召喚
今度こそ書ききりたいな。
うん。
耳が痛くなるような静寂。
鉄の人工的な冷たさ。
真っ白で清潔な灯り。
白い部屋の中、1人の少年が目を覚ました。
目をぱちぱち、と開いては閉じ、開いては閉じる。
15歳くらいの歳だろう。
手には少しの傷もなく、その絹のような純白には健康的な赤みがある。
彼はふらふらとおぼつかない足で立ち上がる。
が、
ガタッ!
5歩歩いたところで倒れてしまった。
彼は、周りを見渡す。
彼にとって、そこは覚えのない場所で。
どうして自分がここに来たのかを思い出そうとした時ー
「おいおい、あまり無理はしない方がいいんじゃないかな?」
と言う声が上からした。
「やあ、おはよう。」
上をみると、白衣を着た男がポケットに手を突っ込みながら彼を見ている。
「誰?」
彼は男に向かってそう言った。
痩せ気味の男だ。青いボサボサした髪をフラフラさせながらこっちに近づいてくる。
「君、名前は?俺はフレミラ=カルテ。」
「俺は、ーーーー。」
と言って、彼はあることに気づいた。
「あれ?名前?」
彼は、自分の名前を思い出せなかったのだ。
モヤモヤと濃霧の中にいるような感じがして、彼は首を少し横に振った。
「あ、やっぱり意識混濁してるね。
簡単に言うと、君死んだから。」
カルテは何の躊躇もなく彼に告げる。
しかし、彼はそこまで驚かなかった。
もしかしたら死んだのかもしれないと内心思っていたからである。
しかし、どうやって死んだのか、なぜ死んだのかを思い出せないだけである。
トラックに轢かれた?鉄骨に潰された?通り魔に刺された?
彼は候補をいくつか考えたが、どれも全く覚えがない。
「まあまあ、そう焦るなよ。」
カルテがいい、手のヒラで壁を押した。
すると、少し離れたところで壁が消え、暗い道が現れた。
どこまでも吸い込まれそうな暗い道。
「とりあえず少し歩きながら話そうぜ。」
彼は立ち上がった。
カルテがこちらに杖と立方体の何かを投げた。
「それ使って」
彼が立方体を握ると、映像が流れ始めた。
彼は歩いてカルテについていきながらそれを見た。
今から数時間前ー。
地球。日本国。
「あ、遅刻だわこれ。」
朝露 夕は目覚ましの音で起きた。
6:00にかけたはずのタイマーが、なぜか8:00にかかっているという怪奇現象。
彼は個人的に世界の七不思議の一つだと思っていた。
「ま、こんな時くらいゆっくり…」
と思っていたら、
ピンポーンという音。
玄関のベルが鳴った。
「ちっ…あーしかたねえ」
夕はご飯も食べずに外を出た。
なぜか?
彼の幼馴染、道比丘 陽香が来たからである。
彼女は毎朝迎えに来る。
夕の両親が「多分この子一人暮らし始めたらもう学校行かなくなるから」と言って、
陽香に頼んだからである。
「なんだよ陽香、こんな時くらいゆっくりー」
「寝ぼけてないで早く行くよ。」
淡々とかえされて、夕は仕方なく家を出た。
「つーかお前さ、もう俺に構わなくていいよ。俺のせいでお前まで遅刻常習犯になってるだろ。」
「別にいいよ。」
陽香が妙に嬉しそうに言う。
「いやよくねーよ。お前が可哀想だ。」
「あんたの口から「かわいそう」なんてどうしたの?
空から火でも降ってくるんじゃないかしら?」
「失礼なやつだな。これでも立派なにんげー」
と夕が言いかけた時、
ドオオオン!
という音。
後ろを見ると、
「は?」
燃え盛る火。
花壇が燃え始めていた。
上をみると、大量の何かが落ちてきている。
ガラス片、木切れ、看板、etc…
「ねえちょっと待ってマジで火が降ってきたんだけど?」
「おいおい、槍なら振っても許すけど火はダメだって!」
「冗談言ってる場合じゃなくて!早く逃げるよ!」
陽香がいう。
と、その時、
ガラガラガララララ…という音がして、ビルが倒れてきた。
「危!」
夕は陽香を突き飛ばして、ビルの下に消えていった。
「…っていう死に方をしたらしいよ、お前。」
カルテが言った。
まあ悪くない死に方である。
少なくともトラックに不注意で引かれるよりは随分マシだ。
「まあそれはいいとして、ここはどこ?地球じゃないですね?」
彼は立方体をポンポン投げながら言った。
こんなハイテクノロジーがある世界が地球なわけがない。
「ん?ああ、まあね。君たちの世界の文化でいう、異世界って奴だよ。君たちのいう「勇者召喚」…だっけ?そう言うのに近いかも。」
お?と彼は思った。
彼の中での「勇者召喚」とは大体聖女がドヤ顔して、周りの人々がどよめいて、キラキラ光る剣を渡されるものだからだ。
彼の周りには聖女は愚か人一人いないし、剣とはお世辞にも言えないナンセンスな杖と無駄にハイテクな立方体だけ。
「じゃあ魔法とかもあるんです?」
彼は一番気になっていたことを聞いた。
「もちろん。」
こうして、彼は死んで、異世界に来てしまった。
そして、彼の悲劇とも喜劇とも言える、異世界の戦争ライフが始まったのである。
読んでくださってありがとうございました。