第4話 マイ・インターン
4/1 10:20
イノウエこと江ノ上は、経験則から面倒事を押し付けられる予感がしていた。
もっと前に回避するチャンスがあったが、徹夜で頭がボーッとしていたからだろう、逃げ切れなかった。
エルフのフレイヤから、純朴そうな新人を紹介された時もそうだ。いつものごとく「イノウエさん」と名前を間違えて紹介されたが、新人のあまりにキラキラした瞳が眩しすぎてもはや訂正することを諦めた。
隣の席のモハメドが「イェノウエはロリコンだから、あの新人みたいのが良いんだろ?」と声をかけてきたが、色々ズレてて突っ込む気にもなれない。
俺が大好きなキョウコ・フカダはたしかに若く美しいが、お前より10歳年上だぞ、モハメド。
とにかく、その時は新人が来たんだな、程度だった。新人を迎える恒例行事があることをすっかり忘れていた。
その後、遅れてきたAJに気安く声をかけたのも失態だ。
「AJ!相変わらずの社長出勤だな」
思わずいつものように話しかけてしまった。
寝ぼけてボスの怒声も気にしてない様子のAJに自分のことを認識させてしまった。
そして今だ。
「4月1日付で入国・貨物管理局に配属されましたリェン・ルロアです。宜しくお願い致します!」
イノウエの斜向かい、書類が山積みになったデスクに座ったAJに、新人が挨拶をしている。
「私は会議なので、後は任せましたね」とフレイヤ。あのエルフは思慮深いのか天然なのか分からない。AJひとりに新人を任せて上手くいくはずないと言うのに。
AJは枕代わりにしていた分厚い捜査ファイルから顔を上げると、じーっと新人を見つめる。
「?」
新人は何も分かっていない様子だ。
逃げろ、新人ちゃん。AJの瞳はまるで新しい獲物を見つけた猫のように光っている。ロクなことにならないだろう。
そんな新人ちゃんを見捨ててさっさと逃げたほうがいい。昨日は夜勤だったし、事件も起きてないので、代休をとって帰宅しても咎める者はいない。
AJたちの様子をハラハラと見つめながら、カバンに書類を詰める。一刻も早く。
「おーい、イノウエー」
知らない、俺ではない。俺の名前は江ノ上だ。くそ、こういう時に限ってラップトップが中々カバンに入らない。チャックがしまっている。YKKめ。
「返事しろってばー!」
コンっと後頭部に衝撃。振り向くと小さな光の円から細っこいAJの手が伸びていた。
人の頭を小突くなら、この距離くらい歩いて来い。
4/1 10:30
何もわからないリェンの目の前で、先輩捜査官達が話し合っている。
「AJ、手伝いたいのは山々なんだが、俺は夜勤明けで、もう帰るんだ」
目の下にクマができた、東アジア系の捜査官が穏やかな声で言った。先程リェンが挨拶をした時には、どこか達観したような様子で微笑みを返してくれたイノウエ捜査官だ。
しかし目の前の少女のような指導係は意に介さない。
「なぁー、頼むよ、わたしが子守できるタイプに見えるかー?」
イノウエは助けを求めるようにゼイン統括捜査官のデスクに目をやるが、席を外しているようで姿がない。
他の捜査官に助けてもらおうと周囲を見渡すが、皆、イノウエと目が合うとサッと視線を逸らしてどこかへ消えてしまう。
「AJこそ子供に見えるけどな」
イノウエの隣の席であるモハメド・アルバルタジ捜査官が軽口を挟む。
「アァ?モハメド、何か言ったか?」
凄むAJ。
「さーて、抱えてるヤマがあるんだよなー!忙しい忙しい」
モハメドはファイルを抱えて逃げるように出て行く。イノウエはその背中を恨めしそうに眺めていた。
AJはイノウエに顔を寄せ、声をひそめて言う。
「イノウエ、アノ事をバラされてもいいのか?」
聞くなり、ため息をつくイノウエ。AJに弱みを握られているようだ。
「彼女、面倒見のいい男が好きだと思うけどなぁー」
AJはニヤニヤしながら小声で「チャイナガール」だの「倉庫」だの呟いている。
イノウエは逡巡していたが、不安そうなリェンの顔をみて諦めたようだ。
「あー!分かったよ。どうせこの後はオフだ。それにお前に新人を任せておいたら1日と持たないだろ」
「さすが、イノウエ大明神。物分かりがいいねぇー」
ご機嫌なAJはリェンに宣言した。
「それじゃー、リ、レ、なんだっけ。新人!このイノウエ捜査官と共同で捜査に行くぞ!」
そう言ってニヤリと微笑む。
「ガサ入れだ」
サブタイトル・・・インターンじゃないんですけどね。。