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僕はキミに「さよなら」を告げる  作者: さくら 美羽都
15/29

~想い出 6~



一ノ瀬さんと恋人になり、動画作成も更に楽しくなった。

でも、二つ変わったことがある。

それはデートをすることと、一ノ瀬さんを下の名前で呼ぶことだ。

動画作成を程ほどにして、自分たちだけの時間も大切にすること。

そう決めてからは、動画投稿の頻度を減らして二人だけの時間を過ごした。

もうすぐ期末試験があるから、それが終わったらデートしよう、と約束していた。

後は、一ノ瀬さんが「付き合ってるのに、ずっと名字で呼ばれるのは嫌だ!下の名前で呼んで欲しい!」とせがまれ……顔から火が出るほど恥ずかしかった僕だけど、気付いたら慣れていた。

テスト期間中は、分からないところをお互いに教え合ったり、一緒に考えたりした。

ピアノは、テスト勉強の気分転換に少ししたぐらいで、ほとんど弾いていなかった。

そして期末試験が終わり、答案用紙が返却された。

自分にしては頑張った方だと思うし、点数も悪くなかった。


実は僕と妃奈が付き合っていることは、クラスには内緒にしている。

妃奈は気にしない!と言ってくれたけど、僕が気にするから学校では、いつも通りにしようと言うと渋々だけど、約束してくれた。

僕は密かに幸せを感じる方が合っている。

こうして、プライベートで会って小さな幸せを噛み締めている方が、独り占めしている方が……僕は良い。

地味で目立たない方が、僕は安心する。

僕は期末試験が終わってから、妃奈に内緒でオリジナル曲を作っていた。

勿論、妃奈に伝える為だ。

こんな僕に、声を掛けてくれてありがとう。

僕に、ピアノの演奏を褒めてくれてありがとう。

そして、YouTubeを勧めてくれて一緒に活動してくれて、ありがとう。

僕と付き合ってくれて、隣で一緒に居てくれて……本当にありがとう。

これからも、よろしくね。

この、オリジナル曲には妃奈への感謝の気持ちが、たくさん詰まっている。

それを伝えたくて、期末試験の答案用紙の返却が終わった今日、妃奈に「サプライズがある」とだけ言って、僕の部屋に来てもらった。

「サプライズって、なーに!?」

「まぁまぁまぁ。あんまり、期待しないでよ」

「やだよーー!大一がサプライズだなんて、期待しかないよ!?」

妃奈は、すごく嬉しそうに椅子に座って待っている。

妃奈の前で改まって弾くのは何だか緊張するけど、それよりも伝えたい方が強かったから僕は今、何だかワクワクしている。

深呼吸をして、気持ちを落ち着かせて───

始めよう。


僕に出来る方法で、妃奈(キミ)に伝えよう。


演奏が終わり、妃奈を見ると泣いていた。

「ぅわっ!」

「うぅ~!すごい良かった~!!」

「そ、そんな泣かないでよ」

「だって、素敵なんだも~ん!やっぱり、大一のピアノが一番だよっ!」

「そ、そうかな……?」

「うん!実は他の人が演奏してる動画を、観たり聴いたりしてたんだけど……やっぱり、大一のピアノが一番だなって!」

「……あっ、ありがとう」

「なによ?照れちゃって!」

「うん……何か、照れるね」

妃奈への感謝の気持ちも、伝わって良かった。

これからも、もっと妃奈に僕のオリジナル曲を聴かせるんだ。

次はいつ、何のオリジナル曲を作ろうか。

誕生日?記念日?夏祭りとか、クリスマスとかのイベント?

即興で、いきなり弾いてもいいな。

僕は次のピアノサプライズで、しばらく頭がいっぱいだった。


そして、初めてデートをしようと決めた、あの日。

僕は事故で、死んだんだ。





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