第3章―クロビスの怒り―
その日、朝日が昇る前の夜明け頃、静寂に包まれた牢獄内で騒ぎが起きた。1人の罪人の囚人が牢から抜け出して、タルタロスの牢獄の中を必死で逃げ回った。集まった看守達は逃げた男を探す為に要塞の中をくまなく歩いて探し回ったのだった――。
「いたか!? 早く見つけろ! 逃がすな!」
看守達は1人の囚人に対して騒ぎたった。そこにあの恐怖の看守達。クロビスとジャントゥーユとギュータスとケイバーが現れた。そして、後から遅れるようにリオファーレも現れた。狼狽える他の看守達にクロビスが尋ねた。
「お前達、一体なんの騒ぎだ?」
そこでクロビスが尋ねると1人の看守が慌てて報告した。
「クロビス様、報告があります! 今朝、牢屋から囚人が1人脱獄しました!」
「なっ、何……!?」
クロビスはそこで表情を一気にかえた。
「どうやって脱走した!?」
クロビスがそう問いかけると1人の看守が答えた。
「脱走した囚人の牢屋は鉄格子が腐っていました! 恐らくそこを無理矢理壊したのだと思います!」
そう言って答えるとクロビスは次の瞬間、持っている警棒で男をぶちのめした。警棒で激しく叩かれた男は、恐怖で悲鳴をあげて許しを乞いた。だが、クロビスは頭にきたのか、警棒で1人の看守に激しく暴行を続けた。そして、クロビスは床に倒れた看守の背中を黒いブーツで踏みつけると怒り声を上げたのだった。
「おい貴様ぁっ、どうしてくれるんだ!? 私はここの所長の息子だぞ! 親父になんて言えばいいのか言ってみろッ!!」
クロビスはそこで激怒しながら怒鳴り散らすと、殴りつけた看守を無理やり地面から立たせた。彼はこのタルタロスの牢獄の責任者である父、ギレイタス所長の息子であった。ギレイタスはクロビスが唯一、恐れる男だった。クロビスは感情的になりながら、持っていた警棒で再び彼を殴りつけた。
「ここのエリアはお前が担当だったろ……!? なぜ囚人を勝手に逃がしたりしたんだ!?」
クロビスが激怒した様子で問い詰めると、男は怯えながら震えた声で答えた。
「わっ、私は決して囚人を逃がしたりはしてません! ど、どうか信じて下さいクロビス様……!」
男は口から血を流しながらもそう答えたのだった。その時、他の4人はその様子を離れた所で黙って見ていた。クロビスは頭の中が突然カッとなると、持っていた短剣で男をその場で刺そうとしたのだった。
「お前みたいな無能な奴は私が今ここで裁いてやる! 覚悟しろ!」
クロビスは激昂したまま、鋭い短剣を真上から振り翳して襲いかかった。
『ヒィィィッ!!』
その時、自分に向かって短剣が降り下ろされると、男は恐れて悲鳴をあげたのだった。その瞬間2人の間にリオファーレが突如わり込むと、クロビスの振り翳した短剣を彼は自分の腕で受け止めた。
「ッ……!?」
リオファーレの意外な行動に、周りにいた誰もが一斉に驚いた。そして、クロビスは唖然となって彼を見た。彼の腕からは、突き刺さった短剣から血がポタポタと地面に流れた。リオファーレは鋭くクロビスを睨むと、短剣を腕から抜き取り。凛とした口調で彼に言い放ったのだった。
「こんなことをしている場合じゃないだろ!? 頭を冷せクロビス…――!」
リオファーレのその言い方にクロビスは、ムッとした表情をした。
「どう言うつもりだリオファーレ!?」
クロビスはそこでカッとなると、リオファーレにいきなりくってかかった。 激怒した様子の彼とは対照的にリオファーレは、冷静な言葉で話した。
「落ち着けクロビス、お前は解っていない! 囚人がこの要塞の中を逃げ回っている。それがどういう事か本当にわかっているか!?」
リオファーレが冷静にそう諭すと、ギュータスが横から口を挟んだ。
「ああ、そうだとも! リオファーレの言う通りだ! 早く脱走した囚人を捕まえよう!」
ギュータスがそう言うとクロビスは、やっと我に返った。
「ちっ、生意気なヤツだ……! 親父のお気に入りじゃなかったら今頃、その綺麗な顔をこの短剣でズタズタに切り刻んで、醜い化け物の顔をしたオークの顔に変えてやってるところだ!」
彼はそう言うと、血のついた短剣を懐におさめた。クロビスはそこにいた全員に命令を下した。
「脱走した囚人を捕まえた者には、褒美で金貨200枚を与える! 気合いを入れて探せ!」
彼がそう言って命令をすると、看守達は金貨に目が眩んだのか。四方方にちりじりになって逃げた囚人を探し始めた。そこにいた看守達がいなくなると、他の4人も後からバラバラになって行動した。そんな時、クロビスは後ろからリオファーレの肩を掴むと、壁にドンと押し付けて一言忠告したのだった。壁に押し付けるとクロビスは怒った口調で言い放った。
「私はここの所長の息子だ! そしてこのタルタロスの牢獄は私が管理してるようなものだ! 見ろ、鍵だってちゃんとあるだろ!? 私がいなければこのタルタロスからは簡単に出られはしない!」
クロビスがそう言うとリオファーレは無言で黙った。
「いいか貴様、この私に指図をするな! 二度とだ! 私に指図したらお前を罪人の牢屋の中に閉じ込めて、一生そこから出られなくさせてやる!」
クロビスがそう言って脅しかけると、リオファーレは黙って一言返事を返した。
「ああ、わかった…――」
リオファーレがそう言うと彼は肩から手を離し、脱走した囚人をさがしにクロビスも牢獄の中を探し回ったのだった。