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 それから月が替わり、新しい部署へと異動が決まった。次の部署は、騎士部第一騎士団。辞令を受けた時に、騎士部だったら、第二騎士団が良かったよーと心の中で叫んだのはファビオラだけの秘密。第一騎士団は、主に王族達の警護と王宮内の警護に分かれる。近衛騎士と呼ばれる精鋭揃い。なので、貴族だけの集団で、所属しているほとんどが高位の貴族なのだそう。


 侍女の仕事としては、団長や副団長の書類仕事の補佐。騎士達のスケジュール管理。騎士達の制服や武器などの備品管理など。仕事の幅が多岐に渡り、やりがいを感じる。担当の先輩侍女が教えてくれた所によると、王宮侍女達の中で人気ナンバーワン部署なのだとか。だから、研修で新人が配属されるって珍しいのよ、との事。それを聞いたファビオラは、まさかまた勝手に人気部署だから喜ぶだろうと思って配属したんじゃ?とベルント殿下の顔がよぎる。


 ファビオラ的には、高位貴族の方と話すのは未だに緊張する。それに第一騎士団の方々は、騎士も侍女もみんな見目も良くて何だかファビオラだけ浮いてる気がして居心地が悪かった。


 それでも仕事は仕事と割り切って、いつも通り淡々と言われた事をこなしていた。それに嬉しい事もあった。毎日、第二騎士団の団長の元に前日にあった事を記した書類を持って行かなければならない。なんとこの仕事が、侍女の中で嫌がられている。理由は、第一と第二の騎士団の事務所が王宮の端と端とで遠いから行くのがめんどくさい。人気部署に選ばれる程の侍女達は、平民出の騎士がいる第二騎士団に興味がないらしい。下手に声を掛けられたくないんだって。どれだけ上から目線なんだよ!と表情に出さずに心の中で叫んだ事を褒めて欲しい。


 ファビオラは、下っ端の新人なのでこの部署にいる間は私が責任持って毎日やりますと宣言した。結果、先輩侍女達から思いのほか喜ばれた。


 書類が出来ていれば、午後の好きな時間に持って行っていいと言われたのでファビオラは午後休憩の直前に持って行く事にした。書類を持って行った後に、そのまま休憩に入っていいと許可を貰って。


 ファビオラは、ルンルン気分で第二騎士団の事務所に向かう。団長の執務室の前に到着すると、トントンとノックをする。


「騎士部第一騎士団のファビオラです。書類を持ってきました」


 すると、返事ではなく扉が突然開く。


「ファビオラ?」


 第二騎士団の団長ローレンツが、驚いて出て来た。


「ローレンツ団長、日報報告を持って参りました」


 驚かせようと黙っていたのが成功して、ファビオラは満面の笑みで返事をした。


 びっくりしながらローレンツが、執務室の中に入れてくれた。


「びっくりした。第一に配属されたのか。教えてくれよ」


 ローレンツは執務机に腰掛けながら、不満そうだ。


「ふふふ。びっくりさせたくて言わなかったんです。でも、折角なら第二に配属されたかったです」


 ファビオラが、残念そうに書類をローレンツに手渡す。ローレンツが、書類を受け取りながら口を開く。


「なんだ、人気ナンバーワン部署だろ。嬉しくないのか?」


「うーん。だって皆さん高位の方々ですし、外見も素敵ですし私には場違いな感じがして・・・」


 ファビオラが、困った様な顔でローレンツを見る。


「それをラッキーと思わないのが、ファビオラだな」


 ローレンツが妙に納得している。


「時間はあるのか?あるなら、お茶していけ」


 ファビオラが、瞳を輝かせる。


「はい。実は休憩直前に来たんです。そのまま休憩に入って良いって許可も貰って来ました。これから毎日、この時間に来てもいいですか?」


 ローレンツが目を見開いて驚いている。


「毎日?」


「はい。この仕事の担当にして貰いました」


 ファビオラが、やりましたとばかりに目をキラキラさせて喜んでいる。


「全くおまえは・・・。わかった、毎日楽しみにしとくよ」


 アーベルじゃないが、こいつは可愛いなと思ってしまう。妻には言えんなと心の中で笑う。明日は、アーベルとキースも呼んでやろうと誓うのだった。





 ***********************



 それから毎日があっという間だった。騎士団での仕事は、あっちこっち行くので退屈しなかったし、書類仕事なども任せて貰えたのでやりがいがあった。何より、一日に一度の第二騎士団への書類運びが楽しみで、それの為に毎日働いていると言っても過言ではない。初めて行った次の日からは、ローレンツ団長だけでなくアーベル副団長がいたりキース様がいたりと、ちょっとの時間ではあるが楽しい時間を過ごさせて貰っている。こう毎日だと迷惑かなと思ったりもして。ローレンツ団長に言ったら、俺たちも楽しみだから気にするなと言ってくれて顔がにやけてしまったのも、もうかなり前の話。


 思ってるだけだけど、毎日好きな人に会えるかもと思うと生活の楽しさが全然違った。今思えばこの時の私は、浮かれて調子に乗っていたんだと思う·····。


 夜会にアーベルと出席した後に、嫉妬深い令嬢などに嫌がらせを受けるかなと多少の覚悟はしていた。噂に疎いファビオラでも、侯爵家の長子で騎士団の副団長なのだ、人気があって当然だと。しかし、顔も知らない名前も知らない侍女から、遠くで嫌味を言われるくらいで特に酷い嫌がらせはなかった。自分が思ってるほど、社交界の人達はファビオラの事を何とも思ってないのかもと反省していたくらい。でもだからって、忘れてはいけなかったんだと思う。王宮は人の気持ちが渦巻く、綺麗な場所ではないと言う事を・・・。


 ある日、いつものように王宮の廊下を歩いていると知らない侍女がファビオラに声をかけて来た。


「ファビオラ マルティネス様ですよね?」


 ファビオラは、誰だろうと思いながら足を止め返事をした。


「はい。そうですが、何か?」


 侍女は、ほっとした様に顔を緩め伝言を伝えてきた。


「フェレーラ侯爵令嬢から伝言を預かりました。今日の午後の休憩時間に、夜会ホールの隣にある休憩室シレネの間に来て頂けないかと。折り入ってご相談したい事があるのですって。時間がなくて手紙ではなく、伝言になってしまいごめんなさいとおっしゃってました」


 それでは、と言うだけ言って足早にファビオラとは逆の方向に去って行ってしまう。ファビオラが、えっ?と思った時には見知らぬ侍女は去ってしまった後だった。質問する暇を与えて貰えず、ファビオラは考え込む。シェリーが相談って何かしら?仕事の合間に呼ぶだなんて、何かあったのかな?ファビオラは、シェリーの事が頭から離れなかった。


 ファビオラは、午後になると先に第二騎士団の書類を持って行く事にした。ローレンツ団長の執務室に入ると、今日は早いなと声を掛けられる。今日は、用事があるので書類だけ置いてすぐに戻りますと挨拶する。するとローレンツは、残念そうにじゃあまた明日なと言ってくれた。ファビオラは、些細な事だけど嬉しいなと思いながら、第一騎士団へと戻った。


 休憩時間までの間、何度も時計を確認してしまう。早く時間が経てばいいのにと。ようやっと休憩時間になった為、指定された部屋へと足を運んだ。夜会会場付近は、夜会の予定がなければ特に人気が無く静まり返っている。休憩室がある棟に足を踏み入れると、使われていないからひんやりと寒々しい。誰もいないから少し怖いなとファビオラは思う。何でこんな所に呼び出したんだろう?と疑問に感じながら休憩室シレネの間の前にたどり着く。


 コンコンとノックをする。誰からも返事はない。ファビオラは、恐る恐る扉を開ける。中を見ると、綺麗に片付けられた花の壁紙が目を引く可愛らしい部屋だった。部屋の奥にはソファとテーブルがあり、横には誰が用意したのかお茶のセットが置かれていた。ファビオラは、扉を開けたまま室内に入る。お茶のセットが置かれている場所に向かってポツリと声を零す。


「シェリーが用意したのかな?」


 ファビオラが考え事をしていると、扉を叩く音が聞こえた。振り返ると、シェリーとシェリーの侍女が連れ立って部屋の中に入って来た。後から入った侍女は、扉を閉めている。


「良かった。本当にファビオラだったのね。半信半疑だったけど、来てみて正解だったわ。それでどうしたのファビオラ?」


 シェリーがホッとした顔をしつつも、心配そうな顔をファビオラに向けている。


「え?シェリーに、何かあったんじゃないの?」


 ファビオラは、何か嫌な予感が胸を襲う。右手でギュっと胸元を握りしめた。


 バタンッ!


 突然、何人かの令嬢が部屋の中にずかずかと雪崩れ込んで来る。ファビオラとシェリーは何が起こったのか解らず、音がした方を振り返る。見ると先頭切って入って来た一番派手な令嬢が、カツカツとヒールを鳴らしシェリーの前に聳え立つ。そして徐に、手を張り上げた。


 バシンッッッ


 シェリーの頬を力一杯ひっぱたいた。



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[良い点] はりて [一言] えくすとりーむ張り手ktkr 物語的にはアリなんだろうけど、未来の王太子妃に何をしよるんじゃw
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