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窓から陽が差して、図書室が綺麗に輝いて見える。カウンターに頬づえを突きながら、ぼんやりと先程の光景を思い出していた。
図書係を務める私は、今日は当番の日。放課後の図書室で、いつもの様に学生達に本の貸出業務を行っていた。
「ファビオラ」
頭の上から、優しげな声で呼びかけられた。顔を上げると、見知った顔が本を片手にカウンターに歩いて来る所だった。
「クリフォード先輩。こんにちは。今日は、何を借りるんですか?」
今日も会えた事が嬉しくて、内心ドキドキが止まらない。そんな気持ちを知られない様に、必死に気持ちを隠して、なんて事ない顔で返事をした。
クリフォードは、青緑色に灰色を混ぜた様な髪色に青空の様な澄んだ瞳を持っている爽やかな青年である。そんな彼とファビオラが笑顔で気軽に話せる様になるなんて、学園に入る前は想像もしていなかった。だからこの時間が、ファビオラにとって一番の楽しみと言っても過言ではない。
「今日は、経済学の本と法律についての本を借りにね」
クリフォードが、ファビオラに笑顔で応えてくれる。
ファビオラが、貸出手続きをしながらクリフォードに本の説明をする。この法律の本は、初心者向けなのでとてもわかりやすいので、お勧めです。と言った他愛もない話をカウンターでしていた。
すると、そこに···············
「ファビー」
甘ったるく、魅惑的な声がかかる。
ファビオラとクリフォードが、声のした方を振り返ったのは同時だった。
その瞬間、ファビオラには聴こえた気がした。カランッカランッっと言う鐘の音が·····。小説の中のヒロインとヒーローが恋に落ちる音。だって、クリフォードとファビオラの姉であるカリーヌが、熱い眼差しで見つめ合っていたから。
「えっと、姉様。どうしたの?」
ファビオラが、動揺しながらも必死で声を出す。微動だにしなかった二人は、ハッとした様に動き出す。
「今日は、ファビーの図書係の日だったの思い出したの。だから顔を覗きに来たのよ。ファビー、こちらの方はどなた?」
うっとりとした視線をクリフォードに向けた後、カリーヌはファビオラに視線を戻し首を傾げた。
ファビオラの二歳年上の姉のカリーヌは、とても魅力的な女性だ。兎に角、色気が凄い。我が姉ながら、なぜこんなに違うのかといつも悩みの種。ふふっと、悩ましげな笑顔を向けて落ちない男性はいない。いつも恋に落ちた男性の顔を、姉の横で見てきたファビオラは確信していた。
「姉様、こちらはクリフォード サンチェス様です。私の二個上の先輩なので、姉様とは同じ学年です。図書係をしていてお話しするようになったんです」
「そうなのね」
カリーヌが、私も紹介してっとファビオラにだけわかるようにアイコンタクトをとってきた。自分で自己紹介くらいしようよ·····と溜息をつくのをグッと耐えてクリフォードの方に目を向けた。
「クリフォード先輩。こっちは、私の姉のカリーヌ マルティネスです。同じ学年だけど、クラスが違うから知らないですよね?」
ファビオラは、心の中は嵐が吹き荒れていたが明るく不自然にならないように話しかけた。
「お姉さんなんだね。僕はてっきりお友達かと·····いや、でもこんなに素敵なお姉さんがファビオラにいるなんて知らなかったよ」
クリフォードは、カリーヌにファビオラに向ける笑顔とは違った顔で微笑みかけている。
今、失礼な事言いかけましたよね·····どうせ似てませんよ!ファビオラが姉を紹介した時のいつもの反応で、苦笑いしか出来ない。
「ファビー、邪魔して悪かったわ。また、お家でね。サンチェス様、それでは失礼しますね」
そう、カリーヌが頭を下げて帰ろうとするのをクリフォードが遮った。
「僕ももう帰る所なので、宜しければ馬車乗り場まで一緒に行きましょう」
そう言うと二人は、今知り合ったとは思えない程自然に図書室の出口に向かって歩き出した。ファビオラは、二人の背中を呆然と見送るしか出来ない。
そして、冒頭の部分に戻るのである。
ファビオラは、ボケッとカウンターに座って図書室の風景をひたすら眺めていた。頭の中を占めているのは、先程の寄り添って歩く二人の姿。
何?今のは·····。私がクリフォード先輩と気軽に話せる様になるまで、一年かかったのに·····。もうすぐ卒業しちゃうから、勇気を出して告白しようと思ってたのに·····。誰が悪い訳じゃないけど·····でも、あんまりじゃない·····。
陽が差し込んで綺麗だった図書室の風景が、滲んで見えた。