夫が「枯れ木に花を咲かせましょう」と言いながら自分の股間に灰を擦り付けてます
やはり愛犬のポチを亡くした事が決め手だったのか、夫はすっかりとボケてしまいました。
御殿様がいらした際にも木に登り、なにやら奇行に走ったようでして、わたくしは切腹の覚悟をしながら納屋の奥で震えておりました。
「お絹! 今日はラフレシアじゃ!」
もう夫は見るに堪えない程に痴呆が進み、わたくしは夫を見ることすら恐ろしくなっておりました。
お隣の夫婦もいつの間にか居なくなり、きっと夫に耐えかねて出て行ってしまったのではないかと、わたくしは心を痛める毎日で御座います。
もう残り少ない余生。穏やかな日々はもう望めないのでしょうか?
「お絹! サイネリアじゃ!」
窓から外を見ると、大木を切った切り株がとても哀しそうにあるだけ。ポチの亡骸が埋まった大木を燃やして拵えた灰を大事そうに抱え、そして股間に塗りたくる夫。わたくしはもうこの生活に耐えられそうにはありません。
「お絹! 犬じゃ! 試しに犬を咲かせたらヨークシャーテリアが咲いたぞ! 八分咲きじゃ!」
夫はついに限界を超えてしまったのでしょう。嬉しそうに外へと駆け出していきました。
わたくしももう限界が近う御座います。お母様お父様、わたくしももうすぐお側へと参ります故。
「お絹! 坂本龍馬を咲かせすぎたわい! ぜよぜよ煩くてかなわん!」
見覚えのあるお侍様が窓の外に沢山見えました。
ついにわたくしの目も狂ってしまわれたのですね。
「お絹! 行けたぞ!! 無機物も行けたぞ! 一眼レフカメラが咲きおったぞ!! どうして今まで気が付かなかったのじゃ!」
もうここは現世ではないのでしょうか?
カ〇ラの北村はありますでしょうか?
おありでしたら買い取りの査定の程、宜しくお願い致しとう御座いまする。
「金!! 金じゃ!! お絹!! 金が咲いたぞ!! 」
わたくしは外へと駆けました。
もうここが極楽浄土に違いありません。
わたくしは御仏の身になれたのが嬉しくて、夫の全身に灰を塗りたくりました。
夫は見る見るうちに全身が金になり、わたくしはそれが嬉しくて、その辺に居た坂本龍馬にも灰をかけてゆきました。
「我はギンギンぜよ」
坂本龍馬は枯れてはいないらしく、どうやら灰かぶりになるだけでした。
「ガラスの草鞋で城へ向かうぜよ」
足下の眩い坂本龍馬の大名行列が、江戸城に向かって進んでゆきます。
残り少ない灰の桶。わたくしももう一花咲かせたくて、頭から灰をかぶりました。
しかし、わたくしの身に変化は現れませんでした。
「まだ、枯れてはいない……のですか?」
人生まだまだこれから。極楽浄土の仏様がそう仰ったように思え、わたくしは金の夫を抱え、お〇からやへ向かいました。
「メッキですね(笑)」
私は怒りで夫を泉へと投げ捨てました。
「貴女が落としたのは銀の夫ですか? 鉄の夫ですか? それとも金の夫ですか?」
「ジョニー・〇ップです」
「嘘つきはボッシュート!」
身軽になった私は、着の身着のまま旅に出ました。
当てもなくぶらぶらと彷徨い、野草や魚を捕り山に籠もる。
とても素敵な余生です。
「カメラは今、山姥が住むと言われる山へと来ております」
たまに失礼なカメラクルーが来ますが、わたくしは元気です。