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異世界空港 入国管理局犯罪捜査班 「ロリ先輩とわたしの異世界M・I・B」  作者: 西野企画
1シーズン ドラゴンはどこへ消えた
10/12

第10話 ドラゴンクエスト

4/1 14:30


 リェンを連れだってAJがやってきてのは異世界空港の駐機場だった。遠くには紫色に輝きながら渦を巻くワームホールが見える。時折、飛行機が出入りしていた。


「ヘイ!AJ、待ちくたびれたぜ。14時の約束だっただろ」


「トニー、悪い悪い、別件が立て込んでてな」


 本当の遅刻の理由はAJが昼寝をしていたからだ。リェンは出会ってから僅か4時間ほどの間で自分の指導係(メンター)が息を吐くように嘘をつくことになれてしまっていた。


 AJにトニーと呼ばれた男は検疫局の制服を着た恰幅の良い白人男性だった。金髪に口ひげで温和な印象を受けた。


「スーツの旦那もお待ちだぜ。後ろに連れてるのはお嬢ちゃんは新人か?」


「はじめまして。本日付で配属されたルロアです」


 リェンがあいさつをすると、トニーは大きな手をこちらに差し出して握手をする。


「検疫局生物担当のブラウンだ。トニーって呼んでくれ。そしてこちらが」


 トニーが横にずれると大きな体の後ろから、スーツ姿の痩せた初老の男が現れた。


「農林水産省のカネムラです」


 そういってお辞儀をする。フレンドリーなトニーとは打って変わって慇懃な対応だ。


「提出書類に不明点があり、ブラウン氏に打ち合わせの場を設けて貰いました」


「まずはモノを見てもらった方が分かりやすいか?こっちだ」


 トニーは巨体を揺らして、駐機スペースの端へ一行を案内する。そこにあったのは赤い大きな塊だった。


「これって」


 リェンがきいた矢先、赤い塊が動いた。翼が開き、首をもたげる。


「ドラゴンですか!」

 

 全長5mほど。赤いうろこに覆われ、鉤爪はリェンの腕程の大きさがある。大樽のような胴体に細い首がのび、その先にはトカゲのような顔がついている。クリっとした大きな瞳をきょろきょろさせ、こちらの様子を伺っていた。


「オーガの里から来た飛竜種だ。向こうでは移動手段に使われてるらしい」


「なんか...かわいいですねっ」


 思わず嬌声をあげるリェン。AJは珍しくもないようにさして反応を示さない。出会ってから一切表情の変わらないカネムラだったが、この大きな生物をみて流石に身じろぎして後ずさった。


「この生物が異世界空港に入るにあたり、家畜の検疫に関する書類が提出されていません」


 ドラゴンを生で見てより固さの増した声でカネムラが言う。


「家畜?あーそりゃそうだ」


 AJが思い出したかのように言う。


「こいつ、乗客扱いなんだよ」


「なんと言いましたか」


 カネムラのこめかみがピクピクと動く。


「条約にのっとって、知的生物は人権が発生するんだよ。しらねーの?」


「知ってます!ですが、この生物はあまりにも...」


「人型だけが知的生命体って訳じゃないだろー?実際、5~6歳児の知能があるらしい」


「チンパンジー程度じゃないですか、そんなのは詭弁です」


「しょーがねーだろ。その詭弁に振り回されてるのはアタシたち現場だって一緒だよ」


「皆さん、この子、お利巧さんですよ?」


 リェンがドラゴンに近づき、頭を撫でている。ドラゴンは気持ちよさそうに目を閉じ、腹這いになっていた。


その様子を見て目をむくカネムラ。


「意外と度胸あんなぁ新人」


「お嬢ちゃん、その飛竜種は大人しい種類だが、身体がデカいから起きたり倒れこんだりしたときに巻き込まれないように気を付けな!」


 AJとトニーはリェンの様子をのんきに眺めている。


「分かりました。乗客、と言うことでしたら()()の検疫は厚生労働省、入国に関しては法務省の管轄です。いずれにせよ、関係各所に経緯の報告書を提出してください。それでは私は失礼します!」


 そう吐き捨てると、カネムラは肩をいからせ歩き去った。


 小さくなるスーツ姿にむけてAJが呟く。


「あの骸骨スーツ野郎、嫌いなんだよなー。女子供だと思ってこっちを見下してくる感じ」


「ああいうのに限ってペドフィリアだったりするんだよな。ウチの娘に近づいたら、ショットガンで頭を吹き飛ばしてやる」


「お二人とも滅茶苦茶言いますね」


 カネムラのことを少し不憫に思うリェン。


「まぁーこれが仕事の7割だ」

 

 AJがリェンを向き言った


「え?」


「異世界のことなんてちっとも分かってない日本政府の官僚連中に、色んな事案を説明して、報告書をそれっぽく作ることだ」


「なるほど...」


「異世界空港の管理・運営は俺たち公社の仕事だが、一応、日本国内ってことになってるからな、あいつらお役所連中も出しゃばってくるんだよ。で、そいつら向けにお役所言葉に翻訳して書類を作らなきゃならないんだよ。最近はまだいいが、数年前まではFAXで日本語の資料が送られてきたりしてな。翻訳ソフトの精度も低かったし、日本人の職員が大人気だったなぁ」


「その点、うちの部署には便利なメガネがいるからな」


「イノウエさん...翻訳者みたいな仕事まで...」


イノウエの苦労が目に浮かぶようだ。


「新人、今回の件、お前が書類作れ。トニー、検疫局側のファイル、こいつに送ってやってくれ」


「了解」


 トニーは鷹揚にうなずく。


「あとはイノウエとフレイヤでも捕まえて教えてもらえ。な?」


 そう言い残し、AJは足元にゲートを開く。


「ちょっとまってください」


 リェンが言い終わる前に、AJの身体は消えた。


 トニーがリェンの肩に手を置く。


「まぁ、なんだ...嬢ちゃん。頑張れよ」


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