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010

 

 内部の次は、王太子部に異動になった。

 我が国の王には、王太子と王女の二人の子供がいる。因みに王の妻は、王妃のみ。側室制度もあるが、現王には側室はいない。


 王太子の名前は、ベルント マーティン ファミーユ。綺麗な銀髪で、宝石の様な光り輝く紫色の瞳をしている。容姿端麗、頭脳明晰で絵に描いた様な王太子。それなのに28歳で未婚。婚約者もなし。ファビオラから見ると、目付きが鋭く冷たいイメージがある。


 ファビオラは、なぜ婚約者さえいないのか疑問だった。王太子部の先輩侍女に聞くと、この国の王子達は自分で結婚相手を探さないといけないらしい。国の為に仕えてくれる、素晴らしい女性を見つける事が出来て一人前となるらしい。でも、さすがに30歳までと決められている。それ以降は、親の決めた相手と問答無用で婚姻させられるらしい。


 自分で探させて、王太子妃に相応しくないような相手を見つけてきた場合どうするのだろう?と疑問を口にしたら、先輩侍女は丁寧に説明してくれた。


 婚約期間は、何があろうと一年間でその期間にお后教育を施すんだそう。合格点まで届かなくて、どうしても諦めきれない場合は側室に迎える事になるんだって。


 でも、女性の方が王太子妃になるのを諦めきれなくて王太子を丸め込んだりする場合は?と新たな疑問を口にする。


 そう言う場合は、王太子妃の仕事をお試しでさせるらしい。実力が伴ってない令嬢では、どうやったってこなせないらしい。流石にそこまでやらせれば、二人とも諦めるものよと先輩侍女が教えてくれた。


 ファビオラは、へーっと感心する。親に決めつけられた縁談は、誰だって嫌なのはみんな変わりないんだなと思う。


 王太子部の仕事は、主に王太子のお世話。普通に貴族の屋敷で働く、侍女の仕事と変わらない。なので、王宮を去った後でも仕事先に困らない。






 今日は、午前のお茶を出す担当だった。王宮に来てから、人にお茶を淹れる事が多くなった。かなり上手になったと自分では思っている。


「ベルント殿下、お茶の支度が整いました」


 執務室にあるテーブルに、お茶菓子とお茶のセットを並べてベルントを呼んだ。


「ああ、もうこんな時間か·····」


 ベルントは、時計を見ながら呟き、手にしていた書類を机に置いて立ち上がる。


 ベルントがソファーに腰かけて、ティーカップに手を伸ばした。窓から心地よい風が入り込んで来る。しかし、少し強すぎた様で、執務机の上に乗っていた資料が床に落ちた。


 ファビオラは、慌てずにまずは窓を閉めた。その後、落ちた書類を拾った。目に入って来た書類は、何かの計算書だったらしく、ついついさっと目を通してしまった。


「あっ·····」


 ファビオラは、つい声に出してしまう·····。


「何だ?おかしな点でもあったか?」


 ベルントが、紅茶を飲みながら怪訝な顔をしてファビオラを見ている。


 ファビオラは、ざっと見て計算が間違っているんじゃないかと思ってしまった。勝手に書類を見てしまった手前言い出しづらい·····。


「えっと·····その·····」


「怒らないから、言え!」


「あの、勝手に書類を見て申し訳ないんですが·····。多分この計算書のこの部分が間違ってます」


 ファビオラが、ベルントの方に書類を向けて間違っている箇所を指で差す。


「こっちに、持ってこい」


 ファビオラが、ベルントの所に書類を持っていき渡す。ベルントが、書類に目を通す。


「確かに·····。あの一瞬でよくわかったな」


「計算が、好きなんです。財務部でも、よく間違いを見つけてました」


 ファビオラは、誉められたのが嬉しくて素直に顔が綻ぶ。


「なるほど。財務部と内部で評判が良かった新人とは、お前の事か?」


 ベルントの鋭い視線が突き刺さる。しかし、ファビオラはそんなの知らないし·····と首を傾げる。新人が自分の評価を知ってる訳ないよね·····。


「それはわからないですが·····。とても良くして頂きました」


 ファビオラは、当たり障りない返事をする。


「ほー……。お前ちょっとそこ座れ」


 ベルントが、自分が座っている反対側のソファーを指さす。何でこんなにこの人偉そうにするんだろう·····。偉い人に間違いないんだけど·····常に上から目線がどうも好きになれない。


 ファビオラは、言われた通りにソファーに腰掛ける。ベルントは、組んでいた足を組み換え手を膝に置いた。


「国が管理している領地が、北の国境にある。特に、特産の物がない。一年中、寒くて土地が痩せている為、農地としても使えない。今まで、寒さに強い植物を色々育てて来たが土が良くないのか、根付かないんだ。お前だったら、この土地どう言う風に使えばいいと思う?」


 ベルントが、何かの試験の如く淡々と話し出した。ファビオラは、ベルントの話を聞いて突然何なの?と疑問に思ったが、聞かれた事は答えなくてはと必死に考えを巡らせる。


 物が駄目で、作物も駄目か·····。ファビオラは、前に読んだ冒険家の話をまとめた本を思い出す。


「特産も無くて、農作物も育たないなら、人を育てるのは駄目ですか?国一番の教育機関を作るんです。平民向けの」


 ファビオラは言うのはタダだしと、とりあえず答えて見る。ベルントの方を見ると、信じられないと驚いているようだ。


「それは今、自分で考えたのか?」


「前に読んだ本に、確か書いてあったと思うんです。うちの国とは国交がない、遠い国では辺鄙な土地に教育機関を創らせて栄えているって」


 ファビオラは、本の内容を思い出しながら喋る。ベルントは、何か考える様に無言になってしまった。ファビオラは、どうしたものかと座ったままいると、ベルントが思い出したのか、俯いてた顔を上げた。


「わかった。もう下がっていい」


 ファビオラは、失礼しますと立ち上がり執務室を出ていった。ベルントは、ファビオラが出ていった扉を見つめていた。面白いやつが入ってきたもんだと唇の端を上げた。

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