第2話:エレグランドの魔女の正体
私の周りで勢いよく燃え盛る巨大な炎……まさか本当に自分が魔女になってしまったのかと一瞬考えてしまったが、そんなことはありえない。わたしの言葉に合わせて仕掛けていた特殊効果を使ったのだろう。
でもこんな大掛かりな仕掛けまで用意していたの? まさか魔法使い設定に合わせた仕掛けを用意してるとは思っていなかったけど、こうなったらノリ続けるしかない。てか警備兵役の人達はノリノリで迫真の演技だ。わたしも負けていられない!
「これだけじゃ無いわよ! アクアバースト!!」
今度はさっきより派手なポーズ&アクションで呪文を唱えた。すると大量の水がどこからともなく流れて来て兵士の何人かはそれに流されていった。わおっ! 大迫力!! てかここまでやるの? 流された人ケガはしていないよね?
わたしが流された人の心配をしていると警備兵が再び周りを取り囲み一斉にとびかかって来た。ちょっと、いくら演技でも乱暴すぎるわよ! てかあんたどこ触ってるのよ!!
「よしっ! 取り押さえたぞ!」
「早く魔封じの枷を付けるんだ!」
外国人の巨大な体で抑え込まれ為す術もなく足掻いていると警備兵の一人が幅の広い手錠の様なものをわたしの手首に着けた。その瞬間体に電流の様なものが走りそのまま意識を失った……。
そして気が付くとわたしは石造りの牢屋の中に居た……。牢屋の窓から日の光が差し込んできているので、ここで一晩過ごしたようだ。
えっ? どういうこと? ドッキリのネタ晴らしは? それともまだ続いているの? そう思いながらわたしはカメラを探す為に周りを隈なく探したが見つからなかった。
わたしは牢屋の中で途方に暮れたまま何時間か経過したけど、やはり「ドッキリ大成功!」とプラカードを持ったリポーターは現れなかった。
ここまでくると流石にドッキリで済ませられるような事態ではないと思い始めた。川で溺れていたのに気付いたらドッキリを仕掛けられているなんて展開はよく考えたら無理があるよね? しかもセットだと思っていたお城もテレビ番組の予算で作れるような規模じゃない気がする。
でも言葉が通じていたのよね、あの王様達と……。
わたしは今までの出来事を基に灰色の脳細胞をフル回転させて考察した結果、一つの結論に達した。それはこれが小説や漫画などでよくある異世界転生……いや、生まれ変わっていないから異世界転移かな……それじゃないかと。
売れる為の勉強として漫画やラノベもかなり読み漁ったので、異世界転移のことくらい知っている。まさか自分がそれに巻き込まれるとは思わなかったけども……。でも今までの不可解な出来事も異世界転移だと考えると納得がいく。言葉が通じるのも異世界転移あるあるだからね。てか冷静に考えてみたら、私は日本語を話していたけど相手は違う言語だったような気がする。日本語じゃないけど耳にしたら意味が頭の中に浮かんできた感じだった。
ただ納得はしてもそれを許容できるかどうかは別問題だ。わたしには武道館で単独ライブという夢があるのだ。
そんなことを考えていたら誰かが近づいてくる足音が聞こえた。
「ちょっと話をさせてもらうぞ」
そう言いながら中世の騎士みたいな服を着た男女二人が牢の中に入って来た。男性の方は王様の詰問を受けていた時に部屋の端に居たような気がする。180㎝を超える長身で男のくせに整った奇麗な顔をしていてちょっとムカついたので覚えている。女性の方は初めて見る顔だ。こいつも西洋風の美人さんで、体のラインがあまり出ない棋士服なのにボンキュッボンの放漫な体であることが見て取れる女の敵だ。
「私はアルゴー騎士団の団長バルバート。そしてこちらは団員のアリッサだ。」
牢に入って来た男性が自己紹介をしながらわたしのことをジロジロと眺めている。目が怖い……。何? もしかしてわたしを好きになったの? 悪いけどアイドルに恋愛は禁止だからきっぱりとお断りさせてもらうわよ!
身構えるわたしに向かってバルバートと名乗った男は言葉を続けた。
「単刀直入に言おう、其方、我がアルゴー騎士団に入らぬか?」
「騎士団?」
騎士団に入れとか意味がわからないんですけど? こいつの言う騎士団というのは剣を持って戦ったりするチャンバラ集団のことだと思うけど……自慢じゃないが超が付く運動音痴なわたしがそんなのに入ってやっていけるわけがない。
「騎士団に入れば明日の火炙りは回避出来るが?」
「火炙り? 何を炙るの? お肉?」
焼肉は大好きなのでそれなら大歓迎だけど……言葉のニュアンス的に違う気がする。もしかしてと身構えていたら……。
「何を言っている。火に炙られるのは魔女である其方だ。」
と、予想どおりの言葉が帰ってきた。
「えええええぇ~っ!! 何でわたしが火で炙られなきゃいけないのよ!!!」
わたしはあまりの展開に驚愕した。水死しかけたのを切り抜けたと思ったら今度は焼死の危機。水に濡れたから火で乾かしてあげようって気遣い? いらないからからそんなの!
「国に害をなす魔女は火炙りの刑と決まっているじゃないの! バルバート様、このような子供を騎士団に入れても大丈夫でしょうか?」
それまで男のとなりで黙っていたボンキュッボン女が唐突にしゃしゃり出てきた。
てか子供? おい、てめえ……今どこ見て子供扱いしやがった? 目線をわたしの頭上に合わせた後胸の辺りに移動し、しばらくそこを凝視してやがったよな! 身長が低くて子供扱いするのはまだ許せるが、胸の大きさで子供扱いさされるのは我慢できないぞ! そっちがその気なら生き死の喧嘩したろうやないかい!!
わたしは女を睨みつけながら数少ないテレビのお仕事の企画で習った蟷螂拳の構えをとった。本来なら一撃必殺の構えのはずだけど、両手に手枷を嵌められているので犬がチンチンしているみたいなポーズになりちょっと滑稽になってしまった。
「バルバート様、この娘は頭も少し弱そうな気がしますが……。」
女はわたしのポーズを見ながら怪訝な表情をしてそう呟きやがった。確かにもわたし自身も滑稽だとは思うけど、お前に言われるとムカつくんだよ!
「確かに頭は弱そうだがエレグランドの魔女の可能性が有る以上放ってはおけない」
お前もか! 本人の目の前で頭が弱そうだなんてとんでもない侮蔑発言をぬかしやがったな! たしかにおバカキャラでも通用する十代の時は物知らずだったけど、二十歳超えてからはそれじゃあ通用しないと色々勉強してたんだぞ! 虫食いな知識しか残って無いけど……。てかエレグランドの魔女って何だよ? さっきの王様もそんなことを言っていたけど……。
「ねぇ……エレグランドの魔女というのは何なの?」
今の状況を理解する為の情報が欲しい。わたしはとりあえず臨戦態勢を一時解除して話し合いモードに移行した。わたしの問いに男は少し思案気な表情をした後で答えてくれた。
「大陸中で広く知られている伝説の魔女だ。大昔に存在したエレグランドの森に棲む巨大な力を持つ魔女が死ぬ間際に〝自分の力を継承した魔女が必ずや復活する〟と言い残したと伝えられている。その伝説を信じる者も多く、この国も巨大な力を持つ魔女は無視出来ない存在なので復活の情報には神経を尖らせていたのだ」
ふむぅ、わたしはその魔女と間違われて詰問されていたのか。
「でもなんでわたしが疑われたの? 何かわたしに魔女的な要素でもあったというの?」
「エレグランドの魔女は〝月夜の雨の日に現れる〟という伝説が有るので同じ条件の日に突然現れた其方がそうではないかと勘繰られたのだ」
男は私の疑問にそう答えてくれた。たしかにこの城に来た時は月が出ているのに雨が降るという月時雨の夜だった。それで王様の前に引き立てられたのか。でもわたしはアイドルであって魔女では無い。その誤解は解いておかないと。
「そ、それは人違いだわ。わたしはその何とかの魔女ではないもん! だから火炙りは止めてちょうだい!」
「エレグランドの魔女では無くても魔女を名乗り魔法を使って王を威嚇したのは事実なので火炙りの刑は免れないな」
ああ~っ! ドッキリだと思って自分から魔女だと宣言したんだった! そして魔法っぽいこともやってしまったんだった! じゃあ、あの魔法ってわたしがやったってこと? 何、わたし魔女なの? もう訳わかんないよ! 今からでもいいから『どっきり大成功!』ってプラカード持って誰か出て来てよっ!!
あまりの展開について行けずわたしがあわあわと狼狽えていたら男が慰めるように声をかけてきた。
「心配しなくても騎士団に入れば火炙りの刑は免れるしここからも出ることができる。王ともすでに話は付けてある」
どうやら騎士団に入れば火炙りの刑は免れ自由の身になれるようだ。そうなると選択肢は一つしか無いか……。
「わたしがその何とかの魔女でなくても騎士団に入れば助けてくれるの?」
「其方の魔力もかなりものだったし、騎士団に入るというなら歓迎しよう。元よりエレグランドの魔女である可能性は低いと思っていたしな。」
「そうなのね……」
「確かに出現条件も満たしていたし、魔力の量でも伝説に違わぬようだがエレグランドの魔女は〝絶世の美女〟ということらしいからな。その点で其方は候補からは外れ……」
「わたしよっ!」
「ん?」
「エレグランドの魔女はわたしよ!」
そのエレグランドの魔女の条件が〝絶世の美女〟ならわたし以外にはあり得ない。異世界移転でわたしがこの世界に飛ばされたのはこの条件に当て嵌まるからに違いない。それならわたしが名乗っても大丈夫だろう。
「絶世の美女がエレグランドの魔女ならそれはわたしだわ。わたし以外あり得ないもの!」
わたしは胸を張って答えた。「張れるほどの胸なんて無いだろ」などと言ったらはっ倒すぞ! 今のあたしは魔法も使えるんだからな!
「そ、そうか……それでは騎士団の本部で続きを話し合うとしよう。ついて来なさい。」
わたしの自信に満ちた言い切りに少し驚いていたが、全て事実なのだから認めざるを得なかったのだろう。騎士団長は戸惑いながらもわたしを牢屋から出してくれた。
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