表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

夫が「枯れ木に花を咲かせましょう」と言いながら自分の股間に灰を擦り付けてます

作者: しいたけ

 やはり愛犬のポチを亡くした事が決め手だったのか、夫はすっかりとボケてしまいました。

 御殿様がいらした際にも木に登り、なにやら奇行に走ったようでして、わたくしは切腹の覚悟をしながら納屋の奥で震えておりました。


「お絹! 今日はラフレシアじゃ!」


 もう夫は見るに堪えない程に痴呆が進み、わたくしは夫を見ることすら恐ろしくなっておりました。

 お隣の夫婦もいつの間にか居なくなり、きっと夫に耐えかねて出て行ってしまったのではないかと、わたくしは心を痛める毎日で御座います。

 もう残り少ない余生。穏やかな日々はもう望めないのでしょうか?


「お絹! サイネリアじゃ!」


 窓から外を見ると、大木を切った切り株がとても哀しそうにあるだけ。ポチの亡骸が埋まった大木を燃やして拵えた灰を大事そうに抱え、そして股間に塗りたくる夫。わたくしはもうこの生活に耐えられそうにはありません。


「お絹! 犬じゃ! 試しに犬を咲かせたらヨークシャーテリアが咲いたぞ! 八分咲きじゃ!」


 夫はついに限界を超えてしまったのでしょう。嬉しそうに外へと駆け出していきました。

 わたくしももう限界が近う御座います。お母様お父様、わたくしももうすぐお側へと参ります故。


「お絹! 坂本龍馬を咲かせすぎたわい! ぜよぜよ煩くてかなわん!」


 見覚えのあるお侍様が窓の外に沢山見えました。

 ついにわたくしの目も狂ってしまわれたのですね。


「お絹! 行けたぞ!! 無機物も行けたぞ! 一眼レフカメラが咲きおったぞ!! どうして今まで気が付かなかったのじゃ!」


 もうここは現世ではないのでしょうか?

 カ〇ラの北村はありますでしょうか?

 おありでしたら買い取りの査定の程、宜しくお願い致しとう御座いまする。


「金!! 金じゃ!! お絹!! 金が咲いたぞ!! 」


 わたくしは外へと駆けました。

 もうここが極楽浄土に違いありません。

 わたくしは御仏の身になれたのが嬉しくて、夫の全身に灰を塗りたくりました。

 夫は見る見るうちに全身が金になり、わたくしはそれが嬉しくて、その辺に居た坂本龍馬にも灰をかけてゆきました。


「我はギンギンぜよ」


 坂本龍馬は枯れてはいないらしく、どうやら灰かぶり(シンデレラ)になるだけでした。


「ガラスの草鞋で城へ向かうぜよ」


 足下の眩い坂本龍馬の大名行列が、江戸城に向かって進んでゆきます。

 残り少ない灰の桶。わたくしももう一花咲かせたくて、頭から灰をかぶりました。


 しかし、わたくしの身に変化は現れませんでした。


「まだ、枯れてはいない……のですか?」


 人生まだまだこれから。極楽浄土の仏様がそう仰ったように思え、わたくしは金の夫を抱え、お〇からやへ向かいました。


「メッキですね(笑)」


 私は怒りで夫を泉へと投げ捨てました。


「貴女が落としたのは銀の夫ですか? 鉄の夫ですか? それとも金の夫ですか?」

「ジョニー・〇ップです」

「嘘つきはボッシュート!」


 身軽になった私は、着の身着のまま旅に出ました。

 当てもなくぶらぶらと彷徨い、野草や魚を捕り山に籠もる。

 とても素敵な余生です。


「カメラは今、山姥が住むと言われる山へと来ております」


 たまに失礼なカメラクルーが来ますが、わたくしは元気です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] この疾走感wwww
[良い点] 泉の精霊は草野仁だったのでしょうか…。 奥さんが生き生きしてるのでよかったです。
[一言] ボッシュート。懐かしいなぁ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ