練習
しばらく暗い通路を歩くと、広い部屋に抜けた。
部屋の奥には的のようなものがいくつも置かれている。
部屋の壁には、大量の銃、剣、槍、弓がかけてある。
俺はそのうちの一つを手に取った。
カルテが話し始める。
「この世界では空気中に魔素っていう物質が充満している。人間のような特定の物質に魔素が流れると、その抵抗で魔素を魔力に変換して空気中に放出するんだ。
この性質を持つものを魔道体という。
電球に電子が流れると抵抗で光るだろ?それと同じ原理だ。
その魔力を放出できる領域…魔力領域内で起こる超常現象を魔法と言う。
魔法にはいろいろな種類があるけど…電撃、炎、水、浮遊、風、映写が代表的かな。」
そういうと、カルテは右手を出した。
次の瞬間。
炎が彼の手から射出された。
すごい言う音がして、一瞬光った後、的が木っ端微塵に割れた。
「………」
想像以上に爆風がすごくて、髪がヒラヒラ揺れた。
「お前も慣れればできるようになるよ。ちなみに、魔力領域は自分で大きさを調節できるから。」
とカルテが言う。
「あと、魔法とは別に「スキル」と言うのもある。
これは先天的に肉体に刻まれたもので、魔法とは少し違い、魔力領域外でも発動可能、通常の魔法には見られないような特殊な能力のことが多い。ただ、スキルによる防御は魔力による攻撃を防げない。同様に、魔力による防御はスキルによる攻撃を防げない。」
「ほーん。」
俺が銃を適当にガチャガチャしているのを、カルテは呆れたような目をしながら続ける。
「おまえの今いじってるのは「魔道具」。魔道体で作られた特別な武器で、魔力を含む。
銃、剣、弓、杖、槍の5つが代表的なもので、流通の80%を占めてる。」
カルテは俺の手から銃を取り上げた。
「お前の肉体にも一個スキルがつけてあるから、まあ慣れれば使えるようになるよ。
ところでなんでお前が呼ばれたかって言うと、うちの国が戦争中なの。」
そう言うと、前の壁に映像が映し出された。
「これはこの世界の12の国の軍事力を表したものだ。
第二位がうちだな。今戦ってるのは第4位の国、アレメロギア帝国というところだ。」
俺はあれ?と思った。国の名前の横に、数値が書いてある。
第二位、ミレスネア共和国。軍事力209456。
第三位、ゼレス国家連合統治組合。軍事力145889。
第四位、アレメロギア帝国。軍事力128646。
大体六桁だ。
対して、
第一位、ペルセフィアーノ軍事帝国。軍事力3599234。
「…高くね?」
そう呟いた俺に、カルテが頷く。
「そう、この国の軍事力は第二位とは言え、一位に比べ圧倒的に遅れをとっている。
今はある理由でじっとしているが、この百年ですでに国を4個地図から消している。
この世界の戦争って1人強い魔法使いがいれば一瞬で戦況ひっくり返るから、とにかく強い魔法使い、特にスキル持ちの魔法使いが欲しいわけ。
そこで俺たちは強い魔法使いを「作る」ことにした。
スキルは遺伝子に依存するから遺伝子系を操作するスキルで新しくスキルを作って、肉体も準備したけど、魂がないと動かない。
そこで適当にいろんな世界を探してたらお前の魂が浮いてたからこっちに持ってきた。」
俺は銃を元の通り掛け直して、彼の言葉を反芻する。
そして、まさか、と思った。
「え?つまり戦争に参加しろってことですか?」
「ん?うん。まあ君がどのくらい強くなるかによるけどね。」
「嫌なんですけど。」
俺は即座に断る。まさか異世界に来てまで人殺しをさせられるなんてごめんだ。
「拒否したら殺されるからやめといたほうがいいとおもう。」
「は?」
俺はてっきり、学校とかに入れられるのかと思ってたのだが、どうもそんなことはないらしい。
「それじゃ、まあそう言うことだから、さっさと魔法に慣れて、スキルも使えるようになって、ここを出て実際の戦争に参加してもらうから。
まあ、戦争つっても、君が戦うのは超上位魔法使い達だから人を殺すことはないよ、多分。」
俺がふっと安心した、その時。
「それならいいやって安心した?」
という声がした。
俺たちの後ろに、一人の美少女が立っていた。
白髪で、橙の目をしている。
「彼女は「13番。」
君と同じく、地球出身の人だ。
彼女は君の数日前に起きたよ。」
一週間後〜
「ああああああああああああああ!」
俺は絶叫していた。
「どしたの?話聞こか?」
カルテがぶん殴りたくなるくらい腹立つ顔でこちらを見ている。
あれから一週間。
ここでの生活は意外と快適だった。
朝6時、起床。
その3秒以内に魔力を解放しないと感電死する仕組みがあるため、恐ろしい緊張感と速度でスッキリ起床できる。
その後朝食を取ったら、魔法の練習、スキルの練習、魔法学、魔杖学、薬草学、暗号学、魔法陣、魔法科学、地理、戦争基礎、剣術、銃火器の使い方、魔道具の扱い方、etc…とにかく魔法の戦闘の知識、経験を収集。
それぞれ専門家みたいな人が来て、教えてくれる。
13番と一緒に勉強しているが、俺より彼女の方が頭がいいようで、なんでも覚えた。
「こんなのもわからないの?」と言ってくるが、事実なので何も言い返せない。
この世界の戦争における役割は、大体「魔術師ランク」というもので決まる。
ランクはF〜Sまであり、各々の出せる最大魔法出力、魔道具に対する知識、体術、スキルなどによって決まる魔法使いの強さの指標があるのだが、これがAランク以上のものが戦線で敵国の強力な魔法使いを倒し、国の軍隊(F〜B)が都市を制圧、という流れをとる。
だから、どれだけ軍の数が多くても強力な魔法使いがいない国は滅びてしまう。
特に、魔法使いランク「S」は世界各国合計で8人しかいない。
彼らは、とてつもない魔法出力、深い知識、そしてチートスキルを兼ね備える絶対的な強さを誇る魔法使いだ。
「俺らはね、お前らになってほしいんだよ。9人目、10人目のランク「S」に。」
カルテはよく俺らにそう言った。
「舞台は整っている。十分に到達しうるスキル、肉体を与え、知識、経験をさせるために俺らが派遣された。
お前らがランク「S」になれば、一体何人の命が救えるか…」
確かに、俺だってランク「S」になりたい。
もう地球に帰ることもできないのだから、もちろん最高位に到達してみたい。
だが、実を言うと訓練で10回は死にかけてる。
このままでは人を救う前に自分の命が神に掬われてしまう。
スキルも完全に発動している。
カルテ曰く、俺のスキル「魔力操作(magic control)」は、「魔力を視認、魔力を自在に操り攻撃、防御に転用する」という能力。
相手の魔力領域を操ったり、自分の魔力で相手の攻撃を防いだり、相手を攻撃したりもできるようになった。
だが…カルテにマジで勝てない。
「こいつ本当にAランクか?」と疑ってしまうほど、カルテは強いのだ。
だが、13番もそれは同じだった。
彼女のスキル「空間切断」は、空間ごと相手を切断する、というトンデモスキルだが、それでもやはりカルテに傷一つつけられない。
「まあまあそう焦らずに。じっくりでいいよ。大抵の人間は相手の魔力領域がどのくらいかなんてわかんないんだから。」
「え?そうなんですか?」
「うん。一般市民はね。ただ今後君が相手することになるであろう猛者たちは相手の魔力領域くらい勘でわかるから、別にハンデという訳ではないね。でも、少しづつ進歩していることは確か。この調子で精進していけばいいよ。」
俺が戦闘に出るためには、カルテを前に気絶せず15分耐えなければいけない。
だが、そんなことは一朝一夕ではまずできない。
なぜなら、今の俺では5分も持たないからだ。
Aランクのカルテでさえそうなのだ。ランクSに到達するなんて一体いつになるのやら。
「じゃ、今日も特訓。今日は5分持たせよう。」
そう言ってカルテが椅子から立ち上がった。
俺は近くに落ちていた剣を足で掬い上げ、剣を拾い、カルテに向ける。
カルテは白衣を着たまま、黙ってスキルを発動した。
フレミラ=カルテ。
スキル「操電迎撃」
視認した物体を自動で追撃する電撃を操る。
読んでくださりありがとうございました