~言うか、言わないか~
「ご注文は以上でしょうか?ごゆっくりどうぞ」
カフェでそれぞれ注文したものが揃い、店員さんが戻っていった。
僕は内心、すごく緊張していた。
“手に汗握る”とは、まさにこのことなんだな。
すごく、怖い。
妃奈は、僕が伝えられなかったことを伝える為だけに生き返ったのだと知ったら……どう思うのかな。
「どうしたの?怖い顔して」
「え、いや……別に。さ、ケーキ食べなよ」
「うん……いただきます」
「美味しい?」
「うん!大一も食べる?」
「はい、あーん」と言いながら僕に一口、食べさせてくれた。
「うん、美味しいね」
ふふふ、と妃奈はご機嫌でケーキを食べている。
どのタイミングで言おうか、それとも今言うべきか?タイムリミットの一週間ちょうどに言おうか?
妃奈に逢うまでは、早く伝えたいと思っていたのに……逢った今では、迷いが生じている。
どうしよう……どうすればいいんだ。
「それで、どうしたの?」
「えっ……?」
「いや、急に現れるからさ。パニックになっちゃうし、それに……あの時……」
と言って、妃奈は黙った。
きっと“あの時、死んじゃったのに”って言おうとしているんだろう。
そうだよ。僕はあの時、死んだんだ。
キミたちが泣き喚いていたのも知ってる。
キミがご飯も食べず、学校も休みがちで部屋に籠り、ずっと泣いて悲しみに暮れていたことも知ってる。
だからこそ、見ていた僕は苦しくて辛くて……逃げたんだ。
死後の世界へ。
キミのことや想いを無理やりねじ伏せて、忘れたフリをすれば大丈夫だと思っていた。
だけど、それは無理だった。
どう頑張ったって、キミの顔や声がいとも簡単に思い出せちゃうんだもの。
それだけ、キミは僕にとって大きな存在だった。
忘れられない、忘れられるわけがない。
僕はキミが好きだ、大好きだ。
本当は、キミに新しい彼氏なんか作って欲しくない。
僕のことだけを想っていて欲しい。
だけど、それは残された人間にとって時に残酷だ。
亡くなった人間を想い続けるのは辛い。
声も聴けない、体も触れない、顔も見られない。
それでも、僕を強く想い続けて欲しい。
そんなの……僕の、ただのわがままにしか過ぎない。
ねぇ。
妃奈、キミはどう思ってる?
僕はキミに逢って、伝えたいことを言う勇気が……無くなってしまった。