014
ファビオラは、完全に浮かれていた。昨日の事を思い出すと、顔がニヤけてしまう。今日は1日中、昨日の事を思い出して幸せな気持ちに浸っていた。
昨日は、本当に楽しかったー。外でご飯を食べたのなんて、何時ぶりだろう?あんなにざっくばらんに、誰かと笑いながらご飯食べたのなんて初めてだったし。
アーベル様もローレンツ様もキース様も、とっても素敵な方達だった。それに、助けて頂いたのが、第二騎士団の副団長様だったのにもびっくり。
初めは、目元が前髪で隠れてるから、表情がわからなくて迷惑だったかもと不安だった。何となくオーラが怖かったし。ニコリともしてくれなかったし·····。でも、四人でご飯食べてたら雰囲気が柔らかくなってた気がする。
ローレンツ様やキース様みたいに、お喋りなタイプではなかったから、まだよくわからないけど。でも、ハンカチとクッキー受け取ってくれて、お礼にって紅葉狩りに誘ってくれるなんて、悪い印象は持たれてないよね?ハンカチも侯爵家の方に渡すような高価なものじゃなかったけど、気に入ってくれたって事でいいんだよね?良かった。ふふふ。そんな事ばかり考えながら仕事をしていた。
ベルント王太子に、午後の休憩の為のお茶を淹れていたら声をかけられてしまった。
「おい。今日は、やけに機嫌が良いな」
ハッとして、王太子を見ると·····。ソファーに深く腰掛けて足を組み、相変わらずの上から目線でファビオラを冷めた目で見ていた。
「そうでしょうか?申し訳ございません。気を引き締めます」
ニヤけていたのが、顔に出てたか·····まずい。とりあえずファビオラはとぼける事にした。
「何かいい事でもあったのか?」
ベルントが紅茶のカップを取りながら訊ねてきた。ファビオラは、王太子様には関係なくない?と心の中で悪態をつきつつ、返答した。
「そうですね。休日が楽しかっただけです。では、失礼いたします」
ファビオラは、紅茶とお菓子の準備は終えたとばかりにさっさと退出する。細かい事聞かれるのめんどくさい。
どうしてもファビオラは、ベルント王太子の事が好きになれない。悪い人じゃないのはわかるが、俺は偉いと全身で訴えかける圧が苦手だ。仕事上の上司と言うだけで、あまりプライベートを突っ込んで欲しくなかった。仕事以外で、関わりたくないなと思ってしまう。
そして数日が過ぎた。今は、仕事の休憩中。丁度、休憩室には誰もいないので明日の事を考えていた。
明日は、月一恒例のシェリーのお屋敷にお泊まりの日。仕事を始めてからは、朝ゆっくり過ごしてランチに間に合う様に寮を出る。何を着ていこうかなと考えを巡らす。
ファビオラは、ファッションについての知識だけが欠落している。それだけは家族に任せて大丈夫だったから。自分で勉強する手間を省いた。あまり必要ではなかったから。
お出掛けの時の服選びが、なかなか毎回大変なんだよなぁー。街にちょっと買い物にってくらいなら別にそれほど畏まる必要ないから楽だけど·····。侯爵家に訪問するのに、適当なドレスって言うのもダメだしな。でも、ドレス自体そんなに持ってきてないから残念ながらそこまで選びようもないけど·····。
お出掛けと言えば、来週はアーベル様と紅葉狩りに行くのよね·····そこで、ファビオラははたと気付く。待って待って待って·····私、何着て行くのよ?紅葉狩りに行くと言う話に喜んでいて、具体的な事を何も考えてなかった·····。
そもそもファビオラは、男性と二人で何処かに行くと言う経験がない。しかも、馬で迎えに来るって言ってたよね?私、乗馬なんて出来ないよ?それより何より、馬に乗る時の服って何?
ファビオラは、明日の事より紅葉狩りの事で頭が一杯になってしまった。えっ?どうしよう·····家に帰って相談するのなんて嫌だし·····。明日シェリーに相談する?いやいやいや、侯爵家の令嬢お勧めのブティックなんて無理だ·····。私の持ってるお金じゃ足りるわけない·····。どうしよう、誰か相談できる人·····。
ファビオラの頭の中に、パッと浮かんだ人物がいた。「寮住まいだから、いつでも遊びに来なさい」と言ってくれた人。そうだキース様だ。今度、お姉さんと一緒に買い物でも行きましょうって言ってた。
善は急げだ。明日は朝はゆっくりだし今日仕事が終わってから、キース様の寮に行ってみよう。一緒に買い物は無理でも、アドバイスぐらいは貰えるよね。
ファビオラは、腰掛けていたソファーから立ち上がる。よし、午後も仕事頑張ろう!早く終わらせて定時で上がるぞ。気合いを入れた。