表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕はキミに「さよなら」を告げる  作者: さくら 美羽都
21/29

さよなら ~キミからのプレゼント~




あれから、また数年が経ったある日。

僕は神様に呼ばれた。

何もしていないので、皆目見当もつかない。

なんで呼ばれたのか、分からぬまま神様のところへ行くと……

「今日、妃奈(カノジョ)が結婚するそうだ」

確かに、僕は手紙に“新しい恋に生きて”“花嫁姿が見たい”と書いたが、実際に言われると何だか複雑な気持ちになった。

嬉しい反面、やはり僕のことは吹っ切れて忘れているのかなと思うと、少し悲しい。

「えっと……それだけ、ですか……?」

「特別に、下界へ行くことを許そう」

「えっ……!本当ですか!?」

「あぁ、しかと目に焼き付けるんだな。本当にこれで最後だからな」

「ありがとうございます……!」

僕は神様に感謝しても、し尽くせないほどに感謝して下界へ行った。


今回は親切に、神様から場所を教えてもらった。

「えっと……確か、この辺だと……」

「はーい、ではこちらで撮りますねー!」

カメラマンの声だろうか。どうやら、写真撮影をしているらしい。

そこには、ウエディングドレスを来た女性が一人。

なんと、妃奈(カノジョ)だった。

しかし、お婿さんが見当たらない。

キョロキョロしていると、妃奈は何かを持っていた。

それは ───僕の写真だった。

一体、どういうことなのだろうか。

僕の写真を持った花嫁(カノジョ)が、そこに居る。

しかも、幸せそうな顔で写真を撮ってもらっている。

僕は思考が停止した。ゆっくりと、状況を整理しよう。

妃奈が花嫁姿で、僕の写真を持って写真撮影をしている。

お婿さんが居ない。結婚は……!?

僕に幸せな花嫁姿を見せて欲しいと書いたけど……僕は、もうこの世界には居ない。

だから、触れることも話すことも出来ない。

それなのに、妃奈(キミ)は幸せそうな顔を僕に見せてくれている。

考えれば考えるほど、妃奈の行動の意味が分からない。

でも、幸せそうな花嫁姿を見ることが出来たのは嬉しい。

何だか不思議な気持ちで、僕は死後の世界へ帰った。


「ただいま、帰りました」

「どうだった。綺麗だったか」

「あっ、はい……」

「何だ、あんなに見たがっていた花嫁姿だろう?」

「いや、その……混乱していて。今も」

「それはどういうことだ?」

妃奈(カノジョ)の花嫁姿を見ることは出来たのですが……旦那さんが居なかったんです」

「それで……?」

「捜したんですけど、見当たらなくて。そしたら、妃奈(カノジョ)は……ウエディングドレス姿で僕の写真を持ってました」

「嬉しくないのか……?」

「いや、花嫁姿は見たいと手紙に書きましたけど!でも……僕は、妃奈に幸せになって欲しいんです。僕は、もう居ないし。触れることも話すことも出来ないんです。妃奈を幸せに出来るわけがない」

「それは、どうかな」

「どういう意味ですか」

すると、神様は僕に1つの便箋を差し出した。

そこには「柚原 大一様へ」と書かれていた。

「これ……まさか」

「お前の“嫁さん”からだ」

「よっ、よよよ嫁さん!?」

「違うのか」

「違いますよっ!いや、違わないかも知れませんが!えっ、いや違いますよ!」

「何なんだ、お前は」

「僕にも分かりませんよ!」

神様から手紙を奪うように取り、終始ちょっとキレ気味に返答して僕は、一人になれそうな場所で妃奈が書いた手紙を読み始めた。

この字は、紛れもなく妃奈(カノジョ)の字だ。

僕はドキドキしながら、便箋を開いた。

しかし……待てよ?

なんで、神様が妃奈からの手紙を持っていたんだろう。

まぁ、それは後で聞くとして、今は手にしている手紙に集中しよう。

妃奈からの手紙には、こう書かれていた。



「柚原 大一様へ

お元気ですか?

死後の世界は、どうですか?

過ごしやすいですか?

私は大学在学中に、ずっとやりたかった小説の執筆活動を始めました。

言葉を(つむ)いで、一つの作品を作ることに興味があってSNSやサイトに載せたら、意外と好評で出版社から声を掛けてもらえたんだ。

私と大一の大切な想い出。

それでね、出版したら重版(じゅうはん)になったんだよ!

近々、映画化するかもって話らしいんだ!

すごいよね。私たちの想い出がいろんな人に読んでもらえて、映像化されるなんて。

ごめんね、勝手に書いて。

でも自分だけで秘めておくより、たくさんの人に読んで知ってもらいたかったの。

こんな恋愛もあるんだよって。

好きな人が居なくなっても、幸せになれるんだよって。

私は大一が、今でも好きです。

何度かね、大一の為にも誰かと結婚した方が良いのかなって思ったんだけど……ダメだった。

他の人を好きになろうと思えないし、頑張っても好きになれなくて。

それぐらい、私の中で大一は大きな存在で大切なの。

だから約束、破ってごめんなさい。

大一に縛られてるとか無理して、とかじゃないよ。

自分の意思で決めたことなの。

だから、許してね。

いつか、ウエディングドレス姿を見せるから見に来てね!絶対だよ?

神様に媚売ってでも来てね!

私、大学を卒業してからは小説家として働いてるの。

書くことが好きで、本を読むことも好きだったから幸せだよ!

だから私が、いつか大一の居る死後の世界へ行くまで、見守っててね。

それじゃあ、それまで……さよなら


一ノ瀬 妃奈」



僕は泣いた。

約束を破るも、許すも何もない。

僕は気付かぬうちに、妃奈に押し付けていたのかも知れない。

“誰かと結婚して、幸せになって欲しい”

それは、僕が妃奈が幸せになれるだろうと思っていたから書いた。

僕では幸せにすることが出来ないから。そもそも、僕は生きてないから触れることも話すことも、何も出来ない。

僕に縛られて一生を棒に振るのは勿体ない、と。

でも、それは僕がそう思っていただけで妃奈は、そう思っていなかった。

僕の手紙を読んで、妃奈に悩ませて苦しませてしまった。

僕の方こそ、ごめん。

どんな妃奈でも、妃奈が幸せに生きてくれたら僕は何も言うことはない。それで充分だ。

これは僕に対する、妃奈なりの愛なんだ。

妃奈(キミ)から素敵なプレゼントをもらえて、僕は幸せだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ