おまけ1(ざまぁ編)
※ざまぁが嫌いな方は、読み飛ばすことをお勧めします。
※無理やり的表現があります。苦手な方は、御遠慮下さい。
※外見に対する、不快な表現があります。苦手な方は、ご遠慮下さい。
ある月の最後の日、国に5つしかない公爵家の一つプライス公爵夫妻が王宮に呼ばれた。プライス公爵夫妻と王と王妃は、学園時代から仲が良く年を取りながらも仲を違う事無く付き合って来た。
謁見の間で、王がプライス公爵に問うた。
「なぜ呼ばれたか、理解しているな?」
プライス公爵の頭には、心当たりは一つしかない。だがあの件は、公爵の中では片付いていた。わざわざ夫婦で呼ばれる意味が全くわからない。
「その顔は、理解していないな。誠に残念だエヴラールよ」
いつもは穏和な王が、冷ややかな視線で突き刺す。プライス夫妻は、全く予想だにしない展開に冷や汗が流れ始める。
「陛下、申し訳ありません。私達には何の事か·····」
「そなたの娘を、隣国の僻地にある修道院に送るように申し付けたはずだが?なぜ、未だに報告がない?」
プライス公爵は、娘の事は多額の保釈金と慰謝料を払い領地に引きこもらせた事で終わりだと考えていた。王太子の婚約者を傷つけようとしたが、実際に傷を負ったのは末端の子爵家の娘に過ぎなかったのだからと。事件を起こしたのは事実なので表に発表する処罰が必要だっただけで、まさか公爵家の娘を本当に僻地の修道院などに送らせるなど考えにも及ばなかった。
「ですが娘はあの後体調を崩して、修道院に入れる様な体ではないのです」
自分の可愛い娘を、修道院に入れるなんて出来ないと夫婦共に出した結論だった。
「どれだけ、王家を馬鹿にすれば気が済むのだ?プライス家の領地で、反省する事もなく毎日遊んで暮らしているそうじゃないか!監視してない訳がないだろう!」
今まで聞いた事も無い、王の叱責に夫婦は縮み上がる。全てお見通しで、自分達が嘘を口にした事もバレてしまった。何も言葉を発する事が出来ない。
「チャンスは一度くれてやったのに、お前達が台無しにしたんだぞ。あんな事をしておいて、修道院行きで良かったとなぜ思えない!お前たちのその甘さが、娘をあんな傲慢で我がままで自分勝手な人間にしてしまったんじゃないか!」
陛下なら見逃してくれるだろうと言う甘えがあった。自分の中に、驕りがあった事を理解し頭を垂れた。
「プライス公爵令嬢は、ベルクヴェルク国の側室として嫁がせる。そして、プライス家は侯爵に降爵する。爵位は、息子に譲って二人は蟄居せよ。以上だ」
王が、玉座から降りて謁見室から出て行こうと出口に向かって歩く。その背に、プライス公爵が呼びかける。
「そんな·····それはあまりに酷です!」
王は振り返る事なく、毅然と謁見室を後にした。
プライス領にある大きな屋敷に、一台の馬車が停まる。紋章を見ると、王室からだと分かる。王宮からの使者は、プライス公爵令嬢がある国に輿入れが決まったと説明する。王命なので速やかに履行するようにと。二時間後には、出発するので準備を始めよと。準備が終わらなくても、必ずプライス公爵令嬢を乗せて出発すると告げる。屋敷の従者達は、慌ただしく動き始めた。
ジャスティーンは、馬車の中で興奮に胸を躍らせていた。やはり私は、お姫様になるのだと。ベルント殿下との結婚は叶わなかったけど、他の国の王との結婚を用意してくれたなんて流石お父様だわ。これからの人生は、王妃として国の頂点に君臨するのだと信じて疑わなかった。
馬車の旅が、一週間を迎えやっと目的の国境に到着した。ここで相手の国の馬車に乗り換え、ファミーユ王国の馬車は引き返す事になっている。付き添いの侍女も許されず、ジャスティーンの身一つでの輿入れとなる。何かがおかしいと思い始めたのは、相手の国の旗を目にした瞬間だった。ジャスティーンを送り届ける為に帯同していた騎士や従者は、頑なにどこに嫁ぐのか国名を明かさなかった。着いてからのお楽しみだと。
その国旗は、ベルクヴェルク国のものだった。馬車に乗り換えてから、どんな国だったのか自分の知識をフル回転させて思い出す。小さな国だが、鉱山に囲まれ実に沢山の種類の宝石が産出される国で有名だった。宝石を他国へ輸出する事で潤沢な資金があり、国全体が豊かで生活水準が高い。現在の王は、国民にとっては賢王で知られる。問題があるとすれば、王の容姿と性癖だった。
王の顔半分は、生まれつき赤黒い痣で覆われ女性から忌み嫌われていた。痣のせいで、女性に心ない事ばかり言われ性格がねじ曲がってしまう。食に楽しみを見出し、でっぷりと太ってしまった事も女性に嫌われるのに拍車をかけた。いつしか王は、傲慢で高飛車な性格の悪い娘を側室に召し上げ、自分の様な醜い男に組み敷かせ抱かせると言う嫌がらせを始めた。娘達のバカ高いプライドをへし折り、楽しんだ。後宮は、プライドをへし折られて生きる屍の様になった女達で溢れている。
国の中に、悪質な娘がいなくなると国外にも呼び掛ける様になる。私の好みの女を送ってくれれば、特別な価格で宝石の取引に応じると。国で手に余るような悪女を、引き取ってくれる有難い国として有名になっている。
全てを思い出したジャスティーンは、真っ青になる。だが、もう何もかもが遅い。馬車は、ベルクヴェルク国の王宮の門を通り過ぎた時だった。王宮に着くと、直ぐに後宮の一室に連れて行かれ侍女達によって体を磨かれた。
夜が来るまで、部屋で自由に過ごして下さいと言われる。ジャスティーンは、これから何が待ち受けているのか予想だに出来なかった。自分が知っている知識は、あくまでも噂だ。もしかしたら、自分が夢見る男性かもしれないと、一縷の望みをかけ祈るように半日を過ごした。
その時が来る、ジャスティーンの部屋の扉が開き、一人の男性がバスローブ姿で入室してきた。姿を見て、これは夢だと夢であって欲しいと切に願った。
ジャスティーンは、ベッドに腰掛けていたが男が近づいて来る度に後ろに後ずさった。
「ほう、今回もなかなか美人じゃないか。どれくらい楽しませてくれるんだ?」
バスローブから覗く肌が、お風呂上がりなのに油ぎっている。赤黒く変色した顔半分が、人間のモノに思えなくて恐ろしい。赤い目がギラギラと輝き、口はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。
「いや·····来ないで!こんなの違う。いやーーーーー」
ジャスティーンは、男に枕を投げつける。
「いいぞ。どんなに叫んでも、泣いても助けなんて来ないからな。俺が、存分に可愛がってやるよ」
男は、ジャスティーンの腕を取り顔を近づけてくる。
「いや、いや、いやーーーーー」
その夜は、ジャスティーンがどんなに叫んでも暴れても楽しそうに笑う男の声しか聞こえてこなかった。