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花瓶

作者: あるままれ〜ど

短いよ

 ある日、クラスメイトの瀬戸山が、ぽつりと呟いた。

 クラスで談笑していた他の生徒は、瀬戸山の方を一瞬見て、すぐに顔を反らす。

 外では雨が降っていて、しかし狐の嫁入りというやつか、少しだけ赤みを帯びた日光が窓から差して、彼は薄っすらと目を細めていた。

 彼の放った言葉の内容は、よく思い出せない。ただ、何となくだけど、その時の彼は力なく笑っていたと思う。

 俺はそれを気にすることなく、あっさりと聞き流していたハズだ。


 「僕が――」


 もっとも、その言葉の真意なんて、端から知る気も無いのだが。

 ただ、そんな内容も覚えてないような言葉でも、それでも印象に残ることはあった。

 確か、それを言う彼の顔には、声色には、限りのない諦念と悲哀が滲んでいた。

 それだけだ。その感情の意味を、この先知ることなんて無いのだし。

 

 「僕が、何でこんな――」


 俺はそうやって自己完結して、手前勝手に得た結論を、誰に言うでもなく嚥下した――


――で、あるならば、これはその報いであったのかもしれない。

 本当に、つい昨日のことだ。

 いつものように、家でテレビを見ていた。ソファに体を預けながら、ほんの少しの休日を満喫していた。

 外では、あの日と同じく雨が降っていて、でも曇天だった。

 雨は殊の外強くなり、外は喧騒の水音に包まれていく。

 俺が見ていたバラエティ番組もクライマックス、そんな中でCMパートに突入した。

 いつもならウンザリだとでも言わんばかりに、きっと「またCMかよ」とでも悪態をついていたハズだ。しかしそんな言葉は出ない。第一に、それはCMでは無かった。番組の途中にたまに挟まる、ほんの五分程度のニュースだ。

 ただ、それは俺を黙らせるには十分な内容だった。

 「速報です。〇〇県〇〇市のアパートで、十五歳の男の子である、瀬戸山直人くんが首を吊った遺体が発見されました。〇〇県警は、現場の状況から自殺の可能性が高いと見て、入念な調査を――」

 瀬戸山直人、間違いなく俺のクラスメイトと同じ名前だし、住んでいる場所も一致している。

 彼の訃報を聞いて、俺は酷く困惑した。 


 「僕が、何でこんな思いを――」

 

 だって、瀬戸山だぞ?春休みに入る前まで、普通に学校に来ていて、いつものようにみんなを笑わせて……そんな彼が死んだ?

 正直、実感できなかったというか、とにかく、まるで現実とは思えなかった。

 不意に、俺の中で、あの日のことがフラッシュバックする。

 あの日は、彼が何かを呟いた日。

 結局それを気にすることなく、勝手に記憶の奥底にしまった言葉――


 「僕が、何でこんな思いをしなくちゃいけないの?」


――鮮明に、彼の言葉が蘇ってくる。彼の諦念、悲哀、負の感情が一緒くたに煮詰められたそれ。

 そうだ、あの日のあの状況を、やっと思い出した。

 

 いつものように、彼はクラスメイトを笑わせていた。

 ラクガキにまみれ、虫の死骸が入れられ、濡れた汚い雑巾が乗せられ――


――そんな彼の机に置かれた花瓶には、スノードロップが飾られていた。


みんなハッピー

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