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僕はキミに「さよなら」を告げる  作者: さくら 美羽都
14/29

~想い出 5~



それから僕たちは、放課後や休日など時間さえあれば動画作りをして、少しずつだけど視聴回数やチャンネル登録者数が増えていった。

応援してくれるファンからのコメントに励まされ、もっと投稿しよう!と前向きになれる一方で「楽譜通りに弾けよ」「明るい曲は明るい曲、悲しい曲は悲しそうな音色で弾くべき」など、アンチからのコメントもチラホラあった。

一ノ瀬さんは「アンチなんて、気にすることないよ!ファンの為だけ、考えてやろう!」と僕を元気づけて励ましてくれる優しさが嬉しかったけれど、やはりアンチのことが気になってしまう。

「僕が感じるまま、思うままに自由に弾いています」って概要欄に、ちゃんと注意書きしているのに。

それでも突っ掛かってくるアンチって一体、何なんだ。

考えてみたけれど、分からない。

しかし、考えるだけ無駄だと気付き僕はピアノの練習を始めた。

僕はピアノが大好きだし、自分の弾き方も気に入っている。

今更、他の人がこう言ったからって変える必要は、ないんだ。

僕は僕らしく、ピアノを弾いて少しでも誰かの癒しに、元気を与えられる存在になれたら。

それは幸いなことだ。

気付けば、僕のネガティブ発言はだんだん減っていた。

一ノ瀬さんのお陰で、ピアノは僕の強みになり少しは自分なりに前向きに物事を考えられるようになっていた。

いろんな有名な曲や、僕のオリジナル曲を動画内で披露しているが唯一、披露しないと決めている曲がある。

それは……

一ノ瀬さんに告白を表現した、あの曲だ───

あの曲は、一ノ瀬さんだけが知っていればいい。

いや、一ノ瀬さんの胸の内にだけ秘めていて欲しい。

あれから告白の返事は聞いていないけど、返事は聞けなくていいと思っている。

こうして、一緒に居られて動画作成をしている。

僕はそれだけでも十分、嬉しいんだ。


そう思って過ごしていた、ある日の放課後。

いつものように動画作成をしていると、一ノ瀬さんの様子がおかしい……

何だか気まずそうで、落ち着かずにソワソワしているみたいだった。

僕は「何か用事とかあるんだったら、別に今日は帰っていいよ?」と言うと「違う、そうじゃない」って。

「じゃあ、何?今日は何か様子が変だから、気になってるんだけど……」と言うと一ノ瀬さんはしばらくして、沈黙の後に

「あの……私、言わなきゃいけないことがあるんだけど……」と言うので、何?と聞くと

「わっ、私……大一くんに返事……してない、よね……?」と言ったので、僕は心底びっくりした。

まさか僕が、一ノ瀬さんに告白として演奏したオリジナル曲のことを、覚えてくれていたなんて……

「えっと……あの、僕のオリジナル曲が何を伝えているか、分かった……?」

「うん……」

「えっと、じゃあ僕がその曲で言いたいことが何か、分かってたの!?」

「ハズレたら……ごめんね。大一くん……私のこと、好きって伝えてくれたんだよね……?」

「うっ、うん!そうだよ」

「そっか……当たって、良かった!」

一ノ瀬さんは僕がオリジナル曲で告白していることを感じ取ったみたいなんだけど、勘違いだったら恥ずかしいと思って、わざとYouTubeの話を持ち掛けて逸らしたらしい。

そして、僕の反応を見ながら返事をする機会を伺って、今に至るという。

「でも、こんなの卑怯だよね……ごめんなさい」

「いや、その……」

僕だって、ちゃんと面と向かって“好き”って言えなかったんだから、おあいこだよって言ったら、一ノ瀬さんに泣かれた。

何故だ。

僕は何か、まずいことを言ってしまったのだろうか。

「え~ん……!」

「えっ、なっ、何か分かんないけど、ごめんね?」

「なんで謝るの!」

「えっ、いや……泣いてるから……?」

「こっ、これは……大一くんが優し過ぎるからだよ……っ」

「えぇ!?」

「普通は「そうだね、卑怯だよ!」って怒るところなの!私を責める場面なのっ!」

「そ、そうなんだ……?」

「そうだよ!もう……大一くんのばかぁっ!」

「えぇ~っ!?」

僕がピアノで、一ノ瀬さんに告白してから2ヶ月が過ぎ、ようやくOKがもらえて僕たちは晴れて、恋人になりました。





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