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僕はキミに「さよなら」を告げる  作者: さくら 美羽都
20/29

さよなら ~手紙~




僕は神様との約束で「二度と、妃奈のことは見ない。死後の世界で一生、生きていくこと」を誓っていた。

だから、妃奈が無事に手紙をカフェの店員さんから受け取ったとか、その後の様子は全くもって分からない。

だけど、一度だけ神様から妃奈のことを聞いた。

あれから妃奈は無事に、僕が言ったカフェの店員さんから手紙を受け取り、手紙に穴が空くほど大切に何度も読んでくれたそうだ。

それから、妃奈は大学を在学中に執筆活動を始め、大学を卒業して小説家になったそうだ。

僕との出来事を想い出として、一人でも多くの人に読んで欲しい。こんな素敵な“恋愛”があるんだよ、と伝えたい気持ちで書いたそうで、その妃奈が書いた恋愛小説は、なんと賞まで取ったというから僕は驚いて、言葉が出なかった。




そういえば、僕が妃奈に宛てた手紙。

それは ───


「お元気ですか。

僕は死後の世界で、元気にやってます。

久しぶりに妃奈に逢えて、すごく嬉しかった。

ますます綺麗で可愛くなっている妃奈を見て、僕は惚れ直しました。

なんて、こんな恥ずかしい台詞は手紙ぐらいでしか、言えないだろうな。

僕はあの事故の時、かろうじて生きて妃奈に逢えたら伝えようと思ったんだけど、まさかの瞬殺だったので自分でもびっくりした。

でも、苦しみながら看取られるよりも良かったんだと思う。

僕の不注意で妃奈には、とても悲しい思いをさせてしまって、本当に申し訳ないと思ってる。

許してもらおうなんて思ってないけど、とにかく謝りたくて。

本当にごめん。

僕は死んで、妃奈や家族が悲しんでいる毎日を見るのが辛くて、死後の世界へと逃げたんだ。

卑怯だよな、逃げるなんて。

でも、見ていられなかったんだ。

僕のせいで、家族や恋人が悲しみ苦しんでいる姿を永遠に見続けるのは……(たま)らなかった。

でも僕は、ずっと妃奈に伝えたいことがある。

今でも、僕のことを想い続けていると知って、すごく嬉しかった。

けど、もう僕のことを想い続けなくていいよ。

新しい恋に生きて欲しい。

僕との恋は想い出として、胸の片隅にでも仕舞っておいて欲しい。

妃奈は、これからがある。未来があるんだ。

妃奈にはずっと、ずっと幸せでいて欲しい。

僕は妃奈を幸せにすることが出来ないから。

幸せにしてくれる人に出逢って、幸せになって欲しい。

僕は神様との約束で、二度と妃奈の生きている世界には行けないけれど、死後の世界から見守っています。

そして、いつか……

妃奈の花嫁姿が見られるように、神様と交渉でもしておくから。

あの時、僕を見つけてくれて……声を掛けてくれて、本当にありがとう。

短い間だったけど、妃奈には一生分の幸せをもらいました。

もう一度、妃奈に逢えたから思い残すことはありません。

この手紙は一生、残るかも知れない。急に消えてなくなるかも知れない。

それでも、こうして手紙に遺せて良かった。

それじゃあ、これからもお元気で。

さよなら


柚原 大一」


“伝えられなかったことを伝える”

それは、もう僕のことを想い続けなくていいよ。

僕に縛られないで欲しい。

僕のことを忘れてとは言わないけれど、想い出に仕舞って新しい恋をして欲しい、ということ。

そうでもしないと、きっと妃奈は前を向けないと思うから。





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