Aランク昇格試験 2
「…………。」
ユウは、唖然としていた。
Aランク昇格試験会場、それは多くのロボットで構成される城だった。
当然、罠も多く仕掛けられている。
だが、魔力を直接視認できる彼からすれば丸見えであり、別に脅威ではない。
それより問題なのは、
「…広すぎね?」
あまりにも広すぎる。
試験開始後10分が経った。が、彼はいまだに青焔の魔杖の魔力を感知できずにいた。
「まあ、行くしかないか…。」
彼はやむを得ず出発した。
玄関の鉢植えや下駄箱などを丹念に調べたが何もなかった。
ただ1番左の下駄箱を開けると中のマシンガン「T-32連射式固定砲台」に蜂の巣にされるのがわかっていたので開けなかった。
その後、彼は右の大きな廊下を歩いた。
道中何体かのメイドロボに会ったが、こちらに向けてぎこちなくお辞儀をされるだけ。
廊下にあった像や花瓶、絨毯などをひっくり返してみたが何もない。
やむを得ずメイドロボ二体の首を刎ねたが、透明なオイルが出てくるだけで何もなかった。
ちなみに、この廊下の右端を歩くとメイドロボに後ろから串刺しにされるのだがユウは運がよかったのか無事このトラップを回避した。
当然彼は知らないが、このトラップに引っかかって串カツの原料になった受験者も数多くいた。
「…………」
廊下に面して多くの部屋があり、中ではロボット達が宴会をしていたり、ゲームをしていたり、少しここで書くのは憚られるようなことだったりをしていた。
彼はそれを見て一瞬13番のことを思い出したが、すぐに滑稽そうにその様を見ていた。
ユウはさっきから背中がゾクゾクとしているのが分かった。
自分が何をそんなに怯えているのか?
彼は少し考えてから、すぐにその答えを得た。
この城は、こんなにも生活感があるのに生き物の気配がなく、多くの罠が仕掛けてある。
その矛盾の気持ち悪さを、彼の本能が警告しているのだ。
彼はふと、壁にかけられていた絵を眺めた。
一本の剣が、人の死体に突き刺さっている、という絵だ。
その絵が、なんとなく自分に似ているような気がして彼は目を背けた。
彼はスキルがきちんと発動しているのかを確認した。
彼は魔力領域をまず剣の形に、次に熊の人形、本、杖、薄っぺらい紙、薔薇の花、三角錐…自在に変形させていく。
その様子はまるで一種の曲芸師のようだ。
「……………。」
とりあえず1番近かった部屋に入った。
「やあ、ご機嫌よう」
と紳士服を着たロボットがいう。
「ご機嫌よう。」
ユウも返す。
それだけである。会話は終了した。
部屋の中には、ベット、時計、飲み物…大したものは無い。
彼は部屋を出て、すぐ隣の部屋に移った。
そして驚愕した。
全く同じ部屋だったのだ。
中にいる人、いやロボットは違うけども。
3時間後。
彼はイライラし始めた。
一旦、無人の部屋に入って心を落ち着ける。
怒れる理由は、なんとか全ての部屋を回り切ったはずなのに、見つからなかったからである。
ベットにモフッと倒れこみ、寝っ転がる。
「見落としてるよ…」
レイズさんがそう告げる。
が、彼は聞いていないようだ。
その時。
氷点下のゾッとする気配を感じて、彼は飛び起きた。
「…………これは…」
レイズさんがそう呟き、ユウは剣の柄に手をかける。
知っている。この魔力。
奴だ。脳内思考回路が凄まじい勢いで冷えていく。
ふっと、脳内が真っ赤の染まる感覚を思い出した。
そして、目の前に浮かび上がった。
自分の目の前で絶命した、あの人の姿が。
彼は剣を抜き、ドアを開けた。
慎重に、慎重に階段を降りていき、大宴会場に入った。
その先にあったものはー
数多のロボットの残骸の上に座る、黒い悪魔の姿であった。
「やあ、ひさしぶり。少し強くなったかな?」
読んでいただきありがとうございました。