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 ファビオラは、姉や妹に素っ気無く接する人を初めて目の当たりにした。アーベル様、全く姉達に興味を持たなかった·····。思ってもいなかった展開にびっくりしすぎて、ファビオラはアーベルに促されるまま歩いていた。


「ファビオラ」


 アーベルが止まり、顔を覗き込まれる。ファビオラは、ハッとして我に返る。


「アーベル様、家族が失礼な態度で申し訳ありません」


 ファビオラは、先程の姉の態度を思い出し謝罪する。


「ああ、気にしてない。それより、これから陛下に挨拶に行くが大丈夫か?」


「えっ?一緒にですか?」


 ファビオラは、まさか一緒に陛下に挨拶に行くなんて思いもよらずビックリする。


「なんだ、嫌なのか?」


 アーベルが、眉間に皺を寄せる。


「いっ、いえ。びっくりしただけです」


 アーベルが歩き出そうとするのを、ファビオラは引き留める。全く休憩もなく今までいたので、飲み物を一杯飲みたかったし、陛下に挨拶に行く心の準備もしたかった。


 アーベルが飲み物を取りに行ってくれ、ファビオラは一息つく。色々な事が起こり過ぎて、そろそろ許容量を超えそうだ。ファビオラは、とにかく落ち着かないとと深呼吸する。


 今まで陛下に挨拶した事なんて、デビュタントの時の一度きり。それだって、形式ばったものだったので緊張はしたが一瞬だった。今回は、アーベルのパートナーとして一緒に行く。恥ずかしい事は出来ないと、頭の中で所作や挨拶の言葉をイメージする。そうしてる内に、アーベルが飲み物を持って来てくれたので、グラスを有難く受け取った。





 ファビオラは今、陛下と王妃の前で膝を折り精一杯の淑女の礼をしている。アーベルが、ファビオラを陛下に紹介してくれたからだ。


「ファビオラ マルティネスと申します。本日は、おめでとうございます。陛下と王妃殿下にご挨拶する機会を頂き、光栄に存じます」


 陛下が、ファビオラの挨拶に返答する。


「顔を上げなさい、ファビオラ。今日は、会えてうれしいよ」


 ファビオラが顔を上げると、笑顔の陛下と王妃殿下が目に入った。ファビオラは、陛下が自分の事を知っているかのように話されたので不思議に思った。


「ファビオラ、あなたには感謝しているのよ。今日、王太子の婚約発表が出来たのは、あなたのおかげなのですって?」


 王妃様が、驚くような事を述べる。


「いっ、いえ。私は、何も·····。王太子殿下が自分で探された結果です」


 ファビオラは、内心でドキドキしていた。まさか、陛下も王妃殿下もあの事を知ってるの?あの場にいたのは、王太子とファビオラとセバスチャンだけだったのに·····。セバスチャンさん、どーなってるのよーっと心の中で絶叫する。知られてるのは、しょうがないとしても事前に一言欲しかったっとファビオラはセバスチャンを恨む。


「あれが、そういう事にあそこまで疎いと思わなくてな。しかし、説教したと聞いて笑ってしまったよ。わしは、ファビオラでもありだったがな」


 そう言って、陛下はファビオラに笑いかけた。ファビオラは、心の中で焦る。何を言ってるんだ!陛下は。頭を抱えたくなる。


「なんの話でしょうか?」


 アーベルが、話の内容がわからず困惑顔だ。


「この話は、後でゆっくりファビオラから聞きなさいな。面白い話だから」


 王妃が、いたずらっ子のような顔で面白がっている。


「それはそうと、まさかアーベルがファビオラを連れて来るとはな。なかなか良い組合せじゃな。良い報告を楽しみにしとるよ」


 陛下と王妃殿下は、本気で二人がお似合いだと思ってる様でファビオラは困惑する。アーベル様と釣り合うわけないのにと。


 陛下との挨拶は、そこまでとなった。他の方が、挨拶に来られたのでファビオラとアーベルは陛下と王妃の前から辞した。


 ファビオラは、もうくたくただった。しかも最後に王妃から、爆弾を落とされ内心気が気じゃない。あれを、アーベル様に説明するってどんな罰ゲームよ·····。


 明らかに疲れ切っているファビオラを気遣い、その日はそれで帰宅する事となった。夜会会場を後にするファビオラを、じっと見つめる令嬢がいた。その目は、怒りに満ちている。しかし、その視線にファビオラが気づく事はなかった。




 帰りの馬車の中で、ファビオラはなぜ?と動揺していた。行きは、向かい合わせで座っていたはずなのに、なぜか今は隣同士で座っている。距離がすごく近い。しかも、アーベルの腕がファビオラの腰にある。ドキドキしすぎて、どうにかなりそうだった。


「今日は楽しかったか?」


 アーベルが、肘掛けに肘を突き、ファビオラの顔を見ながらしゃべり出した。


「はい。とても。きっと今までで一番でした」


 ファビオラは、アーベルの顔を見るのが恥ずかしく正面を向いて答える。


「そうか·····。ファビオラは、思った以上に知り合いが多いな。楽しそうにダンスも踊ってたな」


 アーベルが不意に、手を伸ばしてファビオラの髪を取り耳にかけてくれた。ファビオラは、何が起こったのか理解出来ない。今日の、アーベル様なんかいつもと違う。ファビオラは、真っ赤になってしまった顔を俯ける。


 アーベルは、顔を赤くしたファビオラを愛おしそうに見つめた。きっと自分でどんな顔をしているか、本人は気づいていない。今も心の中で、今日のファビオラの姿が目に浮かんでいた。年頃の男と踊っているファビオラは、とても楽しそうだった。それが無性に面白くない。妹の婚約者と、呼び捨てで呼び合っていたのも、許せなかった。


 アーベルは、今まで感じた事のない感情に戸惑っている。


 今まで、女性との付き合いがない訳ではない。若い頃はそれなりに、請われれば付き合う事もあった。だが、自分から相手に何かをした事がない。女性の方から注文され、気まぐれに応じていた。積極的な女性ばかりを相手にしていたからなのか、アーベルはファビオラに距離感が近くなっている事に気づいていない。


 ファビオラの様に、男性に対して免疫がない子に思わせぶりな態度をしているつもりが全くなかった。ただ、ファビオラを見ていると今まで感じた事がなかった気持ちが溢れていた。なんで、ファビオラにだけ特別なのかと自分でも不思議なほど。


 今までは付き合っても、相手の女性に興味を抱けなかった。自分に気持ちがないとわかると、大抵の女性は離れて行く。離れて行かれても、なんとも思わなかった。ただ、漠然とファビオラに離れて行かれるのは嫌だと思う。このままで十分だなと。誰かを求めた事がないアーベルは、わからなかった。


 馬車が屋敷に到着する。


「今日はもう遅いから、うちに泊まりなさい。明日送って行く」


 ファビオラは、流石に疲れていて素直に頷いた。





 *************************


 その頃の夜会会場では、ファビオラの事が話題の中心だった。今まで全く目立たなかった、マルティネス家の三姉妹の真ん中の子。ダンスを申し込まれているかと思うと、いつも姉や妹への橋渡しをお願いされる。姉や妹と違い、パッとしない容姿。哀れみの対象にされていた子だったのに。それが、ここ数年夜会に姿を現さなかった、ハーディング侯爵令息と仲睦まじく登場した。しかも、誰かわからないくらい綺麗になっていた。好意的な声と、なぜあんな身分の低い子がと言う嘲りの声に二分していた。


 アガサは、ローレンツに興奮気味に話しかけていた。


「ちょっと、ファビオラちゃん凄すぎない?何?あの交友関係。いきなり、トバイアス侯爵閣下と踊ったかと思うと次フェレーラ侯爵閣下よ。トバイアス侯爵閣下なんて、気難しい人で有名なのに!しかも、止めに陛下と王妃殿下よ。何をあんなに長い時間話してたのかしら?今度、聞いといてね」


 アガサは、ローレンツに寄り添い、これから面白くなりそうねとニヤニヤしていた。


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[一言] 王太子にまで将来頼りにされるのだろうか
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