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異世界の戦争学  作者: AO
7/15

敗北



目を覚ますと、13番の不安げな顔があった。

カルテとアズリールさんもいる。

「…おはよう」と俺が言うと、

「ああ…良かった…」

という声。

「心配したよ全く!」

と13番が言い、

「合格おめでとう」とも言ってくれた。

「ありがとう…お前は合格したの?」

と聞くと、

「ああ、私?私は別の試練をクリアしたから。」

と言っていた。

「多分、13番が試練を突破して、外に出れるようになったからお前はもういらないって言うことで、あんな無理難題をお前に押し付けたんだろ。金もきつかったしな」

とカルテが言った。

「でもお前はよくやった!よくやったよ!」と言って、背中をバンバン叩かれた。

「いや、危なかった。本気で殺してないか心配してた。」

とアズリールさんが言って、心底安心したようにため息をついた。

「これで私たち、やっと外に出れるね!」

と13番が嬉しそうに言った。


次の日。

アズリールさんも、カルテもいなかった。

13時まで会議に出ているらしい。

研究者たちが、次々に俺たちを訪れてはおめでとうを言った。

「いやー本当に、アズリールさんが相手と聞いてもうダメだと思ったよ。」

と研究者たちは口を揃えて言う。

「いやー、死にかけましたねー。」

と俺は笑った。

そんな時、

「ねえ、12番…」

と13番が俺に話しかけてきた。

「何?」と言うと、

「これ、あげる」と、俺に包みを渡してきた。

「何これ?」

と言って開けると、一本の杖が入っていた。

俺はそれを眺めた。

「その杖は、ある特殊な効果を秘めてるんだが…まあ今度教えてやるよ。」

と研究者たちがニヤニヤ笑いながら言った。

思えば、13番とはもう一年一緒に過ごしたのか。

早かったな、などと思っていた。

「ありがとう」と言い、俺は腰に差した。


研究者がもう全員帰って行った。

12:50分ごろ。

俺は本を読んでいた。

「ねえ、12番…。」

13番が声をかけてきた。

「これからもよろしくね?」

と言って、照れたようにニッと笑った。

可愛い。

俺は少し間を開けて、

「ああ。よろしく。」

と答え、笑い返した。

えへへ、と13番は笑っていた。

そしてお互い俯いた。

その時。

「ふーん。いちゃついてんじゃねーぞ」

という声がした。

「あ?」

誰かに見られていたのか、と俺は焦って上をみた。

13番も顔を赤くして上をみた。

全身が真っ黒でフードを着た、謎の人物がこちらをみていた。

フードには、顔が、間抜けな顔が描かれていた。

「誰だお前?」

と言うと、

「…………」

黙っていた。

次の瞬間。


大きく13番が後ろに下がる。

俺が黒フードを攻撃しようと襲いかかると、もうそこにはいなかった。

俺たちの遥か後ろにいた。

恐るべき速さだ。

アズリールさんにも引けを取らない。

「食らうしか…ないよね?」

そう言って、ニヤッと笑ったように見えた。

背筋が凍る。

全身が警告する。

こいつ、危険だ!

凄まじい密度の魔力領域。

アズリールさんのような圧迫感を感じる。

黒フードが手を挙げると、空間にピッと線が入り、口のようにグパアっと開いた。

いや、口のようにじゃない。牙が並んでいる。真っ赤な舌が並んでいる。

それがいくつも空間中に浮かんでいる。

ガチガチ、と歯噛みする音。

魔法ではない、スキルだ。

しかもこんな特殊なスキル…

全身がぞっとした。

まさかこいつ…

「まあ、避けれないよね。私はSランクだもん。」

聞きたくなかった発言。

Sランク!?世界に8人しかいないはずだ。

だがそんなことを考えている場合ではない。

あのイヤリングは今持っていない。

武器も取る暇がない。

二人とも避けるだけでギリギリだ。

13番の「空間切断」で攻撃しても、「口」は切れない。

一瞬でも気を抜いたら、自分の側に「口」を作られ、食われてしまう。

攻撃しようにも、「口」で防がれてしまう。

そんな時。

「痛っ」

13番の悲鳴が聞こえた。

みると、腕が片方なくなっていた。

俺は頭が冷えていくのを感じた。

「あれ?もう片方まで何分かかるかなあ!?かかるかなあ!?なあ!?」

俺の中で、何かが崩れていくのを感じた。


目の前が白くなっていく。

殺す。殺す。殺す。殺す。

不思議だ。なぜか懐かしい。

全身を、魔力が下から上へと流れ満ち満ちている。

アズリールさんと戦った時を思い出せ。

魔力を凝縮。

魔力領域を波立たせ、一本の剣のようにして。

斬る。

「口」が全身を食っているのが分かる。

でも気にしない。

すぐに治して。

斬る。斬る。ひたすらに斬る。

「口」ごと斬る。

ほら、あと少しで本命だ。

ふざけた顔が必死そうな気がする。

上から振り下ろすように、高く持って。

その時、首にガツっと噛みつかれて、俺は正気に返った。

ゲホゲホゲホと血を吐き出す。

うえっ、うえっ…

13番は?

右腕を食いちぎられただけか。

まだ生きてる。良かった…。

「惜しかったね。」

ぜー、ぜー、と息を吐く音が聞こえる。

「口」が迫ってくる。

13番の叫び声。

その時。

「よく頑張った!!!」

と言う声。

「口」を一撃で切り伏せ、フードの腹に剣を突き立てた。

アズリールさん。激怒しているらしい。全身から今までの比にならない魔力量が放出され、近くにいる俺は圧死しそうだ。

「さあ。死んでもらおうかそこの古着!!」

とアズリールさんが言った。

「はあ…じゃあ帰るか…」

と黒フードが呟く。

が、その顎に思い切りアズリールさんの蹴りが直撃し、後ろの壁まで吹き飛ばされた。

「お前のスキルは割れてんだよ!スキル「万物捕食」!空間中に口を作り、そこからあらゆる物を捕食するSランクの魔法使いだな!!下品な下郎だ!!」

「ギャーギャーうるせえな。まあ、私は帰ー」

べきっという音。肋骨が確実に何本か逝ったに違いない。

が、俺からしたらそんなことはどうでも良かった。

もっと凄惨な光景が俺の前に広がっていたからだ。

魔力が唸っている。

電撃が走った。部屋に大きな亀裂が走り、床がバキバキに割れた。

黒フードは全身が赤くなっていた。流血のせいだろう。

「ちっ…」といい、そのままふっと消えてしまった。

「あ?どこ行きやがった?」

とアズリールさんが言った。

俺は一切聞いていなかった。

「なあ、あいつー」

後ろを向いたアズリールさんも絶句した。

そこには、真っ二つにされた13番の遺体が残っていた。

「…嘘だ。嘘だ。嘘だ。」

俺はなんども呟いた。

アズリールさんは何も言わず、拳を握っていた。

俺は、そのまま倒れた。

アズリールさんが近寄ってくる。

視界が狭まる。

ヒロインが死んだってマジ?

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