011
今日は、ファビオラの仕事はお休み。お給料が出たばかりなので、街に買い物に行く事にした。10月も終わりに差し掛かり、肌寒い季節となっている。紺色のシンプルなワンピースに、赤と黒のチェックのストールを肩から掛けた。
庶民向けの商店街を、フラフラと歩く。お菓子屋さんで自分用のおやつにクッキーを買う。本屋さんで、いつも買っている小説の新刊を見つけて購入する。アクセサリーショップでは、ウインドーショッピングを楽しむ。もう少しお金を貯めたら、自分にご褒美で何か買いたいなと思う。
そんな風に街を歩いていた。今度はどこに入ろうかと、キョロキョロしながら道を進んでいた。反対から歩いて来た男が、ファビオラにぶつかって来た。突然の事にビックリしてよろけて転びそうになる。その拍子に、腕に掛けていた鞄を男に引ったくられた。男が走り去る。
ファビオラは、転びそうだったのをなんとか踏ん張り男に向かって叫ぶ。
「ひったくりです!捕まえてー」
叫びながら、男に向かって走り出すがまったく追いつきそうもない。ファビオラが諦めかけたその時、走って逃げて行く男の前にサッと誰かが現れ、一瞬で男を取り押さえた。
ファビオラは、取り押さえられている男の元に駆け寄った。
「痛いっ!離せ!」
男が、逃げようと暴れていた。ファビオラは、はーはーと息を切らせて膝に手をつく。落ち着いてから、顔を上げて犯人を見ると黒い騎士服を着た背の高い男性に、両手を縛り上げられていた。
ファビオラは、息を整える。
「騎士様。ありがとうございました」
頭を下げてお礼を言った。
騎士は、犯人を縄で縛った後に道に落ちていた鞄をファビオラに渡してくれた。ファビオラは、再度お礼を言いながら受け取る。騎士が鞄を持って差し出した腕の上部に、たんぽぽの刺繍が目に入った。
この方のマークは、たんぽぽなんだわと顔を見ようとしたが前髪が邪魔で表情が見えない。紺色の髪は、全体的に長くなんだか野暮ったく見えた。
ファビオラが鞄を受け取ると、騎士はスタスタと歩いて行ってしまった。鞄が手元に戻って来たファビオラは、安心からかその場から動けなかった。