戦場にて 2
「それじゃあ、作戦を始めるよ」
俺(正確にはレイズさん)が課長を潰してからアズリールさんは30分ほどして帰ってきた。
その間俺たちは廊下に立たされたわけだが、誰も文句を言わなかったので俺も文句を言わなかった。
「まず、マデキオンは作戦1に参加するから第二戦線に。」
マデキオンは頷いた。いつのまにか腰に剣を刺している。
「メルカ、オルカは作戦3に参加するから第一戦線、第一科と共同作戦ね。」
メルカ、オルカは魔杖を握って、こくり、と首を振った。
「レイビア、ワノーレは私と一緒にきて。」
レイビアがワノーレを引っ張った。
「そして、12番君…もう名前決めようか。ユウ君。」
俺の前世の名前だ。
「君は…留守番だ。」
は?
「え?なんでですか?実力不足ってことですか?」
「いや、そうじゃなくて…」
アズリールさんが残念そうに言う。
「Aランク以上の人間しか、戦線に出しちゃいけないんだ。」
と言われて、そうだったなと思い出す。
まだ自分はBランクだった。
「まあもうすぐAランク昇格試験があるから、それを受けて合格したら戦線デビューだね。」
と言うわけで、俺は留守番させられた。
「はいじゃあみんな頑張ろう。死なない程度でね。」
「アズリールさん…」
「なに?」
地上に出て、戦線に向かっている途中。
レイビアは、アズリールに話しかけた。
「なぜ作戦本部に護衛の人間が一人もいないんですか?」
「ああ…もちろん、ユウ君に襲撃者を全員倒してもらうためだよ。」
「でも、私たちがアレメロギアを倒すとまずい他の国から大勢刺客がやってくるでしょう?」
「さすがにSランクの魔法使いを派遣することはないだろうし、正確に言えば護衛は二人だからね。」
「?…ところで、彼は本当にAランクなんですか?」
「いや、Bランクだよ。」
「どっちでもいいですけど、実力だけならそこらへんのSランク魔法使いにさえ相当する気がするのですが。」
「まあ、彼は元々Sランクを作るための実験、「朝更け」の現存するたった一人の成功者だからね。それはもちろん高い実力を持っているよ。」
「…アズリールさん。もしかしてあなたは…」
「おっと、構えようか。お迎えだ。」
そうアズリールが言い、レイビアははっと前を向いて銃を構えた。
アズリールの前には、数名の魔法使い。
少なくともA以上。
全員がおそらく武器を所持している。
ワノーレは、フラフラと揺れていた体をピシッと直立させた。
GTFR-778
ランク S
大きさ 1m86cm
口径 36
効果 あらゆる防御を貫通する。
レイビアは、銃の照準を合わせ、引き金を引いた。
俺は椅子をぐるぐる回しながら、警備室にいた。
暇なのだ。
誰もいない。アズリールさんから
「ここで留守番してて」
と言われてなければこっそり後をついて行っただろう。
それにしてもAランク以上でなければ戦線に出せないという決まりがあるとは知らなかった。
ただよく考えれば、第0科に所属している魔法使いはほぼ全員Aランク以上だろう。
「というか…Aランク昇格試験ってどんなのなんだ?」
と、俺が独り言を言った瞬間。
「それはね。」
と言う声。
俺はハッと後ろを向いた。ミルカスタス-4を抜いて構える。
「おっと、そんなに警戒しないでよ。」
振り返ったのは痩せた男だった。
無駄にイケメンなのが腹たつが、青と黒のジャケットを羽織っている。
いつ入ってきたのかわからない。さっきまで誰もいなかったはずだ。
そして、数字のアクセサリーをつけていない。
この国の人間ではなさそうだ。
武器は確認できないし、魔力領域も俺まで届いていない。
が…
隙がない。
どう斬りかかっても避けられ、カウンターされそうだ。
敵なのか?味方なのか…?
「お前、誰だ?」
俺は聞く。
「俺はヴェルノ。ヴェルノ=セルレイア。
モルトース神聖王国の王族親衛隊隊長。
アズリールの頼みでここにきた。」
「階級時計を見せろ。」
ヴェルノは服の内ポケットから階級時計を取り出した。
やはり「S」か。
「なんでここに来た。アズリールさんとどう言う関係だ。」
「アズリール?アズリールとは昔の友達、学園時代の友人だけど。」
…敵ではなさそうだ。とりあえず剣をしまう。
「なんで俺が呼ばれたと思う?」
と、ヴェルノは俺に問いかけた。
俺が黙っていると、
「君のAランク試験のためだよ」
と教えてくれた。
Aランク試験には、Sランク2名の推薦状と、Aランクの魔道具3つが必要らしい。
それで、推薦要員としてヴェルノがやってきたというわけだ。
「まあ、だからSランクを3人所有する帝国の人間がやっぱり多い。」
とヴェルノは笑った。
「ま、それだけじゃないんだけど…、とりあえず、お客様がいらっしゃったから、おもてなししてみて。」
「??」
俺はなんのことか疑問に思いながら、剣を抜いて後ろを切った。
どさり、という音がして後ろで人が倒れた。
「ノールックキルできるんだ。」
ヴェルノが言う。
明らかに敵意を感じたし、殺してしまったが別にいいよな、と思いながら俺は後ろの残骸をいじった。
「さあ、お客様は次々来店されるよ。大盛況だね。」
俺が前を見ると、入り口に何人か、人がいる。
全員武器を確認できた。
ああ、おもてなしってそう言うことね。
「いらっしゃいませ。」
俺はそう言い、剣を構えた。
読んでくださってありがとうございました。