表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の戦争学  作者: AO
6/15

試練





「オエッ…」

口から血がボトボトと落ちていく。

立ち上がることができない。

みると、足がちぎれて踵から先がなくなっていた。

ハア…とため息を吐く。

ぼやけてよく見えないけど、アズリールさんがこちらに歩いてきている。

耳がもう聞こえない。

俺は黙って、前を見ていた。

空閉剣は、アズリールさんの攻撃で折れてしまった。

動体グラスも、右目の分は落ちて、割れてしまった。

ガン、という音がした。

目の前が真っ暗になる。

何が起こったのかすらわからない。

もう痛覚さえも消えてしまったようだ。

ただ、おそらく自分はいま倒れている。

うっすらと、アズリールさんの靴が見える。


朦朧とした頭で、考える。

今、カルテはどんな顔をしているんだろう。

2ヶ月程度の付き合いだったけど。

カルテ?そういえば…

俺は、ほとんど動かない指でポケットの中を探る。

カルテからもらった、このイヤリング。

何のために貰ったんだろう。

俺は、イヤリングをつけた。

カチリ、という音がして、金属が耳を挟む。

その冷たさで、少し意識が戻った。

ん?

霧が晴れるように、頭が冴えていく。

アズリールさんの足音が聞こえる。

足はもうないけれど、立ち上がれた。俺は、再び構える。

視界が赤い。

アズリールさんの、驚愕の表情がよく見える。

なんだ、これ。

俺はー

「どいて。」


「うわ…すげえな。」

隣で、リロードが感動して言う。

俺は、こくり、と頷いた。

「あいつがお前の姉貴かあ。

さすが、元Sランク、凄まじい実力だぜえ!」

12番の眼は赤く染まり、全身をとてつもない量の魔力が渦巻いているのがこの距離でもわかる。アズリールに少しも引けを取らない、凄まじい気迫。とてもさっきからは考えられない。

アズリールの剣撃をかわし、銃を放つ。

アズリールが防御の為距離をとったら、背後に回る。

そこからの奇襲。

アズリールの体勢を崩したら、移動地点を予測して発砲。

それをかわされたら、「魔力操作」で攻撃。

以前とは雲泥の差だ。

「姉さん…」


対Sランク用戦闘AI「レイズ」

ランク:S

全長:12cm

備考:元Sランク魔法使いフレミラ・レイズの遺体を元に作られたイヤリング。

6番目の戦闘用AI。

装着者は一時的に思考、感覚が彼女と入れ替わる。



俺は、何もできずにただ、自分の体が動くのを感じた。

さっきまで全く見えなかったアズリールさんの動きを捉えられる。

足に走る激痛を、腰に走る激痛を、耐えながら。

自分の魔力領域がうなり、荒れた海のように騒いでいる。

全身に魔力が満ち溢れ体の周りを魔力が回る。

グルグルと魔力が集結して、斬撃となって飛んでいく。

信じられない。自分のスキルにこんな使い方ができるなんて。

魔力が集結し、一本の剣となって俺の右手に集まった。

大きな、剣。

アズリールさんは、俺を見つめながら驚いたような顔をしていたが、

少しして笑った。

俺は走り出す。


「凄まじいね…。これがレイズの力か!」

アズリールさんがこちらを斬りながら言う。口元には、激情を含む笑いがあった。

「さすが元Sランク。でも、それで私を斬れないのはまずいんじゃないですか!?」

アズリールさんが、いつにない様子で挑発する。

「私は、」

誰かが俺の代わりに喋る。

「あなたを斬れない。あなたを斬ったら、カルテが悲しむもの…」

「相変わらず、優しいんですね…」

アズリールさんの蹴りが、俺の顎にクリーンヒットした。

「魅せてくださいよ!本気のあなたを、今、私が潰してみせますから!」

「それにね。私が斬っても意味はないもの。この子があなたを切らなければ。」

アズリールさんが地面にパンチをして、闘技場全体に衝撃がはしる。

闘技場が割れ、俺は大きく後ろに下がった。

アズリールさんの突撃をかわし、電撃棒を地面に叩きつけ、へし折る。

「それはそうと、あなたも随分成長したわね。

ええ…あの日私にボコボコにされた雑魚の面影は、もうないわね。」

アズリールさんが、俺につかみかかり、彼女の腕が右目を貫通した。

俺は剣を振る。

離れたアズリールさんを捕捉し、彼女の拳を掴んで銃を突きつけー

ようとしたら、後ろに移動された。

横からくる蹴り。

横に大きく跳ね飛ばされる。

「あなた、もう…」

俺は空中で回転し、うまく着地をする。

そのまま、突撃。

剣を抜いて、アズリールさんに襲いかかる。

アズリールの焦ったような表情。

左手を握り潰されたが、構わず剣で突き立てー


俺が次の瞬間見たのは、地面だった。

地面に倒れたまま、起き上がれない。

剣が消えていく。

ゲボッと言う音と共に、先ほどとは比べ物にならない量の血が噴き出た。

まずい、早く立ち上がらなければ。

アズリールさんの攻撃が来る。

なんとか体を動かそうと思うが、ぴくりとさえ動かない。

ぐい、とアズリールさんに首を掴まれた。

メキメキ、という音がして、首がちぎれる!

俺は、必死に彼女の腕を掴んだ。

ギリギリと彼女の腕を握る。

が、彼女の力は少しも弛まない。

腕を離し、彼女の左目を貫こうと手を出すが、

もう片方の手で抑えられた。

俺は意識を失いかけながら、「魔力操作」で、魔力を一点に放射した。



アズリールさんは手を離した。

俺はその場に崩れる。

ダラダラ血が口から溢れていく。

彼女の顔をみるとー


眼に穴が空いていた。

「被験者の試験は終了しました。合格です。」

アズリールさんが俺を抱き寄せながらそう叫ぶ。

「信じられん…」

という声が聞こえた。

もう名前は忘れたが、最高司令官がそう言ったらしい。

カルテがこちらに走ってくるのが見えた。

俺は、重い瞼を閉じた。

「よかったね」

女性の声だ。

アズリールさんではない。

「私の力を使ったとはいえ、十分、よくやったよ。これからもよろしく。」


読んでくださってありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ