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WORLD END―終焉の鐘の音―  作者: 成瀬瑛理
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3

「……恐らくあの牢屋の中にあります。自分は囚人が彼から受け取った紙を部屋の中に隠した所をこの目で見ました」


 チェスターがそう話すと、クロビスは不意に質問した。


「――お前は何故それを知っていて黙っていた? この私に報告するのが、義務だということを忘れたか?」


 クロビスがそう言うと、チェスターは顔を青ざめながら質問に答えた。


「おっ、俺だってまさかと思ったんです! まさかオーチスさんがあんなことをするなんて思ってもなかったんで動揺したんです! オーチスさんは、俺の上司だったんで、まさかあんなことをするなんて今でも信じられなくて……!」


 チェスターがそう答えると、クロビスは目を細目ながら話した。


「だから黙っていたわけか?」


「……」


 クロビスが呆れながらそう話すと、チェスターは急に黙りこんだのだった。


「正直に答えろ、その話をしていたのはいつだ?」


 クロビスがそう尋ねると、チェスターは小さく答えた。


「……昨日です」


 チェスターがそう言って答えると、クロビスは呆れた顔で警棒を手の平の上でトントンとさせた。


「……ここまでくると怒りを通り越して呆れるな。つまりお前は前日に計画を知っときながら、みすみす黙っていたわけか? 私を誰だと思ってる。私はタルタロスの所長の息子だぞ? 随分と私も舐められたものだな。なぁ、お前達?」


 クロビスがそう話すと3人の看守達は一斉に相槌をした。


「使えねー看守にはもう用はねぇ! クロビス、こいつもやっちまおうぜ!」


 ケイバーはそう言うと、背後からチェスターを羽交い締めにして見せた。その光景をジャントゥーユはニタニタしながら側で笑って見ていた。チェスターは、必死にクロビスに謝った。


「す、すみませんでした……! どうかお許し下さい! どうか命だけは助けて下さい! おっ、お願いします……!」


 チェスターは自分の身にふりかかる恐怖に震え上がると、その場で立ったまま漏らしたのだった。彼が恐怖のあまりに尿を漏らすと、クロビスは呆れて舌打ちをしたのだった。


「チッ……!」


 チェスターは恐怖に脅えながら話を続けた。


「俺はその真実を確かめるために今日、脱走した囚人の牢屋に行き。紙になんて書いてあるかを確かめようとしたんです……! でも…でも…! メモを確認する前に囚人は既に牢屋を脱走していて、本当に囚人が脱走したなんて俺は思ってもいなかったんで動揺したんです!」


『わああああああああああああーーっ!』


 彼は床に崩れ落ちると両手をついて大人げなく泣き出した。そして、死にたくないと喚いて泣いた。


 クロビスは怒りを剥き出すと、床に両手をついて泣くチェスターの手を黒いブーツでギリッと踏みつけた。


「ええい、もう泣き言は沢山だ! お前達は逃げた囚人の牢屋に行き、オーチスが囚人に渡したと言っているその紙切れを今から探して来い!」


 クロビスが怒り口調でそう命令すると、ギュータスとジャントゥーユは2人して拷問部屋を行った。そして、逃げた囚人がいた牢屋へと急いで向かった。怒りを露にしながらクロビスはオーチスの目の前に立つと、上から威圧的な態度で見下ろした。


「そう言えばお前は昨日はどうした。出勤したのか? どうなんだ? この際だハッキリと言え!」


 彼の質問にオーチスは出勤したと答えたが、自分は囚人の牢屋には昨日は行っていないと話した。


「フン、そんな証言は今さら当てにならん! 紙切れが見つかれば真実は明らかになるだけのことだ! ますます黒になってきたなオーチス! この私を騙そうとした罰は重いぞ!」


 クロビスはオーチスにそう話すと、近くにいたケイバーに指示をだした。


「念のためだ。お前は今から管理室に行き、昨日の出勤簿と、報告書が一つに纏めてあるファイルをただちに持って来い!」


 彼の命令にケイバーは了解と一言いって頷くと、後ろ向きで軽く手を振るなり部屋をそそくさと出て行った。不穏な空気が流れる一室には、はりつめた空気が漂っていた。オーチスは椅子の上で身の潔白を訴えた。


「私は絶対やっていない!」


 彼は最後の最後まで自分は無実だと、やっていないと、頑なに主張し続けた。クロビスはそんな彼を上から見下ろすとオーチスに対して冷酷な眼差しで話した。


「フン、いまさら命乞いかオーチス? 散々この私を騙しておいて……! 私も随分とお前に舐められたものじゃないか? 少し買いかぶり過ぎたようだな。父の信頼と私の信頼さえも裏切って満足か? 天津さえ、囚人を密かに脱獄させる計画をくわでていたとは正直恐れいったよ。ま、最初から私はお前を信じていなかったがな…――」


 クロビスはそう話すと、自分の鼻をフンと言わせた。


「お前が椅子の上でどんなにあがいても、真実は今から明らかになる。お前が白か黒かそれを見ればどのみち解ることだ。ケイバーには、昨日の出勤簿と報告書をもってくるように指示を出した。お前はせいぜいそこで天の神に祈ることだ。そう、この世界では神は無慈悲な存在だ。お前もあとで、その意味を知ることになるだろう。何せこの私が"昔"そうだったからな」


 そういうと意味深な笑いをくすりと浮かべたのだった。彼の瞳には暗い闇だけが其処に存在した。


「今はお前にとって私が神だ! 避けられぬ運命は必ずある。今がまさにその時だなオーチス!」


 クロビスが冷たい眼差しでそう話すと、オーチスは黙って肩を小刻みに震わせた。そして、針積めた重たい空気は、彼の心と精神を徐々に煽ったのだった。


「お前はこの言葉を知っているか?」



「to be, or not to be. That is the question.」



「ウィリアム・シェイクスピアの言葉。生きるか死ぬかそれが疑問だとい名言があるが、お前はどっちだ? この過酷な運命にじっと耐えるべきか、それとも抗い、終息させるべきか? お前が座っている椅子はまさに死刑台と言ったところか? 自分でまいた種だ。それなりのフィナーレを最後、みせてもらおうじゃないか――?」


 クロビスは意味深にそう話すと、彼の目の前で冷酷な微笑の笑みを浮かべたのだった。彼の冷酷な瞳を見たオ-チスは、心の中で呟いた。



″この悪魔め……!″



 まもなくしてケイバーが出勤簿と報告書が一つに纏めてあるファイルを持って現れた。


「おい、言われた通りもってきたぜ!」


 ケイバーはそう話すと二つの本を手渡した。クロビスはそれを持つと、椅子に座った。優雅に足を組んで座ると、彼はそれを早速読んだ。


「――さてと、オーチス。お前が昨日、本当に出勤したか確認しようじゃないか? まっ、お前は精々そこで神に祈ってるがいい」


 クロビスはオーチスに冷たくそう話すと、出勤簿を開いた。冷たくはりつめる部屋の中に緊張が走る。クロビスは出勤簿を開くと、オーチスの名前だけを探して確認した。そして、彼の名前を確認すると一言話した。


「……確かに昨日は出勤しているな。どうだ、その椅子に座ってるい気分は? まだ生きてる居心地はするか?」


 彼の質問にオーチスは黙ったまま、顔から汗をかいた。自分が生きるか死ぬかの瀬戸際に、彼はその問いかけに返事をする余裕すらなかった。クロビスは出勤簿を見ながら、オーチスが昨日どこに配属されていたかをくまなく調べた――。


「お前は昨日は東の塔を担当してたのか? 東の塔だと確かに逃げた囚人の棟とは、反対側の棟になるな……すると、チェスターの話しに矛盾が出る。この矛盾は一体なんだ?」


 彼がそう言うと、黙っていたチェスターが横から口を挟んだ。


「クロビス様、自分は嘘はついてません! 自分は昨日は逃げた囚人のエリアを担当して見回っていましたが、自分はこの目で彼が牢屋の前で囚人と話している所を見ました!」


 チェスターはそう言って強く断言すると、自分は絶対見たと最後まで主張し続けた。そして、オーチスが脱獄に加担していると彼はキッパリと言ったのだった。さらにチェスターは自分は彼に脱獄の話を尋ねたら、オーチスに首を絞められて脅された事実も話した。チェスターは囚人が今日、脱走した事実が何よりの証拠だとクロビスに話すと、その上で自分は死にたくないと哀れに訴えた。


 オーチスはチェスターの証言に怒りを感じると、その後すぐに反論した。彼も死の瀬戸際に立たされており、感情を剥き出しにしたまま反論した。オーチスは拘束された椅子の上で、自分の身の潔白を必死で訴え続けた。自分は逃げた囚人とは一切関わっていない事や、囚人の脱獄に加担していない事も、そして、逃げた囚人と会話さえした事もないことや、ましてや囚人を脱獄させようと、計画を企てた覚えもないと、オーチスは証言して訴えたのだ。何より昨日は自分は東の塔を担当していて逃げた囚人がいる塔には昨日は一切、立ち寄っていないとクロビスに訴えたのだった。


 2人はお互いに自分の命が懸かっているだけにあり。どちらとも迫真に迫る言葉を言うと、自分は無実でやっていない、知らないと、身の潔白を必死で訴えたのだった。


「私にはわかるぞ、お前は私を嵌めようとしているのだ! 上司である私を憎んで、貶めようとしてこんな小細工をしたのか!? 私は知っているんだぞ! お前は前から私のことを鬱陶しいと思っていることもな! 憎い上司が消えて満足か!? どうだ言ってみろチェスター!」

 

 オーチスが激怒しながらそう言い放つと、チェスターは自分の上司である男にたった今、失望したと強気な態度で言い返したのだった。


「生意気な小僧だ! 新米だから今まで優遇していたが、私こそお前に失望したぞ!」


 2人が激しく言い争うと、クロビスはそこでクスッと微笑を浮かべて鼻で笑った。


「――そうだ"失望″だ。私はなオーチス、たった今お前に失望したぞ!」


 クロビスは彼にそう話すと、急に声を荒らげて怒鳴り散らしたのだった。彼は出勤簿の他に昨日の報告書をくまなく読んだのだ。そして、ある事実をクロビスは知った。まるでパズルの断片が組み合わされたかのようにそこで突如、高笑いをした。


「オーチスお前は昨日、逃げた囚人がいる塔には行っていないと言ったな?」


「はい! 私は昨日は一切あの塔には立ち入ってません! 私の報告書をご覧下されば解るはずです!」


 オーチスは真っ直ぐにそう答えた。しかし、クロビスは肩をふるわせて笑うと彼の目の前に報告書をバッと見せた。


「貴様、これをよく見ろ! これを見てもう一度、私に今の言葉を言って見るがいい!」


 突きつけられた報告書を見せられると、オーチスはその場で驚愕した。


『なっ、なんだこれは……!?』


『そんな、馬鹿なっ……!』


 オーチスは書かれている報告書を見ると、唖然となって声をはりあげた――。



 一方その頃、リオファーレは、他の看守と共に逃げた囚人の捜索の任務にあたっていた。外は極寒の大地だけにあり、雪吹雪も凄く、視界も悪かった。空気は凍てつくように冷たく、まるで肌を切り裂くほどの冷たい冷気と空気が辺りに漂っていた。男達はそんな雪吹雪の中をタイマツを片手に、逃げた囚人の捜索にあたっていた。看守達は凍える寒さに弱音を吐きながら、逃げた囚人を探し続けた。


「そっちは居たかー!?」


「いや、いなーい!」


「こっちもだ!」


「そっちはどうだー!?」


 看守達は冷たい息を口から吐きながら、一端そこに集まった。


「凍えそうだ……! 早く戻ろう……!」


「ああ、このままでは俺達が凍えちまうぜ……!」


 男達は体をガチガチと震わせながら、タルタロスの要塞の外を松明を片手に見て回った。


 要塞の中の塀の壁は高く積み上げられており。どんな男でも塀の壁には簡単には、のぼれないようなになっていた。さらに塀の周りには、鋭い有刺鉄線が張り巡らされており。脱獄防止の罠があちこちに仕掛けられていた。


 看守達は一ヶ所に集まると、そこで皆で騒ぎたった。本当に囚人がこの吹雪の中を脱走したのか? 男達はそこで疑心感にかられずには居られなかった。タルタロスの門は固く閉ざされており、誰かが鍵をこじ開けた形跡も何一つ見あたらなかったのだった。ましてや巨大な門を男1人の力では、開ける事は絶対に不可能に近かった。まるで狐につままれたような話に看守達はそこで騒ぎたった。看守の1人が、不意に違う看守の男に尋ねた。


「おい、タルタロスの中はちゃんと探したのか……!?」


 男の質問に違う看守の男がこたえた。


「ああ、みたさ……! それこそネズミが居そうなところも全部見て回った! おかげで俺はあの中で迷子になりかけそうになった! 今も中で他の看守達が、逃げた囚人の捜索にあたっている! 俺達は外の捜索の任務に戻ろう……!」


 1人の看守は凍てつく吹雪の中をタイマツを片手に持ちながら仲間達に向かってそう言って話した。外は吹雪に覆われており。相変わらず身を切るような凍てつく寒さが、男達を容赦なく襲った。そんな寒い中を彼らはタイマツを片手に逃げた囚人の捜索にあたっていたのだった。時間が経つにつれて吹雪は止まずに、空は夜の世界へと徐々に変わる。そんな状況の中を看守達は、焦りの色を隠せなかった。そして、身を切るような寒さにガタガタと体と口元を震わせながらジッと外の凍てつく寒さに耐えた。



 誰が予測したのだろうか、こんなシナリオを――?



 彼らの頭の中にはもはや囚人が何故、脱獄したかと言う疑問よりも、逃げた囚人に対して"もし"本当に外に逃げたのなら、あわよくばこの寒さの中、死んでくれと強く願った。いや、そう願ずにはいられなかったのが彼らの本音だった。暗闇に沈んでいく中、何処からか狼の遠吠えが不気味に聞こえて来た。その遠吠えがより一層辺りを不気味に感じさせた。看守の男達は何処からか聞こえてくる狼の遠吠えに身を震わせながらも捜索を続けたのだった。



――男達は外で永遠と逃げた囚人の捜索に未だにあたっていた。あまりの寒さに身体さえも段々と冷えきってしまい、うまく動かなくなっていく。そして、手は手袋をつけていても指先の感覚を失ってしまう程の冷たい手になっていた。吹雪は激しく吹き荒れ、大地を嵐のように白く染めていく。日は無情にも徐々に落ちていった。そんな中を男達は焦りが徐々に募りながらもあちこちを見て回った。そして、あまりの寒さに我慢出来なくなった1人の看守が突如キレだすと、そこで愚痴をこぼし始めた。











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