キミとの共存
「はい、はい……えっ?えぇっ!?あっ、ありがとうございます!」
担当の人との電話で妃奈の声色が変わった。
コロコロ変わる声色が、僕にとって心地よくて聴いていて楽しい。
電話が終わると、妃奈は僕に
「ねぇ!私と大一の小説が、映画化されるんだって!すごいよね、ね!?」
「すごい……すごいよ!妃奈、おめでとう」
「ありがとう、大一。……本当、大一のお陰だよ」
「僕?いや、僕は何も……」
「こんなことを言うのは酷いと思うし、間違ってるのかも知れない。だけど大一が死んじゃったからこそ、私は大一との思い出を書き残したくて書いたの。だから、大一がそうならなかったら私は小説を書くこともなかったんだよ」
確かに、妃奈の言ったことは酷い。
僕が死んだお陰で小説が書けて、本が売れて映画化もされる。それに対して、感謝なんて。
僕が死んでいなければ、今こうして小説も書くことはなかった。
それを聞いたら、誰でも妃奈を責め立てるだろう。
人の死を何だと思っているんだと、批難されるだろう。
だけど、僕からすれば感謝でしかない。
僕の不注意で死んでしまったことを、僕の死を無駄にしなかったから。
少しぐらい、報われたのかなぁって思えるから。
だから、こちらこそ“ありがとう”なんだよ。
僕が傷付かないように、妃奈は言葉や表現に悩み、選びながら話してくれる。
「死に甲斐があったかな?」なんて、軽々しく言うと怒られた。
「今、生きていたら抱き締めたり手を繋いだりして、触れ合えるのに……」って、泣きそうになりながら言われた時は、何も言えなかった。
確かに、そうだよな。
僕の不注意がなければ、僕は今でも生きていて妃奈の隣に居ただろう。
こんな守護霊や幽霊の僕じゃなく、生身の僕ならどれだけ良かったか……
でも今更、後悔したってどうにもならない。
前向きに、今を生きよう。僕はもう、死んでるけど。
僕が必要なくなるまで、妃奈を支えよう。
妃奈が泣き止み落ち着くまで、僕は隣で黙っていた。
「ごめんね、大一……」
「いや、僕の方こそ……ごめん」
「ううん……」
何だか、気まずい。こういう時って、どうしたらいいんだろう。
「さっ、そろそろご飯の用意でもしようかな!」
わざと元気を出して、妃奈はキッチンへ行った。
気が利かない彼氏で、ごめん。
でも、僕は僕なりに妃奈を護ると誓ったんだ。
守護霊として、妃奈と一緒に過ごせることに、とても幸せに感じる。
あの時の長い空白を埋めるように、妃奈との想い出が、たくさん作られたら僕は何も言うことはない。
だから僕の任務が果たされる、その日まで……一緒に居させてね。




