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第56話

「とりあえず、そこをどいてくれないかな?」

「うん。いいよ」

ゾンビ娘は、カラムの上からどいてくれた。


「君がカラムなんだから、君の事は、カラムと呼ぶけど、…」

「ちょっと待って!」

ゾンビ娘なカラムが、割り込んできた。


「フォアグラウンドな、おにいちゃんが、身体を使ってる訳で

外の人から、カラムって呼ばれてるんだから、おにいちゃんが

カラムでしょ? この部屋の中だけで、おにいちゃんの呼び方が

変わったりしたら、外の世界で混乱するよ。おにいちゃんが。」

「そうかな…」

まぁ、確かにそうかもしれん。だけど、いいのかな?


「だから、うちの事は、リミット って呼んで。

元々、おにいちゃんに付ける名前だったはずだから」

「元々…俺の名前は、リミットだったのか…」

「そうだよ、お母さんに聞いたから。」

リミットか…

男の子でも女の子でも、どっちでも付けられる名前だな。


「わかった。リミットって呼ぶよ。でも、いいの?」

「うん、姿も変わっちゃったし、その方がしっくりくるんだ」

「すまそ…」

「謝らなくていいよ。ここは、ここで楽しいし。」


「そういえば、ここはどこなんだ?」

「さっきも言ったと思うけど、うちとおにいちゃんの部屋だよ」

カラムは立ち上がり、部屋を観察する。

よく見知った部屋がそこにあった。


前世で俺が暮らしてたマンションに、間取りがそっくりだ。

LDKがあって、リビングの隣に、和室の部屋があった。

襖を開けると、広いリビングになる。

ユニットバスがあって、1LDKって奴だ。

一人暮らしだから、これくらいで、ちょうどいい。

和室を仕事部屋にしてたんだよな。


「なんだこれ!? 元の世界の俺の部屋じゃん!」

「残念ながら、違うんだ。うちがバックグラウンドに

飛ばされた時に、自身を退避する空間を作ったんだけど、

その時にイメージしたのが、おにいちゃんの部屋だったんだ。

つまり、脳内仮想空間ってわけ。本当には無いよ」

「そうか…なるほど…」


分かった様な、わからん様な…


「確認の為に聞くが、バックグラウンドのリミットのプロセスってのは、

カラムの脳内仮想空間を持っていて、そこで過ごしている意識って事か?」


「さすが、おにいちゃん! そう、その通りだよ」

「今、俺のプロセスはバックグラウンドで実行中? なのかな?」

「うん、そうだね」

「じゃあ、俺もゾンビプロセスになってないか?」

「大丈夫、今回は、憑依というしくみで、きちんと処理されてるから

フォアグラウンドにも、戻れるよ。」

「なるほど…憑依か…

よくわからんが、今、フォアグラウンドに戻るとどうなる?」

「ストーンゴーレムの身体に、意識が宿る事になると思う」

「!? ストーンゴーレムで、動けるって事?」

「たぶん…」

「?」

「たぶんっていうのは、ストーンゴーレムって、遠隔で操ってると思うんだよね。

だから、おにいちゃんの意識が、ストーンゴーレムに宿ったら

操ってる側に、なんらかのエラー? みたいなのがいって、

操作権? の奪い合いが起こるかもしれないなーって、思って…」

「なるほど、あり得るかも。」


「悪の組織に作られた改造人間が、自分を取り戻すシチュエーションって奴か…

燃えるな!」


「あれ? ちょっと待って、俺がフォアグラウンドに戻ると、

今、擬態し続けてるストーンゴーレムの意識は、バックグラウンドに

なるんじゃないのかな?」

「確かに。なりそうね」


ふむふむ。

「ストーンゴーレムの意識に入った俺が、バックグラウンドコマンド BG を

叩いたら、どうなるのかな?」

「ここに戻ってくるわね。」

「なるほど。じゃあ、バックグラウンドになってるストーンゴーレムに入ってた意識は

どうなる?」

「当然、ストーンゴーレムの意識として、フォアグラウンドに復帰するでしょうね」


「なるほど、なるほど。」


「その辺、動作確認する余裕あると思う?」

「どうかしらね。遠隔で操ってる側に、フォアグラウンドを乗っ取られたって

知られたら、警戒するだろうから、次に、おにいちゃんが

FG コマンドを叩いても、簡単には入れなくなってるかも。」


「そっか…やるなら、初見殺しか…」


ふむ。

「ストーンゴーレムの意識が、バックグラウンドになったら、

プロセスNoを 検索して、特定出来るよね?」

「うん、出来ると思う。 まさか!?」

にやりと笑うカラム。


「その、プロセス、KILL しちゃおう!」

「!?」


「権限は……、

VPSスキルで操作出来る情報なら、sudo で、root になれるし、

大丈夫ね。いける! KILL 出来るわね!」


「物理では殺せそうもないけど、仮想空間なら、殺せるな。

ふっふっふ…」

「ちょっと、おにいちゃん、悪い顔してるわよ。」


「ストーンゴーレムの身体、俺のものにしてやる!」

「……………………」

ジト目でカラムを見つめるリミット。


とりあえず、俺のプロセスNoを検索しとこう。


local> ps -a |grep *.ido


USER PID STAT COMMAND

column 1259 Z /usr/sbin/iThink.ido

column 1260 T /usr/sbin/thereforeIam.ido


これか。

”故に我あり” が俺とは…





「リミット、すまないけど、手伝ってもらえるかな?」

「うん、いいよ!」

「作戦は、こんな感じ。

まず、俺が、フォアグラウンドコマンド FG で、ストーンゴーレムの意識を奪う。

そしたら、擬態し続けてるストーンゴーレムの意識が、バックグラウンドに

なるだろうから、リミットは、PSコマンドと、GREPコマンドで、奴のプロセスNoを

特定してくれ。

特定出来たら、速攻 KILLコマンドだ!」


「りょ!」


「ところで、今、何時だ?

俺はどのくらい、気絶してたんだ?」


sql> select now();

+---------------------+

| now() |

+---------------------+

| 3023-05-27 00:32:12 |

+---------------------+

1 row in set (0.00 sec)


リミットが、コマンドを叩いてくれた。

リミットも神託スキルを使えるんだな。

まぁ、俺とリミットは、混ざりあったみたいだから、

出来てもおかしくないか…


確か、5/26 の、お昼過ぎに、ピラミッドを降りてきたから

12時間近く気絶してたのか…


フィーの奴、泣いてるだろうな…。すまん…


神託の巫女を助ける方の動画、確か、夜だった。

フィーには悪いけど、ちょうどいいかも。


「作戦開始は、0時56分44秒 とします。

それまでは、PSコマンド、GREPコマンドの確認をよろしく」

「ラジャ」


「おにいちゃん、なんで、0時56分44秒なの?」

「うん? あぁ、ただの語呂合わせだよ。

56分44秒で、ころすよ なんだ。」

「こわ! 怖いよ、おにいちゃん!」

「そう? じゃー違うのにしよっか。

41分05秒とかは?」

「それは、なに?」

「すとーんご。

れむは入らなかった。410506 で、ストーンゴーレムなんだけど。」

「うん、もうそれでいい。時間きちゃうから!」


「じゃあ、0時41分05秒に、作戦開始です!

よろしくー」

「ラジャ!」





「時間だ。カウントよろしく」

「ラジャ! 作戦開始10秒前、カウント開始します。

9、8、7、6、5、4、3、2、1!」

「いくぞ! ストーンゴーレム! Linuxコマンドの前に敗れるがいい!」


local> fg 1260


入力と同時に、切り替わる視界。

ストーンゴーレムは、カラムの部屋で体育座りをしている。

「これが、ストーンゴーレムの視界…」

リミットが開いているターミナルソフトの黒いウィンドウが見える。


コマンドが打ち込まれていくのも見える。

GREP成功だ。プロセスNoゲットだ!

行け! リミット、KILLコマンドだ!


次の瞬間、リミットの顔がウィンドウで現れた。


「おにいちゃん! KILLコマンドで、終了しない!」

「なんだって!」

KILLコマンド投入後に、PSコマンドで、プロセスを検索している画面を

見せるリミット。


確かに、終了してないな。

KILLコマンドって、確か、プロセスにシグナルを送るコマンドで

終わらせるって訳じゃなかった気がする。

なんだっけ? 強制終了の引数があった様な…


そうだ! KILL -KILL プロセスNo だ!


「リミット、KILLコマンドの後に、-KILL を付けてやってみて!」

「ラジャ!」


ウインドウ画面は、リアルタイムに、リミットの打つコマンドを

表示している。


local# kill -KILL 1999

local# ps -a |grep stoneGolemPrototype.ido


「おにいちゃん! 消えたよ! ストーンゴーレムのプロセス!」

ウィンドウ画面には、リミットの顔が画面いっぱいに映っていた。


「うぇーい!」


成功だ。ストーンゴーレムの身体、ゲットだぜ!


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