さよなら ~僕はキミに~
時刻は19時30分。
僕は、いたたまれなくなり店員さんに手紙を託して、僕はカフェを出た。
もう、諦めよう。
もう充分、待ったよ僕は。
カフェを出て、神様と約束の神社へ行こうと歩き出した時 ──
「た……大一!」
「えっ……」そこには僕の大好きな、待ち焦がれていた妃奈が、居た。
「ずっと……待っててくれてたんだね」
「えっ……と、どうして……」
「本当は行くつもりなかったの。だって、行ったら大一が今日、消えちゃうのを肯定してしまうから……」
「いや、妃奈が」
「だからね」
「うん……」
「行かなきゃ、伝えたいことが伝えられないんだから消えないと思ったの」
「むちゃくちゃだ……」
「本当にそうなら、逢わなかったよ。本当に」
「流石に、それは困るかな……」
「でしょう……?大一が嘘をついてるとは思えないし、それに最後の最後まで逢わないのは……絶対、後悔すると思って」
「それで、来てくれたの……?」
「だって逢えないままで、お別れなんて……絶対に嫌だもん……」
「妃奈……優しいね」
「そ、そんなこと無いし!ふ、普通だし」
「ははは。そんなところも好きだよ」
「なっ!?」
僕はあまりの嬉しさに、外だということも忘れて妃奈を抱き締めた。
「ちょっ!?ここ外だから!人、居るからっ!」
「ごめん。もうちょっとだけ」
まさかの最後の最後に、大好きな人に逢えるなんて思ってもみなかった。
きっと逢えないまま、僕は消え去るんだとばかり思っていたから。
僕は妃奈と、神様と約束していた神社に向かっていた。
「さっきのカフェで、僕の手紙を受け取ってね」
「えっ、大一が手紙!?」
「大袈裟だなぁ」
「え、だって今まで、大一から手紙なんてもらったことないじゃん!」
「まぁ……そうだね」
僕が妃奈に遺せるのは、きっと手紙しかないと思うんだ。
お世辞にも綺麗とは言えないけれど、一生懸命に心を込めて書いたんだ。
妃奈の為に。
「ふふふ、楽しみだなー」
「まぁ、そんな良いもんじゃないと思うよ」
「えっ!?そうなの~!?」
良いことぐらい、書いといてよ!と言われたけれど、そんなに悪いもんでもないと思う。
可もなく不可もなく、ってところだろう。
“伝えられなかったこと”も手紙に書いてある、と伝えた。
「うん、分かった」とだけ妃奈に言われて、僕たちは無言で歩いて行った。
もうすぐで、神社に着く。
「僕は、もう死後の世界で生きていくから……妃奈のことを見るのは、今日で……さよならだ」
「えっ……どういうこと……?」
「全部、手紙に書いてるから」
「手紙じゃなくて、口で説明してよ!」と言われたけれど、神様から「もう時間だ」と言われた。
「もう時間だから……行くね。最後に逢えて良かった。僕は、妃奈のことが大好きだったよ。手紙に伝えられなかったことも書いたし、もう思い残すことはないよ。本当にありがとう!そして……“さよなら”」
「嫌だ!“さよなら”なんて言わないでよ!思い残すことは無いって……あっ」
妃奈は、まだまだ僕に話したかったみたいだけど、僕は神様によって消えた。
涙の妃奈を一人、置いて僕は再び死後の世界へと、戻って来た ───




