戦場にて 1
数日後。
第0課の本部で、俺がスキルの練習をしていた時。初めての指令がきた。
「おはよー12番君。あ、そろそろ名前決めないとね。
それはそうと、そろそろアレメロギアとの決着付けに行くから、見においで」
とアズリールさんから通話がかかってきた。
「え?」
「だから、そろそろあの国との戦争が終わるから、一度戦場の空気を見においでって言ってるの。」
「あ、はい。わかりましたけど…どうやっていけば?」
「今から迎えに行くから準備してて。あ、他の人も誘っといて。」
そう言って通話が切れた。
俺が髪飾りをおくと、
「相変わらずすごい人だよね。第0課本部から戦場までは交通網を使った時最短でも3日はかかる。」
とレイビアが言った。
第0部隊では、数人1組でチームを組まされる。
赤い髪の男、フェルミ=マデキオン。
チームリーダー。
筋肉ムキムキのやばいやつだと思ったのだが、こう見えて暗号学に精通しているらしい。
21才。スキルは「錯視錯覚」。「視界を実際のものとは違うものに勘違いさせる」
「まあ、あの人は私たちとは違うから」
「……………………………………………………」
紺色の髪の双子、リオ=メルカとリオ=オルカ。
メルカはよく喋るが、オルカはほぼ何も言わない。
双子は性格まで似るとは限らないらしい。
17才。スキルは「絶対回避」(相手の攻撃が絶対にあたらない。ただし自分の攻撃も絶対に当たらない。)と「絶対命中」(相手に攻撃が絶対当たる。ただし自分も相手の攻撃が絶対に当たる。)
そして、
「そう、今日の晩飯は唐揚げだ。」
セントス=ワノーレ。16才。
ひょろっとした男だ。
いつも寝ている。だから発言は全て寝言と考えて良い。
スキルは「夢遊病」。「意識を失えば失うほど強くなる」という謎のスキル。
そしてレイビア、俺の6人がチーム「F」になっている。
「じゃあみんな部屋に戻って、準備をしよう。5分後、エレベーター前に集合!」
〜5分後〜
「皆集まってる?」
アズリールさんが言った。
「はい、全員います」とマデキオンが答える。
俺は灰色のパーカーを着て、腰にミルカスタス-4を差していた。
「それじゃ、「転移」で皆を運ぶよー」
と言って、アズリールさんがポケットから杖を取り出した。
白くて、長い。先が細く、真ん中が太い。
魔杖。最古の魔道具の一つ。
ある特定の魔法を事前に組み込んでおくことで、魔力消費なしで魔法を使用できる。大半が低級の簡単な魔法だが、一部の特殊な魔杖では強力な魔法を組み込める。
「軸」、「内肉」、「外肉」、「端器」の4つの部位からなり、これらによって魔杖の強さが決まる。
「あれは「白銀の杖」だな。軸にカリウムの単体、内肉にドラゴンの血液の結晶、外肉にドラゴンの鱗、端器に氷を使用してあるランク「A」の魔道具だ。」
とマデキオンが解説してくれた。
「私は「叡智の魔杖」って言うSランクの魔道具持ってたな、そういえば。
あれ今どうなったんだろう?」
とレイズさんが言う。
アズリールさんの魔法で、一瞬で移動した。
「ここが対アレメロギア用の作戦本部だよ。」
俺たちは建物の中にいた。
鉄のような灰色の壁に囲まれた場所だ。
「地下ですね?」
とレイビアが指摘した。
「うん。じゃあ私は課長会議に行ってこなきゃだから」
と言って、アズリールさんは行ってしまった。
「じゃあ、俺らはどうする?とりあえずぶらぶらしとくか。」
とマデキオンが言った時、
「避けて!」
とレイビアが叫んだ。
後ろから銃弾が二発飛んできているらしい。
俺はサッとしゃがみ、剣を抜く。
レイビアも銃を構えた。
メルカ、オルカはそれぞれ杖を抜き、マデキオンはじっと相手を見つめた。
ワノーレは相変わらずフラフラしていた。
「あれ、避けられた?」
後ろに広がっていた影の中から声がする。
カツン、カツンという音がして、敵が姿を現した。
「…なんだ。」とメルカが呟く。
相手は背の高い男、小さな男、サングラスをかけた女、ネクタイを締めた女、体が異常に大きい男。
全員スーツを着ている。
それぞれが「1」「2」「4」「5」「6」という数字のアクセサリーをしている。
「軍の人ですよね?」
とマデキオンが言った。
「えー?うん。そうだけど?」と背の高い男が言って、銃を再びこちらに向けた。
この国の軍隊は
第0課 特定魔法使い戦闘
第一課 近接戦闘
第二課 遠距離戦闘
第三課 諜報
第四課 爆撃、広範囲魔法戦闘
第五課 特殊魔法戦闘
第六課 特殊魔道具戦闘
第七課 輸送、救護
という区別がされており、それぞれを束ねる「課長」というものがいる。
数字のアクセサリーは彼らの所属する課を示すから、彼らはそれぞれの課の課長を務める魔法使いだろう。
「前々からやってみたかったんだよ。第0課の奴らがどの程度強いのかをね。
アズリールのワンマンチームのくせに無駄に優遇されているお前らが税金の無駄遣いってことを見せてやるよ。」
と、異常に大きい男が言った。
だが、だれも挑発に乗らない。
レイビアもマデキオンも、オルカもメルカも黙って睨んでいる。
だが、一人挑発に乗っている人がいた。
「はあ。随分と身の程知らずな野郎だな。実力の5%の状態で4分で皆殺しにしてやるから来いや。」
レイズさんだ。
意外と挑発に乗りやすいところがあるのかも知れない。
だが、俺も仲間に攻撃したこいつらを潰すと決めたし、別に構わない。
「12。イヤリングつけて。」
指示されて、俺は大人しくイヤリングをつけた。
目の前が赤くなり、全身に魔力が溢れる。
俺は剣を抜いて、構えた。
「おっ…やる気じゃん!いいねーお手並み拝け…」
と言い切る前に、俺は第六課課長の舌を切断していた。
それも、口にはかすり傷一つつけずに。
「!!!!!」
俺も含め、場にいた全員に衝撃が走る。
使用者の俺ですら見えないほどの速い剣撃だった。
彼は、ぺっ、ぺっと血を吐き出すのに忙しそうだった。
「舌を噛むと痛いよねー」
とレイズさんが俺の口を通じてしゃべり、殴りかかってきた第五課の右腕を素手で握りつぶした。
風の刃が俺に向かってきたが、障壁で全て防ぎ、炎魔法「紫炎」を第四課にゼロ距離で速射して燃やし尽くした。
この人、怒らせるとやばい。
本当にこれが5%なら、本気のこの人で一人でアズリールさんも倒せそうだ。
二課はあまりにも悲惨な光景に気絶していた。
「…お前本当にAランクか?」
と第一課が聞いてきた。
「時間にして約40秒。4名のAランクを戦闘不能に追い込んだ。
これはSランクでも難しいスピードだ。」
と言っている。
レイズさんは彼に向かって突撃し、切りつけた。
が、さすがは「近接戦闘」の第一課を束ねる課長。
即座に腰から剣を引き抜き、レイズさんの剣撃をギリギリで凌いでいる。
しかも使っているのは
「流星鏡」
ランク S
大きさ 1m43cm
効果 あらゆる攻撃を自分の好きな角度に逸らす
とか言うチート魔道具だ。
だが…
そろそろ限界が近づいているらしい。
こちらの剣撃があまりにも速すぎて、何箇所も刃こぼれしている。
次の一撃で、仕留める。
俺が剣を振り下ろした時。
俺は大きく後ろに跳ね飛ばされた。
「はい、そこまで。それ以上は私が相手になろう。」
アズリールさんだ。
手に剣を持っている。
「ティグリス。これでわかっただろ。第0課は、私のワンマンじゃないって。」
第一課の課長はティグリスというらしい。真っ青な顔で頷いた。
「やりすぎはよくないですよ。」
と言っている。レイズさんにだろう。
「まあ、いいか。」
と言って、レイズさんも落ち着いた。
「あ、ティグリス。その魔道具は彼にあげて。」
「え!?」
とティグリスが悲痛そうな声を出した。
「Sランク魔道具を使用して負けたら、相手にそれを渡さなければいけない。
そう言うルールだろ?」
ティグリスは渋々俺に「流星鏡」を渡した。
「しかし、Sランク魔道具を刃こぼれさせるとか…ありえませんよ本当。」
とぶつぶつ言いながら、アズリールさんは4人を引っ張って行った。
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