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012

 

 今日は、仕事が早く終わった。よし、今日行こう!とファビオラは思い立つ。先日、引ったくりから助けてくれた騎士様にお礼をしようとずっと思っていた。一度自分の部屋に戻ったファビオラは、紺の花柄のワンピースに着替える。ここ何日か時間があると縫っていた、ハンカチと甘さ控えめなクッキーを持って王宮の寮にある部屋を出た。


 向かった先は、第二騎士団の訓練場。ファミーユ王国には、第一騎士団と第二騎士団がある。第一騎士団は、王宮の警護や王族の警護を担当している。主に貴族が多い。第二騎士団は、王都の警備を担当している。実力主義の集団で貴族と平民から構成されている。


 引ったくりから助けてくれた騎士様は、黒い騎士服を纏っていた。黒は、第二騎士団の色なので間違いない。名前を聞く暇もなく立ち去ってしまったが、左腕の上部にたんぽぽの刺繍が入っていた。それを受付で言えば、誰だったのか教えてくれるだろうとファビオラは思っている。


 ファミーユ王国の騎士達は、騎士と認められると自分の印を作る。それを左腕の上部に刺繍として入れる風習がある。貴族だと自分の家の家紋を印にする者が多いが、平民は大体自分の好きな物にする。


 なので、ファビオラはあの方はたんぽぽに思い入れのある平民男性なのだろうと勝手に思っていた。この前のお礼に、たんぽぽの刺繍をしたハンカチとクッキーを持参した。受け取ってくれるだろうかと不安な気持ちを抱えつつ、第二騎士団の訓練場に辿り着いた。


 ファビオラは、胸に拳を当てて深呼吸する。緊張しながら騎士団の扉を開けて、受付に足を進める。受付では、黒の騎士服を纏った若い男性が書類に目を通していた。


「あの·····すみません」


 男性が書類から目を離し、ファビオラの方を向いた。茶色いフワフワの髪で、人懐っこそうな男性だった。


「どうしました?」


 男性が、笑顔で返答してくれたので、ファビオラは少しホッとした。怖そうな人じゃなくて良かった·····。


「あの·····先日、街で引ったくりの被害に遭いまして、たんぽぽの刺繍をした騎士様に助けて頂いたんです。お礼にと思って伺ったんですが、お会いできますでしょうか?」


 ファビオラは、出来るだけ丁寧に訊ねた。

 男性は少し考えてから答えてくれた。


「たんぽぽの刺繍だと、多分副団長ですね。そろそろ就業時間が終わりなので、大丈夫だと思います。ご案内します」


 そう言って男性は立ち上がり、ファビオラを案内してくれた。ファビオラは、男性の後を歩きながら先程言われた事を考えていた。


 副団長って言った?そんなに偉い人だったなんて·····。そんな人に、ハンカチとクッキーって·····もっとちゃんとした物にすれば良かったーどっどうしよう·····。


 額に嫌な汗が流れてくる。そうしてる間にも、訓練場へと近づいて行く。どうやら、就業時間が終わったらしく沢山の騎士達とすれ違う。すれ違う騎士達の視線が痛い·····。


 訓練場の出入口に着くと、案内してくれた男性がキョロキョロと辺りを見渡す。


「あっ、あそこにいますね。呼んでくるのでちょっと待ってて下さい」


 男性は、ファビオラを置いて行ってしまう。一人にしないでーと心の中で叫びながら、男性が歩いて行った方を見る。訓練場の真中で、三人の騎士が話し込んでいた。その内の一人が、受付の男性と一緒にファビオラの方に歩いて来る。


「こちらが、副団長です。では、僕は戻りますね」


 受付の男性がぺこりと頭を下げて、戻って行く。ファビオラは、慌ててお礼を言った。


「ありがとうございました」


 男性は、笑顔を向けて去っていった。


 ファビオラは、副団長の方に向き直る。


「あの、お忙しい所申し訳ありません。先日、街で引ったくりから助けて頂いた者です。お礼にと思い伺わせて頂きました。こちら宜しければ、受け取って下さい」


 ファビオラは、紙袋からハンカチとクッキーを出して見せる。余りの緊張で顔を見られない。手は汗でギトギトになっていた。


 副団長と思われる男性が、ファビオラに一歩近づく。


「これは、たんぽぽの刺繍?」


 ファビオラは、俯けていた顔を上げ男性を見る。間違いなく、街で助けてくれた騎士様だった。


「はい。お名前も伺えなかったので·····。腕の刺繍だけ目に入っていて覚えてたので」


 副団長が、ハンカチとクッキーを受け取ってくれ、たんぽぽの刺繍をまじまじと見ている。良かった受け取って貰えた。ファビオラは、心の底から安堵してにっこり微笑んだ。


「あら、やっだー。アーベルったら、いつのまにこんなに可愛い彼女作ったの?」


 突然、副団長の後ろから女性言葉なのに男性の声と言うアンバランスな声が聞こえた。


 ファビオラが声のした方を見ると、とても綺麗な女性騎士が副団長の横に立っていた。シルバーの長い髪を、頭の高い位置で一つに纏めている。目の色は、明るく渋い青緑色で猫目。左目の下に泣きボクロがあり、なんて綺麗な女性だろうと見とれてしまった。


「彼女ではない」


 副団長が答える。


「もうー、照れてるの?わかってる。わかってる」


 女性騎士が、副団長の肩をポンポンと叩いている。ファビオラは、首を傾げる。あれ?何で、声が男性?ファビオラの頭の中は、はてなマークで一杯だ。


「やっだー、この子、私が女だと真剣に悩んでるー。かーわーいーいー。残念ながら、男なのよ」


 そう言って、ファビオラの鼻の頭をツンと人差し指で押した。


「えっ?えぇぇぇぇー。こんなに綺麗なのに?」


 ファビオラは、驚愕して大声を出してしまった。咄嗟に口に手を当てる。


「なんだ。なんだ。どーした?」


 さらに、副団長の後ろから年配の体ががっしりとした騎士の男性が歩いて来た。


「ローレンツ!聞いて!アーベルの彼女が、私の事女だと勘違いしたみたいでー。この子、気に入っちゃった」


「なんだなんだ。俺らの知らない所で、アーベルが彼女作ってたのかよ!よし、折角だから彼女も一緒に、会合と言う名の飲み会に行こう」


 ローレンツと呼ばれている男性が、突然話をまとめる。ファビオラは、慌てふためく。


「いえっ、違うんです!」


「わかってる。わかってる。さー、とっとと行こうぜい」


 わかってない!全然わかってないから!ファビオラは、必死に否定するが聞いてもらえない。えぇぇぇぇー、なんで?副団長さんも否定しようよ。なんて、強引な人達·····。そして、本当にこの方が男性·····。本で読んだ事あったけど、これが俗に言うおネエって人·····。

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