さよなら ~手紙~
僕は神様との約束で「二度と、妃奈のことは見ない。死後の世界で一生、生きていくこと」を誓っていた。
だから、妃奈が無事に手紙をカフェの店員さんから受け取ったとか、その後の様子は全くもって分からない。
だけど、一度だけ神様から妃奈のことを聞いた。
あれから妃奈は無事に、僕が言ったカフェの店員さんから手紙を受け取り、手紙に穴が空くほど大切に何度も読んでくれたそうだ。
それから、妃奈は大学を在学中に執筆活動を始め、大学を卒業して小説家になったそうだ。
僕との出来事を想い出として、一人でも多くの人に読んで欲しい。こんな素敵な“恋愛”があるんだよ、と伝えたい気持ちで書いたそうで、その妃奈が書いた恋愛小説は、なんと賞まで取ったというから僕は驚いて、言葉が出なかった。
そういえば、僕が妃奈に宛てた手紙。
それは ───
「お元気ですか。
僕は死後の世界で、元気にやってます。
久しぶりに妃奈に逢えて、すごく嬉しかった。
ますます綺麗で可愛くなっている妃奈を見て、僕は惚れ直しました。
なんて、こんな恥ずかしい台詞は手紙ぐらいでしか、言えないだろうな。
僕はあの事故の時、かろうじて生きて妃奈に逢えたら伝えようと思ったんだけど、まさかの瞬殺だったので自分でもびっくりした。
でも、苦しみながら看取られるよりも良かったんだと思う。
僕の不注意で妃奈には、とても悲しい思いをさせてしまって、本当に申し訳ないと思ってる。
許してもらおうなんて思ってないけど、とにかく謝りたくて。
本当にごめん。
僕は死んで、妃奈や家族が悲しんでいる毎日を見るのが辛くて、死後の世界へと逃げたんだ。
卑怯だよな、逃げるなんて。
でも、見ていられなかったんだ。
僕のせいで、家族や恋人が悲しみ苦しんでいる姿を永遠に見続けるのは……堪らなかった。
でも僕は、ずっと妃奈に伝えたいことがある。
今でも、僕のことを想い続けていると知って、すごく嬉しかった。
けど、もう僕のことを想い続けなくていいよ。
新しい恋に生きて欲しい。
僕との恋は想い出として、胸の片隅にでも仕舞っておいて欲しい。
妃奈は、これからがある。未来があるんだ。
妃奈にはずっと、ずっと幸せでいて欲しい。
僕は妃奈を幸せにすることが出来ないから。
幸せにしてくれる人に出逢って、幸せになって欲しい。
僕は神様との約束で、二度と妃奈の生きている世界には行けないけれど、死後の世界から見守っています。
そして、いつか……
妃奈の花嫁姿が見られるように、神様と交渉でもしておくから。
あの時、僕を見つけてくれて……声を掛けてくれて、本当にありがとう。
短い間だったけど、妃奈には一生分の幸せをもらいました。
もう一度、妃奈に逢えたから思い残すことはありません。
この手紙は一生、残るかも知れない。急に消えてなくなるかも知れない。
それでも、こうして手紙に遺せて良かった。
それじゃあ、これからもお元気で。
さよなら
柚原 大一」
“伝えられなかったことを伝える”
それは、もう僕のことを想い続けなくていいよ。
僕に縛られないで欲しい。
僕のことを忘れてとは言わないけれど、想い出に仕舞って新しい恋をして欲しい、ということ。
そうでもしないと、きっと妃奈は前を向けないと思うから。




