僕とキミの想い出
僕が守護霊として、妃奈と一緒に過ごした日々はとても新鮮で、楽しいことばかりだった。
喧嘩したり、言い合いしたり。怒ったり、怒られたり。
生身の人間と変わらない態度で接してくれたから僕は時々、自分は妃奈と同じ世界で生きているのではないか、と錯覚するほどだった。
それぐらい、僕も妃奈も生き生きしていた。
妃奈が書いた小説は、無事に映画のキャストも決まり、撮影は順調に進んでいるそうだ。
「来年の春には公開されるらしいよ!」
「そっか」
「公開されたら、一緒に行こうね!」
「うん」
「約束だよ?」
「うん、約束」
指を絡ませることが出来ないからフリにはなるけれど、指きりをする妃奈は幸せそうな顔をしていた。
そして、ようやく実写映画の試写会、当日になった。
「ふんふん、ふふーん♪」
「嬉しそうだね」
「もっちのろん!だって今日だよ!?映画の試写会!」
「そうだね」
「もー!太一は楽しみじゃないの!?」
「楽しみだよ?ドキドキ、ワクワクしてるし」
「むー!そんな風には見えないぞ!」
「あははは、そうかな?まぁ、あんまり感情を表に出すの苦手で、出さないからな……」
僕は昔から、あまり感情を表に出したことがない。
人前で笑ったことなんて、片手で数えて余るほどだ。
小学校の頃、上手く笑えなくて無理して笑ったら「何か変」「気持ち悪い」と言われ、僕は更に感情を出すことが無くなった。
嬉しいと思っていても、それは内心で喜ぶクセがあるから、感情を表で声に出して言うことは滅多にない。
内側で感情を表すことが僕の生き方だから。それを無理やり変えようとも思わない。その代わりじゃないけど、言葉ではちゃんと伝えようと思っている。
だから、たまに妃奈は恥ずかしそうに顔を赤くする。
「もう、急に言うからびっくりしたじゃん!」って、僕の背中をバシン!と叩きながら。
「用意、出来たー?」
「んー……」
イマイチだと、直したい部分があるのだろう。すっきりしない態度だったので、僕は玄関先で待つことにした。
バタバタとした足音と共に「ごめん、お待たせー!」と元気で明るい声が聞こえてきた。
「ううん、大丈夫だよ」
「本当?髪の毛に時間、かかっちゃって……」
「上手くいったの?」
「ん~、微妙かも。とりあえず、直せたって感じ」
「でも、可愛いよ。綺麗に巻けてると思うし」
「か、可愛い……!?」
「うん、可愛いよ」
可愛いと言っただけなのに、妃奈は恥ずかしそうに照れていた。
「う……」
「ん、どうかした?」
「もう……バカ!」
「えぇ!?」
僕は何か、したのだろうか……
ただ、可愛いと思ったから「可愛い」と言っただけなのに。
女って、ムズカシイ……
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まさか、太一がこんなにさらりと「可愛い」なんて言うとは思わなかった。
すごく嬉しいのに、恥ずかしい。照れる。
守護霊になった太一は、相変わらずで安心したけど、感情を表に出さないから読めない。
言葉では「嬉しい」と言っていても、ほんの少し微笑むぐらい。
めちゃくちゃ嬉しい時って、感情を爆発させて嬉しいオーラ満載で表現するのに、太一は違う。
まぁ、感情の出し方って人それぞれだし「こう在るべき!」なんてことはないから、いいんだけど。
でも、私と太一の感情の差が半端ない。
怒る時は感じ取れるから分かるんだけど、嬉しい時や何か良いことがあった時は普通?ぐらいだから、知らない人からしたら「嬉しくないの?」って思うのかも。
でも、それが太一だから。
私も理解して慣れるのに、時間がかかった。
だけど、私だけが理解していれば、それでいい。
だって、私は太一が好きだから。太一も、私が好き。
相思相愛だから、お互いがお互いのことを知っていれば、それでいい。




