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勝者への褒美


 それから暫くして。

 蒼玉宮へと戻り、それぞれに着替えるなどして後始末をした後、夫婦の居間にて二人は顔を合わせていた。

 言いたい事も聞きたいことも山ほどあるが、シャノンが口を開く前にエセルバートが手にしていたものをシャノンに手渡した。

 それは、一冊の本だった。

 何の本か、と伺うように見つめていたシャノンは思わず叫び声をあげそうになる。

 古の名著であり、今や幻とすら言われている稀覯本であったからだ。

 頬を感激に紅潮させながらも狼狽えた様子で絶句しているシャノンに、エセルバートは微笑みながら説明してくれた。

 御前試合を観戦しに王都にやってきた古い知人から稀覯本を譲るという報せを受けた、それを受け取りにあの時席を外したのだという。

 そして戻ってきたら、ロバートがシャノンに暴言の数々を浴びせていたというわけだ。

 むしろそのまま警備兵の剣を奪って切りかかりかけた、とエセルバートは口の端を引き攣らせながら言う。

 シャノンが、文武両道とは聞いていたがあれほどまでとは、と控えめに伝えたものの、エセルバートは静かに頭を左右に振る。


「最近訓練の時間が減っていたから、大分鈍ってしまっていた。俺など、王国一の使い手に比べたらまだまだ足りない」


 あれで『まだまだ』とは、とシャノンは愕然とする。

 エセルバートが相当に優れた剣の腕を持つのは疑いようがない。その彼が比べ物にならない、とまでいう王国一の使い手とは。

 気になることが増えてしまった、とシャノンは内心呟いた。

 だが、エセルバートがシャノンの為に稀覯本を手に入れてくれたのは確かである。

 礼を伝えると、嬉しそうな満面の笑みを浮かべていたエセルバートが何か考え込んだ。

 そして口を開くと、ある願いを伝えてくる。


「褒美が欲しい。試合の勝者には勝利の女王から冠が授けられるだろう? 冠代わりに褒美が欲しい」

「……むしろ、これでは私がご褒美を頂いた状態では」


 渡された貴重な書を手に、シャノンは怪訝そうに呟く。

 冠の代わりとなり得る褒美など、自分がこの方に差し上げられるのだろうか。

 本を手にしながら迷い思案するシャノンを見て、エセルバートは少し悪戯っぽい光を宿して微笑んで。


「読んで聞かせてくれ」

「え……?」


 そう言って、エセルバートは大きく身動きする。

 一瞬、シャノンは状況が理解できなかった。

 目を瞬いて返す言葉が紡げないでいるシャノンの膝に、頭を乗せて長椅子に横になったのだ。


「エ、エセル様……⁉」

「シャノンが、それを読んで聞かせてくれ」


 戸惑いと恥じらいを滲ませるシャノンの翠の瞳を見上げながら、エセルバートは微笑む。

 優しさと甘さに満ちた眼差しに、思わず頬は紅く染まり、言葉は上手く紡げなくなってしまった。

 けれど、せがむ声が何故かとても懐かしくて。

 見上げる微笑みが、とても輝いて見えて。

 少しの間戸惑っていたけれど、シャノンは静かに頁を捲ると穏やかな声で綴られた物語を読み上げ始めた。

 満ち足りた表情でエセルバートはそれを聞いてくれている。


『シャノン、また本を読んでくれ!』


 不思議に温かな時間に、シャノンの耳には過ぎた時の声が聞こえた気がした――。

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