レイズさん
「あなたは、どうしてこっちの世界に来たの?」
薄暗い空間で、知らない女性と話していた。
恐ろしく美人だ。
黒い長い髪、青い、バツの模様の入った灰色の眼、高い身長、赤い髪飾り。
そして、壊れたランクSの階級時計を首に下げている。
なんと言うか、カルテに似ている気がする。
「友人を庇って、ビルの下敷きになったらしいです」と答えた。
「そっか…それは、格好いいね。」
とても優しそうな話し方をする人だ。
俺は、茶色の木製の椅子に座っていた。
ひんやりとしている椅子だった。
下をみると、どこまでも深い深淵がある。
椅子の足に接する部分から、同心円上に波が広がっていく。
海の上にいるらしい。
海には、空に輝く星が写っている。
ぼんやりと眺めた後で、
「あの、」と俺は言った。
「ここは、どこですか?」
「ここ?ここは私のスキルで作った君の中の私だけの空間。」
「あなたは…一体?」
思えば、こっちを先に聞くべきだ。
「私は、レイズ。カルテの姉、と言っておくわ。」
「ああ、やっぱり。なんとなく似ています。」
俺がそういうと、彼女はにっこりと笑った。
「嬉しいわ。あの子は元気にしているの。」
「ええ。まあ。」
と俺は答えた。
「…彼女のことは、残念だったわね。」
とレイズさんが言う。
13番のことだ。
「好きだったの?」
と聞かれ、俺は「わかりません」と答えた。
「でも…俺はあの黒いフードを許せない。絶対に殺します。そのためにもー
俺はSランクになります。」
誰かを守るためでも、国を守るためでもなく。
俺はあいつを殺すため、Sランクにならなければいけない。
そう決めた。
「そう…。ところであなたに一つ聞きたいことがあるのだけどー」
「はい?」
彼女は俺に近寄って、俺の顔を覗き込みながら言った。
「○○○○○○○○○○?」
「それは、なんで!?」
と叫びながら俺は起き上がった。
起きると、ベッドで寝ていた。
といっても、研究所ではないらしい。
あたりをキョロキョロすると、1人の女の子がこちらを訝しげに見ていた。
「どうしたんですか?悪夢でも見たんです?」
俺は黙っていた。
「まあいいや、アズリールさん呼んできますね。」
そう言って、彼女は部屋を出て行った。
ここはどこだろう、と思いながら俺はもう一度ベッドに倒れ込んだ。
魔法、スキルは正常に発動する。
ポケットを探る。CR-998は取り上げられていた。
そして、あのイヤリングも同様に取り上げられていた。
天井を見上げながら、夢の中でレイズさんが言ったことについて考えていた。
少しして、ドアが開いて、アズリールさんが入ってきた。
「おはよう、12番君。」
相変わらず笑っている。
「おはようございます。」
と俺はベッドに寝転がったまま言った。
「どう?気分は。」
「ええ、まあいいです。」
「それはよかった。立てる?」
「はい。」
俺はベッドを降りた。
「じゃあ、ついておいで。」
彼女はそういうと、ドアから出て行った。
俺は慌てて追う。
アズリールについていくと、一つの部屋があった。
「ここ、今日から君の部屋ね。」
「え?」
俺は驚いた。
「あ、そうそう言うの忘れてた。
ここは軍部第0部隊の本部。
他の第0部隊の人もこの建物に住んでるよ。
もちろん私も。」
俺は、もう一度部屋を見回した。
1人で住むにはかなり広い部屋だ。
本棚、机、食器、ベッド…生活に必要なものは粗方揃っている。
「じゃあ私は戦線に行ってくるからー」
そう言ってまるでコンビニに行くようなノリで彼女は部屋を出て行った。
「あ、そうそう」
出て行ったあと、すぐに帰ってきた。
「これ返しとくけど、使っちゃダメだよ!」
そう言って俺に何か放り投げてきた。
みると、あのイヤリングだった。
とりあえず、自分の部屋でゴロゴロしておくことにした。
その時、ふっと後ろを見た。
人がいた。
黒い髪、オレンジの眼、白い肌ー
そこまできて気づいた。
これ俺じゃん。
鏡に自分の姿が映っていただけだった。
そういえば、この世界での俺ってこんな見た目だったな。
研究所でもらった武器をいじりながら、この先のことを考えていた。
どうもアズリールさんの話を聞く限り、俺もそのうち戦線に出されるらしい。
それより問題なのは、どこの国と戦争しているかだ。
この世界には12の国があり、このミレスネア共和国は一応第二位の軍事大国だ。
当然、戦線で戦うAランク以上の魔法使いも多くいるはずだ。
俺が呼ばれたのは、おそらく帝国を倒すため。ただそのためだろう。
おそらく、俺はしばらく戦線には出されない。
まだSランク「候補」であり、実際の実力はせいぜいBランク程度。
先の戦いだってレイズさんの力を使わないと間違いなくアズリールさんに潰されていた。
ま、気長に頑張りますかね。
俺がそんな勝手なことを考えていると、
「ガラガラガララララ」と言いながら、入ってくる人間が現れた。
間違いなく狂人だろう。
同い年くらいの女子だった。
「あ、やっぱりここにいたんだー。
待った?」
「え?会ったことあります?」
「ところでスキル教えてもらっていい?魔力操作?」
「?????」
俺はあまりに話が通じなさすぎて困惑した。
「あ、そうそう。私は万年Aランクのスカメギア=レイビア。アズリールさんの部下。あなたは12番?」
「え?なんで知ってるんですか?」
「勘。」
勘で当てられるわけがない。大方アズリールさんが言ったんだろう、と思っていると、
「いや、多分本当に勘だね。」
頭に声が響く。
俺は驚いた。
レイズさんだ。でもイヤリングをつけていないのになんでいるんだろう。
「私はもう君の中にすでに住み着いてしまったんだよ。それで私は君とこうして話すことはできるよ。ただ、この間みたいに戦闘を代わったりすることはできない。」
そうですか。で、なんで勘だと思うんですか?
「この子、私がいることまでわかってるみたい。さっきからこちらをじろじろ見ながら、ポケットに入れた手を抜かない。ポケットから異質な魔力が流れ出てる。おそらく武器だけど、同僚に会いに武器を持ってくるやつがいるかな?それにさっきから会話の情報が全て確定しているわけじゃないみたいだし、「万年Aランク」と言っている。これらから考えられる彼女のスキルはー」
レイズさんが言いかけた時、レイビアさんは言った。
「私のスキルは「第六感」。相手の次の行動、場所、見えない道、弱点、名前、年齢、スキル、暗号、魔道具効果、罠などを予感する「ことがある」。」
読んでくださってありがとうございました。