015
本日は、ほんのりボーイズラブ的要素有りです
(´•ω•`)
ファビオラは、騎士団の寮の前に立っていた。仕事を定時で終わらせ、一度寮に戻って着替えた。勢いで来てしまったが、ここに来て足が止まってしまう·····。
どうしよう。大丈夫かな·····?やっぱり迷惑だよね·····。いつでも来て良いって社交辞令だったかも·····。寮の入口の前でファビオラは、うろうろしてしまう。
ガチャッと音がしたと思ったら、寮の入口から恰幅の良い年配の女性が出てきた。
「お嬢ちゃん、さっきからうろうろしてどうしたね?恋人と待ち合わせ?」
恐らく、寮の管理人だろう女性が、心配して外まで出て来てくれた。見られていた事に気まずさを感じながら、しどろもどろで答える。
「あっ、あの。私·····、キース カティック様に会いに来たんですが·····。いらっしゃいますか?」
「キースかい?いると思うよ。お嬢ちゃん、キースの友達かい?」
「えっと·····はい。先日、知り合ったばかりなんですが·····」
ファビオラは、友達と言っていいのか疑問だった。つい自信なさげになってしまう。だが、そんな事に気づかない管理人は、部屋番号を教えてくれた。
「キースの部屋は、305号室だよ。階段を三階まで登って、突き当りの角部屋」
そう言うと、扉を全開に開けて手招きされる。入っておいでと言っているのだと、理解する。ファビオラは、おずおずと寮の中に足を踏み入れる。好奇心から、中をキョロキョロと見回してしまう。
「悪いんだけど、受付ノートに名前だけ書いてもらえる?」
いつの間にか、カウンターに管理人さんが移動しており、机の上に置いてあったノートとペンを指し示した。
「あっ、はい」
ファビオラは、カウンターに近づくとノートに名前を書く。顔を上げると、奥に階段が見えた。
「この奥が上に続く階段だから。じゃあ、私はもう帰るよ。お嬢ちゃんが帰る時は、またこのノートに帰る時間を書いといて」
「はい。わかりました。ご丁寧にありがとうございます」
ファビオラは、管理人さんに頭を下げて階段に向かった。
管理人さんに言われた通り、三階まで上り突き当たりの部屋までたどり着く。ファビオラは、緊張してドキドキしている。落ち着こうと、一度大きく深呼吸する。よし。
勇気を出して、トントンっとノックする。
──── シーン。··········返事がない。
あれ?いないのかな?ファビオラは、もう一度トントンっとノックをして今度は声をかけた。
「キース様。ファビオラです」
やっぱり返事がなく、諦めて帰ろうとしたその時
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ガタンッ バタバタバタ 大きな物音と共に、声がする。
「ファビオラ?ちょっ·····ちょっと待ってて!」
バタバタ ガサガサ と慌ただしい物音が聞こえる。
どうしよう·····。キース様、疲れて寝てたのかも·····。休んでる所に来ちゃうなんて、最悪だ·····。ファビオラは、ドアを避けて壁際による。やってしまったと、落ち込む。
数分待って、バタンッとドアが開く。
「ファビオラ、待たせてごめんねぇー」
出て来たキース様は、ほのかな色気をまとい急いで着た為か、真っ白なシャツのボタンがかけ間違えている。髪も心做しか、乱れている。
「突然来てごめんなさい!」
ファビオラは、ガバッと勢いよく頭を下げた。
「やーねー。大丈夫よー。寧ろ、来てくれて嬉しい」
キースが、嬉しそうに笑顔で答える。その後ろから、キースよりも背の高いガタイの良い男性が姿を現す。
「そうだぞ、嬢ちゃん。キースの友達なんだって?ゆっくりしていきな。じゃーな」
出てきた男性は、言葉をかける隙もなく立ち去っていく。
ファビオラは、出て来たのがキースだけじゃなかった事に動揺する。色々な事が頭を巡り、固まってしまう。えーっと?今のは·····キース様の恋人?キースが出てきた時の印象が頭をよぎる。
えっ?それって、そういう·····。顔がカァーッと熱くなるのを感じる。きっと、真っ赤になってるハズ。恋人との時間を邪魔した事に気付き、申し訳なさが襲ってくる。ファビオラは、涙目になった。
「キース様·····。ごめんなさい·····」
泣きそうになってワタワタしているファビオラを見ながらキースは、色々察しちゃったわね·····と理解する。恥じらっちゃって可愛い。
「そんな顔しないの。本当に来てくれて嬉しいのよ?ファビオラ、夕飯は食べた?」
「まだです·····」
ファビオラは、気にしなくていいと言われたが気持ちが吹っ切れない。
「じゃあ。この前のお店に行きましょう」
そう言うとキースは、一度部屋の中に戻り出掛ける準備を整えた。戻って来たキースは、髪を整えシャツもボタンが直っていた。部屋の鍵を掛けて、ファビオラを外に連れ出した。
**********
店に向かう馬車の中で、ファビオラはキースにひたすら謝った。今後は、絶対に前以て連絡すると約束する。キースの方は、全然気にする事もなく連絡はあってもなくてもどっちでも良いわよっと。相手もそんな事くらいで怒る人じゃないから大丈夫。と逆に惚気られた。そんなキースを見て、なんだか羨ましくなった。
お店に到着して、一通り注文を済ませる。キースが、身を乗り出す様に口を開く。顔は興味津々で、楽しんでいるのがわかる。
「でっ!何があった?」
ファビオラは、アーベルに送って貰った時の一件を話す。キースが、ニヤニヤしてファビオラの話を聞いていた。
「へー。あの男がねー。それで、何で私に会いに来たの?」
変わらずキースは、ワクワクしている。ファビオラは、勢いで来てしまったが、よく考えると恥ずかしい事を相談しに来てるなと思う。
「あの·····今更ちょっと恥ずかしいんですが·····。洋服とか何を着て行けばいいかわからなくて·····。馬で迎えに来るって、私乗った事ないしどうすればいいんでしょうか?」
ファビオラは、自分で言ってて恥ずかしくなる。きっと顔は真っ赤だ。落ち着こうと、水の入ったグラスに手を伸ばす。
「ふふふふふー。やだぁー、ファビオラめっちゃ可愛いんだけど!ファビオラっていくつなの?もしかして、デート初めて?」
ぶふっ。びっくりしたファビオラは、飲んでた水をむせた。
「デート?これってデートなんですか?だって、お礼って言ってました!」
グラスをテーブルにバンっと置いて、布巾で口を拭いながら抗議する。
「やぁーねー、お礼という名のデートよ」
まったく、困ったちゃんねっとキースの目が言っている。
えっ?デート?デートって、年頃の男女が二人で出掛ける?何で?アーベル様が?態々私なんて誘わないだろー。また、勘違いするからやめて欲しい!
「キース様、勘違いしちゃうから揶揄うのやめて下さい!それで服装とか、私疎くてキース様なら詳しいかなと思って相談に乗って貰いたかったんです」
ファビオラは、若干怒った様に口を尖らせる。キースは、アーベルを思うと笑いが込み上げる。何この子、思ってた以上に面白いかも。
「私で良ければ、勿論相談に乗るわよ。じゃー、今度一緒にお勧めのお店に行きましょう。でも、ファビオラちゃん女の友達いないの?」
キースは、無遠慮に直球で聞いてくる。ファビオラは、矢が胸に突き刺さる心境だ。うっ、キース様なかなか容赦ない。
「いるんですけど·····。仲良くしてる子が侯爵家の御令嬢で、私には分不相応な気がして·····。キース様なら、高級店からお手頃店まで幅広く知ってるような気がして」
キース様は、裏表がなくてハッキリしてるからついつい何でも話したくなってしまうな。
「へー。侯爵令嬢ねぇー。それはまた、なかなか凄いわね」
キースが、にこにこしている、
「あの、キース様。私、知り合ったばかりでこんな事相談してて、ご迷惑じゃないですか?何だか、キース様って話しやすくて·····。踏み込み過ぎてたら、ごめんなさい」
ファビオラは、キースから目線を外して俯きがちになる。
「あら。全然問題なしよ。可愛い妹が出来たみたいで嬉しいわよ。私、男兄弟しかいないから、ファビオラなら大歓迎よー」
そう言って、パチンッとウィンクをした。
それから、門限ギリギリまで色々な話をした。勿論、今度会う約束もきちんとする。それにキースの恋人の惚気もしっかり聞かされた。ファビオラにとって、とても楽しい時間だった。