さよなら ~キミからのプレゼント~
あれから、また数年が経ったある日。
僕は神様に呼ばれた。
何もしていないので、皆目見当もつかない。
なんで呼ばれたのか、分からぬまま神様のところへ行くと……
「今日、妃奈が結婚するそうだ」
確かに、僕は手紙に“新しい恋に生きて”“花嫁姿が見たい”と書いたが、実際に言われると何だか複雑な気持ちになった。
嬉しい反面、やはり僕のことは吹っ切れて忘れているのかなと思うと、少し悲しい。
「えっと……それだけ、ですか……?」
「特別に、下界へ行くことを許そう」
「えっ……!本当ですか!?」
「あぁ、しかと目に焼き付けるんだな。本当にこれで最後だからな」
「ありがとうございます……!」
僕は神様に感謝しても、し尽くせないほどに感謝して下界へ行った。
今回は親切に、神様から場所を教えてもらった。
「えっと……確か、この辺だと……」
「はーい、ではこちらで撮りますねー!」
カメラマンの声だろうか。どうやら、写真撮影をしているらしい。
そこには、ウエディングドレスを来た女性が一人。
なんと、妃奈だった。
しかし、お婿さんが見当たらない。
キョロキョロしていると、妃奈は何かを持っていた。
それは ───僕の写真だった。
一体、どういうことなのだろうか。
僕の写真を持った花嫁が、そこに居る。
しかも、幸せそうな顔で写真を撮ってもらっている。
僕は思考が停止した。ゆっくりと、状況を整理しよう。
妃奈が花嫁姿で、僕の写真を持って写真撮影をしている。
お婿さんが居ない。結婚は……!?
僕に幸せな花嫁姿を見せて欲しいと書いたけど……僕は、もうこの世界には居ない。
だから、触れることも話すことも出来ない。
それなのに、妃奈は幸せそうな顔を僕に見せてくれている。
考えれば考えるほど、妃奈の行動の意味が分からない。
でも、幸せそうな花嫁姿を見ることが出来たのは嬉しい。
何だか不思議な気持ちで、僕は死後の世界へ帰った。
「ただいま、帰りました」
「どうだった。綺麗だったか」
「あっ、はい……」
「何だ、あんなに見たがっていた花嫁姿だろう?」
「いや、その……混乱していて。今も」
「それはどういうことだ?」
「妃奈の花嫁姿を見ることは出来たのですが……旦那さんが居なかったんです」
「それで……?」
「捜したんですけど、見当たらなくて。そしたら、妃奈は……ウエディングドレス姿で僕の写真を持ってました」
「嬉しくないのか……?」
「いや、花嫁姿は見たいと手紙に書きましたけど!でも……僕は、妃奈に幸せになって欲しいんです。僕は、もう居ないし。触れることも話すことも出来ないんです。妃奈を幸せに出来るわけがない」
「それは、どうかな」
「どういう意味ですか」
すると、神様は僕に1つの便箋を差し出した。
そこには「柚原 大一様へ」と書かれていた。
「これ……まさか」
「お前の“嫁さん”からだ」
「よっ、よよよ嫁さん!?」
「違うのか」
「違いますよっ!いや、違わないかも知れませんが!えっ、いや違いますよ!」
「何なんだ、お前は」
「僕にも分かりませんよ!」
神様から手紙を奪うように取り、終始ちょっとキレ気味に返答して僕は、一人になれそうな場所で妃奈が書いた手紙を読み始めた。
この字は、紛れもなく妃奈の字だ。
僕はドキドキしながら、便箋を開いた。
しかし……待てよ?
なんで、神様が妃奈からの手紙を持っていたんだろう。
まぁ、それは後で聞くとして、今は手にしている手紙に集中しよう。
妃奈からの手紙には、こう書かれていた。
「柚原 大一様へ
お元気ですか?
死後の世界は、どうですか?
過ごしやすいですか?
私は大学在学中に、ずっとやりたかった小説の執筆活動を始めました。
言葉を紡いで、一つの作品を作ることに興味があってSNSやサイトに載せたら、意外と好評で出版社から声を掛けてもらえたんだ。
私と大一の大切な想い出。
それでね、出版したら重版になったんだよ!
近々、映画化するかもって話らしいんだ!
すごいよね。私たちの想い出がいろんな人に読んでもらえて、映像化されるなんて。
ごめんね、勝手に書いて。
でも自分だけで秘めておくより、たくさんの人に読んで知ってもらいたかったの。
こんな恋愛もあるんだよって。
好きな人が居なくなっても、幸せになれるんだよって。
私は大一が、今でも好きです。
何度かね、大一の為にも誰かと結婚した方が良いのかなって思ったんだけど……ダメだった。
他の人を好きになろうと思えないし、頑張っても好きになれなくて。
それぐらい、私の中で大一は大きな存在で大切なの。
だから約束、破ってごめんなさい。
大一に縛られてるとか無理して、とかじゃないよ。
自分の意思で決めたことなの。
だから、許してね。
いつか、ウエディングドレス姿を見せるから見に来てね!絶対だよ?
神様に媚売ってでも来てね!
私、大学を卒業してからは小説家として働いてるの。
書くことが好きで、本を読むことも好きだったから幸せだよ!
だから私が、いつか大一の居る死後の世界へ行くまで、見守っててね。
それじゃあ、それまで……さよなら
一ノ瀬 妃奈」
僕は泣いた。
約束を破るも、許すも何もない。
僕は気付かぬうちに、妃奈に押し付けていたのかも知れない。
“誰かと結婚して、幸せになって欲しい”
それは、僕が妃奈が幸せになれるだろうと思っていたから書いた。
僕では幸せにすることが出来ないから。そもそも、僕は生きてないから触れることも話すことも、何も出来ない。
僕に縛られて一生を棒に振るのは勿体ない、と。
でも、それは僕がそう思っていただけで妃奈は、そう思っていなかった。
僕の手紙を読んで、妃奈に悩ませて苦しませてしまった。
僕の方こそ、ごめん。
どんな妃奈でも、妃奈が幸せに生きてくれたら僕は何も言うことはない。それで充分だ。
これは僕に対する、妃奈なりの愛なんだ。
妃奈から素敵なプレゼントをもらえて、僕は幸せだ。




