憂鬱
戦争がひとまず終わった。
アレロメギアは全面的に併合された。
めでたし、めでたし。
とはならない。
むしろ今回の戦争でいよいよ帝国が動き出した。
もし帝国と戦うことになったら、とてつもない犠牲を払う必要が出てくる。
アズリールは、第0課本部の最深部の自室で悩んでいた。
課長にしては簡素な部屋だ。
そこそこ豪華な模様の家具が一式あるだけで、贅沢と言えるほどの贅沢ではない。
全課長の中でおそらく彼女が二番目に質素な生活をしているだろう。
「正直戦争したくないんだよねー。あの国とは。」
アズリールは頬杖をつきながら考えていた。
「全くだ。勝てるかわからないし、何人死ぬか分かったもんじゃない。」
横の男が言った。
ヴェルノだ。
違う国の軍人がこんなに滞在していていいのだろうか?
「でも、向こうはおそらく仕掛けてくるでしょう?」
レイビアがお茶を淹れて持ってきた。
メイド服を着ている。決して彼女自身の趣味ではない。
「帝国陣営のSランク相当の魔法使いの数は?」
アズリールはヴェルノに聞く。
「俺が考えるには…」
ヴェルノは指を4本立てた。
「4人か。」
「40人だ。」
アズリールはため息をまた吐いた。
「本当、めんどくさいなあ…」
実はSランクになるためには複数の厳しい条件がある。
一 3名以上のSランクの推薦を受けること。
二 8個以上のSランク魔道具を所持していること。
三 魔眼を所持していること。
四 スキルの危険度が「特別警戒」に指定されること。
この条件を満たして、初めてSランク昇格試験を受けられる。
だから、単純な実力だけならSランクに匹敵するものは何人もいる。
特に四つ目の条件は満たせないものが多い。
スキルの危険度は、国際スキル委員会によって「注意」「危険」「警戒」「特別警戒」「排除」の5段階に分かれている。
歴代で「排除」に指定されるスキルを所持していて殺されたものは一人しかいない。
「うちでその条件満たせるのは…「F」だとユウ、レイビア、オルカくらいかな…
まあ、頑張るか…。」
アズリールは息を吐いた。
「アズリール。」
ヴェルノは厳しい目で彼女を見た。
彼の目が青く輝いている。
「スキルを進化させるなよ。
本当なら国際スキル連盟はお前を殺したくて仕方ないんだから。」
ヴェルノの魔眼、「拘束の魔眼」。
発動中、彼が注視しているものに発言内容を強制する。
だが、アズリールに効果はない。
彼女の魔眼「畏怖の魔眼」は、あらゆる魔眼を無効化するからだ。
「まあそうだね。とりあえず、私たちの味方は誰がいるのかな?」
アズリールはヴェルノに聞く。
「まずはお前ら、ミレスネア共和国。
そして俺たちモルトース神聖王国。
お前の父の母国、悪魔の国。
軍事力3位のゼレスも協力してくれるだろう。
アレロメギアは滅ぼした。
あと、レイナ連邦にも同盟依頼をしよう。あいつがいる。」
「で、敵はそれ以外、と…。」
「軍事力指数的には相手がこちらの1.5倍くらいだが、Sランクの数はこちらが4名、相手も4名。同じだな。」
だが、ヴェルノもアズリールもわかっていた。
勝ち目がない、と。
Sランクは自分たちで相手すればいいが、他の40人近くのSランク相当をどうするか。
帝国のアホくさいほど広い領地をどう占領するか。
帝国が出してくるであろう生物兵器、化学兵器などの殺略装置をどう処理するか。
とりあえず、通常兵器で負けることはほぼないだろう、とアズリールは考えていた。
強力な魔道具の大半は彼女が保管しているからだ。
「それと…もう一つ不安要素が。」
ヴェルノは言う。
「対Sランク用戦闘AI。アレを作る技術が帝国に流出しているらしい。」
アズリールは頭を抑えた。
「本気で言ってるそれ?」
「ああ。こないだアーガットと戦ったとき、彼女もアレをつけていた。」
「…最悪。何番?」
「5番。」
「ああ、ならまだマシかな。これで2番だったら終わってた。」
「ところで、アズリール。
もしかしてユウ君に6番を渡したのか?」
「うん。そうだけど。」
「いいのか?あの人を渡して。」
「まあ、仕方ないよ。彼の弟がそう言ったんだから。」
「カルテが?じゃあ仕方ないな。」
「あの…」
レイビアが口を挟んだ。
「あ、その服もう脱いでいいよ。」
「そうじゃなくて。…いや、それもなんですけど。」
レイビアは赤くなって否定した。
「お二人ってどんな関係なんですか?」
「幼馴染だよ。」
とアズリールが即答する。
「ええ…結婚とか…」
「これと?ないない。寝てる間に首刎ねられそう。」
ヴェルノが笑って言った。
「まあ、そうだね…。そろそろ話してもいいかもしれない。
君はいつか俺たちと同じところに来るわけだし…軽くお話ししようか。」
レイビアは聞くことになる。彼らの暗い過去の話を。そして、彼らの師である
世界最高の指導者、フレミラ=レイズのことを。
さて、一方そのころ。
ユウは帝国に来ていた。
第453回Aランク魔術師昇格試験を受けるためである。
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