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僕はキミに「さよなら」を告げる  作者: さくら 美羽都
18/29

さよなら ~時刻が過ぎ~




時刻は15時30分。

妃奈が30分も遅刻だなんて珍しい。

どうしたんだろう。

もしかして、本気で嫌われたのだろうか僕は。

でも、あの時の妃奈の台詞が僕の頭の中をぐるぐ る回っている。

「言わなきゃ、一緒に居られるんでしょ?それな ら、言わなくていい!」

まさか、そんなことを言われると思ってなかった から、僕は頭が真っ白で何も言えなかった。

だけど、真っ白な頭の中を無理やり動かして今日 のことを言うことが出来た。

どんな結果になったって構わない。

もし閉店までに来なかったら、その時は店員さんに、この手紙を(たく)そう。

逢えなかったとしても手紙で文字で伝えられるなら、それでいいと思う。

けれど出来ることなら直接、逢って渡したいし、伝えたい。

“もう、僕のことは忘れて欲しい”と───



時刻は16時30分。

あれから1時間も経ったけれど、未だに来る気配いがない。

本当に、来ないつもりなのだろうか。

もう僕は、本当に今日で居なくなるというのに。

嘘じゃないのに、信じてもらえていないのかな。

いや、そんなことを考えるのはよそう。

今日は、このカフェが閉店するまで待っていると決めたし、あの時も妃奈にそう伝えたんだ。

だから、待とう。

きっと、妃奈は来てくれる。

僕は信じてるから。


時刻は17時30分。

また、あれから1時間が経ったけれど妃奈が来る気配はない。

10分、30分が1時間、2時間に感じる。

今なら、たった1分でさえも長く感じる。

彼女が来るのをじっと待っている僕を、店員さんは気の毒だなと思っているのだろうか。

まぁ、僕は今日で消え去るんだから気にも留めていないんだけど。

どうして来てくれないんだろう。

本当に僕のことが嫌になった、とか……?

だとしたら、今日はもう来ないのかな。

あぁ、ネガティブでマイナス思考の僕が頭の中を占領していく。


そもそも僕は、この世に生き返らせるべき人間ではなかったんだ。

不慮の事故とはいえ、彼女に伝えられなかったんだから大人しく、死後の世界で生きていけば良かったんだ。

妃奈には、綺麗な想い出のままの方が良かったんだ。

神様に生き返らせてもらったからって、現れるべきじゃなかったんだ。

どんどんどんどん、マイナスな考えが溢れてしまう。

これは、自己満足にしか過ぎなかったんだ。

僕は自分のことしか考えていなかった。

反対の立場だったら?

それでも僕は彼女に逢えたことが嬉しくて、例え騙されたとしても喜んで逢いに行ったと思う。

そして、最後の言葉を一音も逃さず、聴いていたと思う。

これは、僕と妃奈(カノジョ)の温度差なのだろうか。

分からない。


時刻は18時30分。

ここのカフェは、22時まで営業しているが神様との約束は20時まで。

どうしても、とお願いしたのだが譲れないと言われて、僕が折れた。

最後の最後に、一目でもいいから妃奈に逢えたら僕は思い残すことはない。





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