第1話:私が魔女?
何年も前に書いて公開せずに置きっぱなしになっていたお話ですが、置きっぱなしは勿体無いと公開することにしました。
時間が経ちすぎて当初考えていプロットは忘れてしまったので、新たに話を作り直しました。
それではどうぞよろしくお願い致します。
「其方、名はなんと申す?」
「の、野崎エリカです……」
「ふむぅ、ノザキエリカ……聞き慣れない名じゃが我が城にやって来た目的は何じゃ?」
名前を聞いた後〝王様〟は怪訝な表情でわたしを見ながら問いただして来た。
いや、正確には王様かどうかはわからないのだけど、広い〝謁見の間〟みたいな部屋でその正面に備え付けられた豪華な椅子に偉そうにふんぞり返って座り、金糸をふんだんに使ったきんきらの衣装を着て、毛先をくるんと丸めた髪型にヒゲ面で頭に王冠、いかにも王様っぽい姿なので王様と思っていいのじゃないかな。
その王様が目を細めながらわたしの返答を待っているが、自分自身何故こんな状況になっているのかわからないのに答えようがないじゃん。てか、わたしの方こそ説明して欲しいわよ。
「これ、王の質問に答えぬか!」
わたしが返答に困りながら狼狽えていると、王様の左側に立っているおじさんが苛立ちながら催促してきた。立ち位置的に役職は〝宰相〟といったところかな。
その宰相が〝王〟と呼んだことで、目の前の人物が王様であることは確定した感じだけど、何故わたしがその王様の前に引き立てられて詮索されているのかはわからないままだ。
質問に答えられないわたしを王様や宰相だけでなく壁際にずらりと並んだ護衛の兵士達も険しい目で見ている。本物かどうかはわからないけど、長い槍を手に持って武装した集団にそんな目で見られたらマジでおっかない。わたしとしてもさっさと質問に答えてこの場から解放されたいのだけど……。
でもどう返答していいのか分からない。本当にお手上げ状態だ。とりあえずわたしは〝何故こうなったのか〟の答えを探すべく、この状況に至るまでの記憶を思い返してみることにした。
確かこんな訳の分からない状況になる前は落ち込みながら夜の街をとぼとぼと歩いていたんだった・・・。
わたしは小さな芸能事務所の〝ストロベリー少女軍団24〟というアイドルグループに所属していたのだが、事務所に呼び出されてグループからの『卒業』を示唆されたのだ。実質クビ宣言だ。理由は先日行われた人気投票で24位だったから……メンバーが24人なので24位ということは最下位ということだわな。加えてメンバー最年長の23歳という年齢も理由かもね。
人気ある子なら卒業後もソロで歌ったりドラマやバラエティーにも出たりできるけど、人気投票最下位のわたしにはその可能性は無きに等しい。
高校の時にクラス一の美少女ともてはやされ、今の事務所にスカウトされて入った時は『わたしならすぐにトップアイドルになれるわ』って自惚れていたけど、現実は甘く無かった。てか、芸能界では可愛くて当たり前、それプラス何かが無いと生き残れない。
できる限りの努力はしたつもりだったけど……。
「はぁ~」
と、ため息をつきながら、まるでゾンビのように気力なく歩いて家路についていたが、ふと橋の上から何気に川面を覗いて息を呑んだ。
子供が溺れている!
街灯の光しか無いのでちょっと分かりにくいけど、川の中に子供が流されている姿が見えた。あれは間違いなく子供だ!
この時人命救助の重要性を考えると同時に〝子供を助けたら話題になる〟〝名前を売るチャンスかも〟という邪な考えも頭に浮かんだ。
橋から下の川までは2m弱、水深もそこそこあるのでここから飛び込んでもケガをする心配は無い。初夏ということで泳ぐには少し早いけどこの気温なら心臓麻痺を起こしはしないだろう。わたしは少しの思案の後でえいやっと鼻をつまんで飛び込んだ。
泳ぎはそれ程得意ではないけど、これぐらいの距離なら何とかなる。わたしは少し水を飲みつつもなんとか子供の所までたどり着いた。
「大丈夫?」
と声をかけながら手繰り寄せたのだけど、手を触れて間違いに気が付いた。これ子供じゃね~っ! 必死になって抱え上げたそれは某人気アニメのキャラクターのぬいぐるみだったのだ。
子供を助ける為に勇気を出して川に飛び込んだのに、それがただのぬいぐるみだとわかりわたしは体中から力が抜けるのを感じた。確かに話題になりたいという下心はあったけど、人助けの行動だったのに……。とんだお笑い草だよ。
何とも言えない脱力感を味わっていた時、わたしの足に激痛が走った。
「痛たたたっ! 足がつった!!」
やはり準備運動もろくにせず飛び込んだのが不味かったのだろう。まぁ、救助に一分一秒を争う水難事故で律儀に準備運動するのもどうかと思うが……。
激痛で足を動かせなくなったわたしは子供と間違えたヌイグルミを抱えたままどんどんと流されていく。
溺れている人を助けようとして救助者が溺れる話は聞いたことがあるけど、まさか自分がそうなるとは思っていなかった。しかも子供とヌイグルミを間違えて。
「助けて~っ! あっぷっ・・・」
必死に助けを叫んだが誰も助けには来てくれない。しかも叫んでいると大量の水が口の中に入って来る。懸命に手を動かすが一向に岸にたどり着けない。それどころか徐々に体が沈んでいく。
『これアカンやつや・・・』
『いや、諦めたらダメだ!』
『武道館で単独ライブという夢を叶える為にはまだ死ぬ訳にはいかないのよ!』
あたしは生きる為にもがいた! 必死にもがき続けた! だけど奮闘空しくやがて力尽き、そこで意識を無くした・・・。
そしてふと気付いたら石造りの西洋風なお城の前に座り込んでいた。空には月が出ているのに雨が降っていて、お城に降り注いだ雨の水滴が月の光でキラキラと輝く様はかなり幻想的で異世界の様な雰囲気を醸し出していた。たしかこういう気象状況を月時雨って言うのだったよね。
わたしは降り注ぐ雨粒を眺めながら呆然としていたのだけど、その内周りに人が集まって来て騒ぎになり、そのまま王様の前に引き立てられ現在詰問を受けているという状況だ。
う~ん、改めて思い返してみても〝何故こうなったのか〟さっぱりわからん。もしかして夢とか? でも夢としても座らされている床の冷たさとか感覚がリアル過ぎる。とりあえず命は助かったみたいだから喜ぶべきなのかな?
「其方がエレグランドの魔女であると進言してくる者もおるがそれは誠か?」
考え込んでいると王様が再度問いかけてきた。魔女? 何を言っているのだろうこのおっさん。理解できないわたしとは対照的に宰相の人や警備兵の人達は肯定するかのように首を縦に振っている。
その時わたしはふと閃いた。これってドッキリ番組なのじゃない? だってみるからに外国人って感じの人達とちゃんと言葉が通じているんだよ? 一人か二人日本語ができるってならわかるけど、ここにいる全員が会話の内容を理解しているみたいだし……。 こんなの絶対にドッキリだよ! うん、それしか考えられない!
でも見たところお城のセット作りも本格的だし王様や警備兵のエキストラも外国人を使って衣装にもかなりお金がかかっている感じ。売れて無いわたし一人のドッキリにこんなにお金をかけるだろうか?
……いや、売れているタレントとの使いまわしなら無いとは言えないか。同じドッキリを何人かに仕掛けて色んな反応を楽しむというやつだ。それなら可能性はある。
その場合メインの売れっ子タレントは番組で使われるのが確定しているとして、おまけ扱いのわたしは余程目を引くリアクションをしないと使ってもらえないだろう……。
「これ、いい加減何か答えたらどうじゃ! 黙っておったらわからぬではないか!!」
苛立ちげの宰相役のおっさんから返答の催促が来た時、わたしは意を決して立ち上がった。
「ふふふ・・・バレては仕方ないわね! そう、わたしは魔女よ!」
わたしはどうリアクションするか悩んだ末、所謂ノリ突っ込みをすることにした。ちょっと……、いやかなり狙いすぎな気もするけど普通のリアクションでは使ってもらえない可能性が高いと判断したので一か八かの賭けだ。
「ぬうっ! やはりそうなのかっ! して、何が狙いじゃっ!」
「王っ! お下がりください!」
わたしのリアクションに合わせて宰相は王様を庇う様に立ちはだかり、警護兵がわたしに槍を向けて取り囲んだ。うん、なかなかの対応だ。わたしのアドリブに見事に合わせている! てか、警備兵でかっ! やっぱり外国人は身長高いわ。日本人女性の平均身長より低い、150㎝有るか無いかの低身長のわたしの周りを180㎝は余裕で超えるような巨漢の外国人に取り囲まれたら外から全く見えなくなるね……ということはカメラに映らないじゃない! どけよ、お前ら!
周りを外国人に囲まれてちょっと怯んだけど、カメラに映らなくては意味がないと手を左右に振って〝近づきすぎ〟を必死にアピールしたら警備兵役のエキストラに意味が通じたのか間隔を空けて少し離れてくれた。
これぐらい隙間があれば大丈夫だろうと気を取り直して魔女役を続ける。
「しかもただの魔女ではないわよっ! わたしは魔法一つでこのお城を吹き飛ばせるくらいの力があるのよっ!」
虚勢を張った分多少演技がオーバー気味だけど、こういうのは照れてはダメだ。ボケることにしたのならとことんやり通さなきゃ。……ちょっと恥ずかしいけど。
「今その力を見せてあげるっ! ファイヤーウォールッ!!」
わたしは昔よく遊んでいたRPGゲームを参考にそれっぽい呪文をポーズを決めながら唱えた。
「くっ! 魔法を使いやがった!」
「王をお守りしろ!」
「対魔法防御壁を使うんだ!!」
わたしは呪文を唱えても何も起こらず、気まずい雰囲気になった時に「あれっ?」というお約束の『ボケ展開』を考えてたんだけど……。
魔法の呪文を唱えると同時に周りに大きな炎の壁が現れて辺りを覆いつくし、取り囲んでいた警備兵が後ずさりながら喚き散らしていた。
「へっ? 何これ……」
辺りを覆いつくした炎を見ながら私は思わずそう呟いた……。
今後、週一くらいで更新できればと考えておりますので、よろしければブックマークしていただければと思います。
またコメントやレビュー、評価などもよろしくお願い致します。
なお、因幡よしぞうの本業はマンガ・イラストレーターです。
「因幡よしぞう」で検索していただければ漫画・イラスト作品が出てきますので、そちらもよろしくお願い致します。