007
ユリアナが席に戻って来てから、軽く自己紹介をした。シストがファビオラのクラスメイトで仲良くしている事を聞くと、ユリアナは目を輝かせていた。ユリアナは、ファビオラの好きな物、大切なものが好き。いつも気がつくと、大抵ファビオラの手からユリアナの手に渡っている。
ファビオラは、ひたすら料理を口に運んでいた。シストは、終始デレデレした様子でユリアナと喋っている。ユリアナも楽しそうだ。
「ごめん。私、職員室に行かなきゃいけないんだった。シスト悪いんだけど、ユリアナの事頼める?」
ファビオラは、トレーを持って席を立つ。
「あっああ。任せろ」
「じゃあ、行くね。ユリアナ、またお家でね」
ファビオラは、返事を待たずに歩き始めた。流石に無理だ·····。ここに居たくない。
午後の授業は、全く耳に入らなかった。頭の中で、お昼の光景がぐるぐる回っていた。考え出したら、涙が止まらなくなりそうで、ただ時間が過ぎるのを待っていた。
放課後、帰ろうとするのをシストに呼び止められる。ちょっと話したいと言われ、空き教室に連れて行かれる。ファビオラは、何も言わずに付いて行った。
「さっきの今で、こんな事聞くのおかしいのわかってるんだが·····」
ファビオラは、感情がごっそり抜けた無表情でシストを見遣る。
「ユリアナちゃんは、彼氏や婚約者は居るのか?」
シストがめずらしく、気まずそうな表情だ。
「いないよ」
「本当か?俺なんかじゃ釣り合わないって、わかってるけど一目惚れなんだ。ずっと、ユリアナちゃんの笑顔が頭から離れなくて·····こんなの初めてなんだ。関係のある女とは、全部手を切るからファビオラ、協力して欲しい」
こんな事言う自分に照れているのか、顔が赤い。必死になってファビオラに頭を下げる。こんな顔もするんだな·····、私じゃダメなんだな·····。
「関係のある女って何?シストって、見かけ通り遊んでるのね。そんな事言って良かったの?私、知らなかったのに」
「本気だと言う誠意を伝えたかった。これからは、ユリアナちゃん一人を大切にするって約束する」
シストが、いつになく真面目な声で宣言する。
「じゃあ、さっさと帰ったら?手を切ってきたら、改めて紹介するから」
「本当か?わかった」
嬉しそうにありがとうと言って、両手を掴まれた。いつもなら飛び上がって喜びそうな所だが·····何も感じなかった。握られた手を、じっと見ているだけだった。
手を離され。
「じゃあ、また明日」
シストは、急いで教室を出ていった。クラスの教室でもないのに·····。ファビオラを置いて。
ファビオラは、誰も使っていないだろう机に腰掛ける。涙がとめどなく溢れてくる。もう、いいよね·····。よく自分でも我慢した。数時間前まで、もしかして両思いだと言う幻想まで抱いた。好きだった。こうやって泣いてる今だって、間違いなく好きなのに·····。一年間、大切に思いを温めた。
でも、また駄目だった。気持ちを声に出す前に、また終わりを告げられる。悔しくて、涙が止まらなかった。