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異世界空港 入国管理局犯罪捜査班 「ロリ先輩とわたしの異世界M・I・B」  作者: 西野企画
1シーズン ドラゴンはどこへ消えた
2/12

第2話 グッドモーニングコール

第二話です。まだまだ話が見えないかと思いますが、主人公2人がそろいました。。

4/1 07:40


 広大な空港内を周回する電磁路面電車リニアトラムの中は観光客でごった返していた。


 異世界空港は世界で唯一の異世界との玄関口、交流の最前線ということもあって、人気の観光地なのだ。


 年齢も性別も人種も、それどころか種族すらも異なる観光客で溢れかえっている。


 例えばつり革には手が届きそうもない背丈の髭面で筋骨隆々な男。時折揺れる車両内でも低い重心を生かして、ぶれることなく少年漫画(コミック)誌を読んでいる。ドワーフ族、もしくはホビット族だろうか。


 その前に座っているのは、「地球の歩き方」を開きながら、楽しそうに旅行の行き先を相談している4人家族。1人分の座席の上、自分たちの背丈より大きなページを皆で協力してめくっている。おそらく妖精族なのだろう。よく見ると背中に小さな羽が生えている。


 ヒト族より小さな種族もいれば、はるかに大きな種族もいる。隣の車両をまるごと占領しているのは巨人族のご婦人だ。立つこともできないので窮屈そうに寝た状態で乗っている。


 その様子を見ていたうら若き乙女――リェンは故郷の涅槃仏像を連想して、小さく吹き出し、そして同時に実家の母親を思い出した。


 フランスの大学へ留学に行くときも不安がっていた母。まさか、こんなところに就職するとは思っていなかっただろう。


 アインシュタイン-ローゼン国際空港。通称・「異世界空港」


 太平洋のオキノトリシマアイランド周辺海域を埋め立てて作られた超巨大な人工島だ。

25年前、この場所に突如4つのワームホールが出現、そこから数多くの知的生命体が来訪した。


 彼らは数千万光年離れた、それぞれ異なる銀河・星系からワームホールを通してやってきた異星人(通称・異世界人)たちであり、国連を始めとした人類代表との交渉の結果、開港と通商、文化交流が図られることが決まった。


 元々、日本国の領海であったが、当時の日本国政権では扱いかねたらしく、超法規措置として国際連合と環太平洋諸国による共同出資公社に周辺海域ごと払い下げた「私有地」となる。

異世界種族との交流・通商の要として空港が整備されて以来、官民問わない投資合戦と拡張工事が繰り返され、広大な人工島の敷地に小さな国家と遜色ない予算、そして地球の水準から遥かに進んだ技術力がもたらされることになった。


 そんな国籍どころか生まれた世界すら違う人々が集うこの空港の運営を、各国から集う優秀な人材でまかなわれている。


 リェンもその一人だ。大学を飛び級で卒業。半年間の研修を終え、今日、配属されることとなった。


 空港の事務棟で研究者になる、と母親には伝えてある。フランスへの留学ですらかなり心配された。異世界空港への就職に至っては泣きながら反対された。もし本当の配属先を知ったら、連れ戻されかねない。


 危険だと聞いて不安もあるし、自分なんかに務まるのだろうかと自信が揺らぐ時もある。それでも、憧れていた職業だ。


 期待に胸を膨らませ、大きな緊張に背筋を伸ばして、リェンは異世界空港の入国・貨物管理局の最寄駅に降り立ったのだった。




4/1 09:30

 観光客向けの宿泊エリアや、定住者の居住エリアから5区画ブロックほど離れた港湾エリアの倉庫街。


 埃っぽい赤いレンガ造りの建物の中で目覚まし時計が鳴り響いた。一見すれば管理事務所のような佇まいで人が住んでいるとは思われないだろう。


 しかし、内装は案外と小綺麗だ。大きな窓が太平洋に面しており、観葉植物たちは朝日を浴びている。


 革張りのソファー、メープル材のテーブル。ヴィンテージの家具がセンスよく並んでいた。家主の見た目とは裏腹に。


 ロフト、というより中二階とも言うべきベッドルームで、その家主、AJは毛布から抜け出せないでいた。


 鳴り響く目覚まし時計のベルの音。


「もう朝かよぉ」


 かなり小柄な体。透き通るように白い肌、鋭い目つき、ハスキーな声。一見、美少年と間違えてしまいそうだが、控えめに膨らんだ胸元と、細くしなやかな肢体、滑らかな金色のロングの髪。そして意外に可愛い趣味のフリルの付いたパジャマが女性であることを告げている。


 何度も目覚まし時計を止めようとベッド横のローテーブルに手を伸ばすが、隣に転がっている空になったバーボンのボトルをペチペチと叩くばかりだ。


 やっとの思いで起き上がり、アラーム音を沈黙させて時計盤を見る。


「…」


 寝ぼけまなこでしばらく見つめるが、体の気だるさと睡眠欲に打ち勝てず、もう少し惰眠をむさぼることにしたようだ。


「わたしにしゅーぎょーじかんなんてぇ、かんけぇねー」


 パタリ、と再びベッドに倒れるAJ。


 その様子を見ていたかのように、今度は携帯が鳴り始める。


「くそぉー」


 携帯には同僚の名前が表示されていた。十中八九、単なるお節介だ。だけど新しい事件(ヤマ)の可能性もある。


 AJはその華奢な指で通話ボタンにタッチした。


「もしもし、AJ?まさかまだ寝てないですよね?」


 歌うような流麗で優しい声。


「起きてるよー、フレイア。なんだったらオフィスの目の前にいる。ただ、どっかのエルフの呪いで足が重くてなー、もう少し時間がかかりそーだ」


「あらあら、つまり、今、起きたところで、まだベッドの上。今日も遅刻するんですね?」


 AJは遅刻の常習犯だ。今更取り繕うようなことはしない。まぁな、と開き直る。


「でも、今日は早く来ないとダメですよー。新人さんがいらっしゃるから、オフィスには皆いるんですよ?イノウエさんなんて夜勤だったのに、誰よりも早くオフィスにいるんですから」


「フレイア、おまえはエルフだから知らないんだろうけどな、日本人(ジャパニーズ)は仕事してないと死んじまう種族なんだよ。あんなんと一緒されたら困る」


「あらあら、AJも4分の1は日本人じゃないんですか?」


「ああ、だからイノウエの4分の1は働くさー」


「あらあら...」


 電話越しでもわかるフレイアの当惑した声。まるで駄々っ子を前にした母親のようだ。


「おいAJ!!ごちゃごちゃ言っとらんで、さっさと来い!」


 フレイアの様子を見かねたのか、上司のゼインが後ろから怒鳴っている。耳に優しいフレイアの声から突然野太い罵声に変わり、二日酔いの頭に響く。


 AJは顔をしかめ、携帯から耳を離した。


「いえす さー」


 マイクに向かってそう呟くと、ノロノロとベッドから這い出して、シャワーへ向かった。


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