昇格試験1
ユウは、困っていた。
Aランク昇格試験のため帝国首都、ベルエスに来たのだが…
(治安悪すぎね?)
そこら中でスリだの暴行ーだのが横行している。
まるでこの世の終わりだ。
「気をつけなきゃねー。」
彼の案内係として、メルカ、オルカ姉妹が来ていた。
現状ベルエスに来て3時間。メルカに痴漢しようとして半殺しにされたのが8名、ユウのポケットから財布をスろうとしてボコボコにされたのが4名、オルカが暴行されている人を助けようとして使った魔法の誤爆によって消し飛んだのが結構な数、という具合だった。
そしてこれだけ暴れても一切警察が来ないのだ。
思えばパスポートを確認された記憶もない。
どうも貴族階級以外にならなにやってもいいらしい。
「ねえ、オルカ。あなたその魔杖使うのやめた方がいいんじゃない?」
全くだ、とユウは同意した。
彼女の持つ魔杖は「暴食の魔杖」というSランク上位の魔道具だ。
「暴食」という特殊魔法が組み込まれている非常に危険な代物で、さっき少し彼女が魔力を流しすぎただけで建物がいくつか消え去った。
「暴食は強いよ。実は元々私の私物なんだけど、ミスったら一国が滅びかねないから
内部構造を変えて威力を1/10以下にしたんだよね…。」
とレイズさんが言っている。
一方、メルカの持つ杖は「正義の魔杖」というこちらもSランク上位の魔道具。
だが、彼女は何故かほとんど使わない。
「試験会場どこ?国立武道館?」
「うん。」
「そう、じゃあ頑張って。私たちは試験終了まで商店街を見回ってる。
終わったらホテルに集合ね。」
メルカはそう言って、くるりと方向を変えて歩き出した。
「ここが国立武道館か…」
ユウは、大きな円形の建物の前にいた。
ベルエスは中世ヨーロッパのような外観をしているが、ここは特に古そうだ。
長い年月をかけて建物そのものが一つの魔道具のようになっているらしく、巨大な魔力領域を有している。
魔力結界を自動で展開する装置や、護衛射撃機、アンチマジック、マジックスプリンクラー、召喚機など防衛システムをいくつも内装されているらしい。
ユウは中に入った。
受付で推薦書と階級時計を提示して中に入る。
中には30名程度の男女がいた。
おそらく大半が帝国人だろう。
ユウは、書類のさっと目を通した。
Aランク試験概要
試験内容
時間制限内に空間内から「青焔の魔杖」を持ってくること。
「…それだけ?」
ユウはそう呟いた。
が、すぐにはっとアズリールさんの言葉を思い出した。
「気をつけるんだよ。
向こうには「Red cane」っていう塾があるんだけど、そこの塾生とにかくやばいことで有名だから。
まあその対策として2人を付き添わせてるんだけど…。」
気を抜いてはいけない。
どうヤバいのかは知らないが、彼女がヤバいという時は「死ぬかも」を意味する。
ペチペチと頬を叩く。
そして武器を揃える。
いつも通り、「ミルカスタス-4」
それに加えて、アズリールさんがいくつか彼に武器を与えている。
「動体グラス10000」 周囲の動きを10000倍に知覚。
「LBR-444」CR系列の銃より軽く、撃ちやすく、射程が長いが、ダメージが少ない。
「救命糸」傷を縫うと患部を止血する。
そして、杖。
真っ赤に染まっている。
血だ。13番の。
彼女が死んでもう数ヶ月経つ。
この杖には何の魔法も組み込まれていない。
だが、どうしてもユウは何かあるような気がしてならなかった。
そして戦闘用AIである「レイズ」。
この6つを所持していた。
「Aランク昇格試験は私を使わなくても突破できると思うよ。」
そうレイズさんが言うが、アサツユは嫌な予感がしてならなかった。
そして、試験が始まった。
試験開始、という合図の瞬間。
彼らは異空間へと飛ばされた。
そこでユウを待ち受けていたのはー
数多のロボットの城だった。
一方その頃。
ヴェルノはレイビアに過去を話し終えた。
「それはそうと、あいつら大丈夫なのか?」
ヴェルノはアズリールに聞く。
「そうだね…まあなんとかなるでしょ。
Aランク試験は。」
「そうじゃなくて。帝国の連中が世界に14本しかないSランク魔杖を持っている人たちを見逃すとは思えない。」
「うん。でもレイズさんもいるし。何より…あいつもいる。」
アズリールは信じることにしていた。
彼女の旧友を。
「任せてよ。アズリール。」
帝国首都、ベルエスの市街地。
1人の女性が、そう呟いた。
彼女は少し遠くに見える国立武道館を見た。
そして、彼女のすぐ目の前の双子を見た。
「この子が…私たちのところまで来るのね。
かわいそうに…。」
彼女の名は、メリア=ローレンス。
世界最恐と称される、魔法使い。
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