたいだけど、それの古くなった感じとかもあのままで、まるで私は、何事もなくあの場所に帰ってきていたみたいな、そんな思いを抱いたのだ。


「そんな事あるわけない、ありえない」


あの世界はなくなった。私が過去をさかのぼって、過去をやり直したのだから、あの、夫がたくさんの物を奪われたあの世界は、もう、ないのだ。

無いはずなのだ。

短い時間だったけど、たくさんの楽しい思い出とか、驚きとかそんなものを経験したあの場所は、砂漠の城は、存在しないはずなのだ。

それがどうしてここにある。私は何度目になるかわからないほど、夢かどうかを疑った。

今体験している物の多くが、これが夢じゃないと知らせてくる。

しかしほかの色々な、存在し得ないもの達が、これは夢のようだと思わせてくる。

なにが、なんで、どうして、なんなんだ。

私は慎重に明かり取りの窓から降りて、とりあえず適当に座ろうと、その辺に置かれていたクッションを抱えて、座り込んでみたのだった。




どうやら、食事は私と鉢合わせしないように、何らかの方法を使って運び込まれているらしい。

こうなったら人に会う為に、食事の置かれていた続き部屋で待ちかまえていようと構えていたのに、私がちょっともう一つの部屋の方に入ったその瞬間に、食事の用意はすべて調えられていた。

驚くべき早業で、人間業とは思えない。

それから導き出されるのは、私を誰とも会わせないようにしているという事実で、ほかにありえなかった。

私に一体何の恨みがあるんだ。誰とも会えないとか状況判断が出来なさすぎて困る。

今私はとにかくたくさんの疑問を持った状態で、誰かに聞いてみなかったら答えなんてわからない物ばかりなのだ。

なのに、誰とも会わないようにされてしまったら、本当に手詰まりというわけなのだ。

これどうしよう。

私は、こんな時でもおいしいと心から思ってしまうご飯に、ちょっと悔しく思いながら食事をすませて、体を綺麗に拭って、クッションを抱えて座って、男が来ないだろうか、せめて責任をとって説明のためにやってこいと思って、待っていた。

説明もなしに、いきなりただの女の子をここに閉じこめるなんて絶対におかしいし、ありえない。

やるとしたら相当に傲慢な男で、あの見た目であのまなざしで、夫とよく似た男が、理由なしにそんな真似をするならば、私は力業でその頭の中を訂正しなくちゃいけないと思うのだ。

私は、あの人によく似た、いいや、似ているなんて言葉がちゃちに思えるほど同じ面差しの男に、そんな非道な真似をしてほしくないのだ。

これが自己満足の世界なのだと言われたら、きっとそうだ。

それだとしても、私は、同じ顔でほぼ同じなのに、いっそう闇の濃い瞳で私を見下ろして、やる事やってる最中であるのに、どこか傷が痛むような雰囲気を漂わせていた男に、そんな事をさせたくないのだ。

ひとえに、それは、夫と同じ面差しだから。

なんて自分勝手、と思いつつも、私は座り込んで、暇だな、楽器でもあればまだ暇を持て余さなくてすむのにな、と思いつつ、その男の来訪を待っていた。

夕飯を食べてから、結構時間がたっただろう。この空間にはどうしてか知らないが、からくり時計の一つもないので、時間の判断がとても難しい。

それでも、相当に時間がたったと体感で感じる程度には、時間がたって、ようやく、扉の外に人の気配を感じた。

私はしっかりとクッションを握りしめて、いざ扉が開いたその瞬間に、思いっきりよく、クッションをその誰かに投げつけたのだ。

叩き落とされるのは想定していた。ある程度の腕の立つ相手ならば、すぐに叩き落とす。それくらいは当たり前にやるだろう、と思った。

しかし現実はもっと容赦がなくて、何かが光ったと私が認識した刹那に、クッションは真っ二つに断ち切られていたのだ。

クッションの中の綿が、ふわふわと飛ぶ。

え、これ結構値打ち物の生地なのに、やっちゃうの……と私は思考回路が停止し、そのせいで反応が遅れた。

あ、と一気に相手が距離を詰めてきたと頭が認識したと思ったら、私は床に縫いつけられていた。

それも、気道を押さえ込まれるという躊躇のなさで。


「あ、ぐ……」


「……何の真似だ?」


入ってきた相手、砂漠の王を名乗る男は、片手で軽々と私の急所を押さえ込み、床に押しつけて、指一本動かせない状態にまでしてきている。

呼吸が苦しい。気道を塞がれかけているせいで、息が出来なくて、頭の中が赤とか白とかに明滅する。

そんな中で、何の真似だとか言われて、答えられるわけがない。

ひゅうひゅうと必死に息をする私を見て、じっと見て、男は少し力を込めすぎたと気が付いたらしい。いや早く気付けよ。

わずかにゆるんだ力の加減のおかげで、息がましになった私は、男を睨むように見つめて、言った。


「八つ当たり。状況がほとんどわからない状態なのに、こんな時間まで、あなたが来ないから腹が立った。……ちょっとくらいやり返しても、怪我もしないだろうやり方だから、いいかと思った」


「……正気とは思えないな」


「正気以外に何があるわけ? だってあなたにいきなりここに連れてこられて、誰とも顔を合わせないし、暇つぶしになる物もないし、外にも出られない。どんだけつまらなかったと思ってんの?」


「……お前はまともに会話が出来るのだな」


「はあ? 何言っちゃってんの? 会話できないでどうして、あなたと私がこうして睨み合いしてなくちゃいけないのよ。あなた私が泣くとでも思ったの? これでも簡単には泣かないよ」


私のこれらの言葉は、男にとってあまりにも想定外のようだった。

こちらの言葉を頭の中で咀嚼して、男が低い声で、闇が貯まっている目で見下ろしてきて、こう言った。


「一日、泣きもせずに正気で居続けた女はほかにいない」


「そりゃーそうだ。あなたもしかして他の美女とか美少女とかにも、似たような事して泣かせたりしてたわけ? うわー、ちょっとそれって人格的にどうなの」


「お前と同じ方法で連れてきた女はいない」


「……何、もしかして貴族とか王族とかから、娘や親戚の女の子を献上されてたって言いたい? おいしい汁を吸うために、そう言う人が大挙してて、たくさんの女の子が連れてこられたって言いたい?」


「お前は察しがいいのか鈍いのか、どちらだ?」


「否定しないって事は正解なんだ。……つまり、ある程度覚悟と野心を持ってやってきた女の子達がそろって、正気じゃなくなったってわけ? ……悪いけどあなた相当呪われてるのか、女運悪いのかどっち?」


どうせ何か不興を買ったら、何かされるのだ。どうせなのだ、言いたい事を言いまくって、呆れられれば解放される可能性もある。

そんな計算をしつつ、思った事を続けて言っていると、男が私を理解できそうにないという視線で見下ろす。


「どこから来た者でも、俺に触れられる前に正気を手放すか、泣いて話にならん」


「そう言う人達の事はどうしてるの」


「施療院に送るか、そう言った者達を集めて暮らさせている区域に送り、自立できるように教育し直す」


「そこで殺したりしないってあたりに、あなたの人間性がぎりましってのが、何となく伝わってきてちょっとほっとした」


「俺はお前のような商売女に、人間性を疑われなければならんのか」


「いや、自分が私にしたこと振り返ってみ? 事前の説明なしにいきなりここに連れてきて、好き勝手して、放置して、軟禁」


「お前には俺に対しての遠慮という選択肢は、ないのか」


「あってどうすんの? 遠慮して腹の中探られるよりいい」


男はしばらく沈黙した後に、私から手を離して、起きあがらせた。

ああ、背中がずっと痛かったから助かった。

うめきつつ体を起こして、変に押さえ込まれていたから、痛むあちこちをさすっていると、男が言う。


「少しは度胸のある者らしいな。……気が向いた。お前の問いに答えてやろう。答えられる物ならばな」


話をする気になったらしい。命の危機からも遠ざかったと想定してよさそうだ。

私は座り直して、適当に絨毯の上に座った男の前に近付いて、相手と向き合ってから、疑問を頭の中で順番づける事にしたのだった。

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