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017




 

 ファビオラは、目を開ける。室内が明るくなっていた。


「私、寝たのかな?ただ、目を瞑ってただけの様な気もする·····」


 虚しい独り言が、ファビオラの部屋に響く。


 昨日あった出来事を思い出すと、頭が痛い。あの後は、何とか最後まで仕事をこなして自分の部屋にたどり着いた瞬間、膝から崩れ床に座り込んだ。


 殿下からの衝撃のプロポーズ。何も知らない頃の自分なら喜んで受けたのだろうか?でも、と流石に頭を振る。あの冷たい目と仕事のついでに言われた事を考えて、勘違いするほど馬鹿では無いと信じたかった。


 失礼な扱いをされていると言う怒りとか、やっぱり好きになって貰えない寂しさとか、王太子に対して失礼過ぎた言動に対する反省だとか、頭の中はごちゃごちゃだった。


 何とか寝支度をしてベッドに入るも、頭の中で色々な事がグルグル回っていた。それに加えて明日の予定を考えると、こんな気持ちで楽しめる気がせず、落ち込む。朝起きて、ワクワクしていた気持ちを返して欲しいとベルントに怒りが湧いた。


 一晩中、なかなか寝付けずに目を瞑っていただけの時間が長く、ちゃんと寝たのかよくわからなかった。


 朝起きた時の、コンディションは最悪だったのは言うまでもない。



 待ち合わせの時間は、午前10時。まだまだ時間はたっぷりある。ベッドから起き出したファビオラは、伸びをして気合いを入れる。


「気持ち切り替えて、準備しよう!」


 部屋にある洗面所に行き顔を洗う。鏡の中の自分を見つめた。姉や妹の様にもっと可愛ければと思考が持っていかれそうになる。


 パンっと、両手で顔を叩く。違う、そうじゃない。私を認めてくれる人だってちゃんといる。ありのままの私を好きになって貰わなきゃ意味がない。もう一度、バシャバシャと水をかけて顔を洗った。


 着替えて、食堂に朝ごはんを食べに行く。食堂は、沢山の人がご飯を食べていた。ファビオラがトレイを持って、空いてる席を探していると財務部でお世話になった先輩侍女が手招きしてくれた。


「おはよう、ファビオラ。ここ空いてるから一緒に食べよう」


 ファビオラは、勧められた席に向かった。


「エリン先輩、おはようございます。混んでたから助かりました。ありがとうございます」


 そう言って席に腰掛けた。ファビオラは、先輩に近況報告をし、たわいもない話に花を咲かせた。先に食べ終わった先輩に、唐突に話を振られる。


「それはそうと、今日はお休み?可愛いワンピース着てるじゃん。凄く似合ってるよ。髪とメイクは、どうするの?」


 ファビオラは、今日はキースに選んで貰ったワンピースを着ていた。起きたばかりで、髪もメイクもまだ整えていない。部屋に戻ってから軽く整えればいいと思っていた。


「ワンピースは、この前新しく買った物で·····。髪とメイクは、部屋に戻ったらやろうと思ってて」


 それを聞いた先輩侍女は、目を輝かせる。


「それ、私にやらせてくれない?私、実は王女部を希望してた時があって女の子可愛くするの好きなのよ!」


「えっと、でもエリン先輩、時間大丈夫ですか?」


 ファビオラは、思ってもいなかった申し出にタジタジする。


「まだちょっと時間あるし、大丈夫大丈夫。さぁー行こう行こう」


 ファビオラは、返事をする隙を与えられず、食器を片付けて部屋に連れて行かれた。




 先輩侍女の部屋に連れて行かれ、鏡の前に座らされてからが早かった。あっという間にメイクを施され、髪も綺麗に整えられた。


「出来た!思った通り、めちゃめちゃ可愛い」


 肩に手を乗せて、鏡越しに話しかけられる。


 ファビオラは、鏡の中の自分をマジマジと見る。朝、顔を洗った時に見た冴えない自分は何処にもいなかった。


「これ·····私ですか?」


 ファビオラは、信じられないとばかりにポカンとしてしまう。


「ファビオラって、充分可愛いのに何か諦めてたよね?最低限しか手入れしてないし。女の子って磨けば誰だって、より可愛くなれるよ。これを機に、ちゃんと磨かなきゃダメ。教えてあげるから」


 鏡に映ったファビオラは、目元パッチリでアイラインによって可愛らしさが強調されている。髪はハーフアップにされ、サイドの髪は編み込まれ後ろに纏められていた。今日のワンピースに良く似合う、年相応の可愛い女の子だった。


 メイクと髪型でこんなに変わるものなのかと、ファビオラは驚いていた。


「ごめんね。そろそろ、仕事に行かなきゃ。また、今度ゆっくり教えてあげるね」


 ファビオラも椅子から立ち上がりお礼を言う。


「ありがとうございました。自分じゃこんな風に出来なかったです」


「喜んでもらえて、良かった。お出掛け楽しんできて」


 先輩の部屋の前で別れて、ファビオラは自分の部屋に戻った。ファビオラは、改めて姿見の前に立つ。昨日までとは違った自分がそこにいた。今まで、美人や可愛いのは姉や妹で自分ではないと決めつけていた。容姿を磨こうなんて全く考えた事がなかった。振り向いて貰えなかったのは、少なからず自分に問題があったのかもなとファビオラは思う。


 もう比べられる事はないのだから、私は私なりに容姿を磨いてもいいのかもと自然と思えた。何より、いつもの自分より可愛くして貰ったことが嬉しくてウキウキしてしまう。


 こう言う気持ち、久しぶりだなと笑顔が溢れた。朝はあんなに落ち込んでたのに、単純だなと笑ってしまった。


 ファビオラは、上機嫌のまま食堂に行き頼んでおいたお昼用の軽食を受け取った。バスケットには、二人分のサンドイッチやフルーツ、水筒が入っていた。



 お礼を言って食堂を出ると、待ち合わせ場所に向かう。待ち合わせ場所が見えてくると、馬と男性が一緒にいるのが目に入る。アーベル様かしら?まだ少し早いけど、待たせてしまったかもと早足で急いだ。


「すみません。お待たせしました」


 馬の方を見ていた男性が、ファビオラの方に顔を向けた。その瞬間、ファビオラは固まってしまう。余りに整った顔の美男子だったからだ。


「大丈夫だ。久しぶりだなファビオラ」


 声を聞いて、間違いなくアーベルだと理解する。今まで見たアーベルは、長い前髪で目元が隠れていたため野暮ったい印象だった。それが今日は、前髪をサイドに流している為目元が見える。キリッとした眉にシャープな目、ハッキリとした涙袋が印象に強い。


 こんなに格好良い人だったとは·····。ファビオラは、心の中で動揺していた。なっ何かへっ返事しないと!


「あのっ、今日は髪型が違いますね」


 ちがーう!動揺し過ぎて、思ってた事をそのまま口にしてしまう。


「視界が悪いからな、馬に乗る時だけだ。ファビオラも可愛いな」


 そう言って、アーベルはファビオラの髪を取りそっと口づけた。ファビオラの顔は一気に真っ赤に染まり顔を俯ける。


 かっ、可愛いって言った?勘違いじゃなくて?違う違う。社交辞令。社交辞令だから!と自分に言い聞かせる。


「じゃあ、行くか」


 アーベルは、そう言ってファビオラに手を差し出した。



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