~想い出 4~
僕は、ふと疑問に思った。
どうして彼女は、僕に声を掛けたのか。
どうして彼女は、僕に動画を勧めたり、動画作成に付き合ってくれるのか。
考えれば考えるほど、分からない。
どうしてなんだろう……
僕は、ある日の動画作成の時に思いきって聞いてみた。
「あの、さ……」
「んー?なに?また、どこか気に入らない箇所あった?」
「いや、そうじゃないんだけど……」
「じゃあ、なーに?」
「どうして、僕なんかに声、掛けたのかなって……」
「“なんか”って何?」
「えっ……」
「柚原くん、自分のこと見下げるのやめなよ!柚原くんは“ピアノ”っていう素晴らしい、良いモノ持ってるのに“僕なんか”って見下げて……」
「だ、だって……僕は冴えてないし」
「だってじゃないっ!」
「あ、はいっ……!」
彼女が怖い。僕が言い終わらないうちに、被さってきた。
「いーい?柚原くんは“ピアノが弾ける”っていう、素晴らしいモノを持ってるんだから堂々としてれば良いんだよ?あんな素晴らしくて、繊細で綺麗な心奪われる音色は、他にないよっ!」
「めっちゃ、お褒めいただける……」
「ほんとのことだから!!」
「あっ、スミマセン……」
「もー!これからは、そうやってネガティブとか自分を見下げるようなこと言うの、禁止!ね、分かった?」
「あの……」
「なーに?」
「もし、言っちゃったら……どうするの?」
「もし、言ってしまった場合……」
「言ってしまった場合……?」
「うーんと」
「決まってないの?」
「咄嗟に言っちゃったから♪」
「なんだ、それ……」
「あっ!そうだ」
「えっ、何?」
「もし、言ってしまった場合……」
「どうするの……?」
「デコピン&100円を回収しますっ!」
「100円、回収……!?」
「そうだよー!ネガティブ発言する度に100円、徴収するからねっ!どう?嫌でしょ?」
「嫌だ。貴重な100円玉……っ!」
「だから、くれぐれもネガティブ発言しないようにねっ♪」
「キミが怖い……」
「そうかな?あっ、そういえば思ってたんだけど」
「えっ、何……!?」
「どうして、柚原くんって私のこと“キミ”って言うの?ちゃんと名前、知ってるよね?」
「……」
「ねぇ、無視はよくないぞー!」
「いや、その……ネガティブ発言になるから、やめておこうと……」
「じゃあ、この質問だけはネガティブ発言OKだから、教えて?」
「それは……僕なんかが、人気者の一ノ瀬さんに名字で呼ぶなんて、おこがましいかなって……」
「どんだけ自分、底辺なの!?」
「スミマセン、スミマセン、スミマセン……!」
「はぁ……今から、ちゃんと私のことを名字か名前で呼ぶこと!分かった?」
「へっ!?名前!?」
「名字でもいいから。分かった?」
「ハっ、ハイ……」
「じゃあ、ちょっと休憩しよ!柚原くん、ずっとピアノ弾いてるから指とか手首、痛いでしょ?」
「いや、大丈夫だよ。休みの日とか気付いたら1日中、弾いてたこともあったし……」
「うわっ、それはヤバい!腱鞘炎とか、なってない?大丈夫?」
「あぁ、うん。次の日は1日、ピアノ休んだから」
「そっか、なら良かった」
「あのっ……」
「あ、何かさっき聞いてたよね?」
「うん。あの、どうして僕に声掛けたのかなって……」
「話してみたかったの」
「僕と?」
「そう。いつも物静かで、窓際の席で本読んでるからさ。何、読んでんのかなって最初は気になってたけど、たまたま学校に忘れ物をして取りに帰ってる途中、ピアノの音色が聴こえて……何故か気になって、音楽室を覗いてみたの。好奇心でね」
「それで、ピアノを弾いてるのが僕だって分かったんだ」
「そう。最初は本当にびっくりして、その場から動けなかったの!だから、柚原くんがこっち向かなくて本当に良かった~!」
「もし、僕にバレてたらどうするつもりだったの?」
「ちゃんと説明して、謝るよ」
「真面目なんだな……」
「ひっどーい!私、真面目だもん!」
「ははは、そっか」
「笑ったー!ひどーい!」
「ははははは……」
「で、これからはちゃんと私のことを名前で呼ぶこと!分かった?」
「はい……」
「なら、よろしい!」
と言って、キミは機嫌が良くなった。
それからは、ちゃんと“一ノ瀬さん”と名字で呼ぶようになった。
でも僕は友達があまり居ないから、キミみたいにキラキラした眩しい人と、どう関わったらいいのか分からない。
それに、僕なんかと一緒に居るよりキラキラした人たちと一緒に居た方が、よっぽど充実した青春や学校生活が送れるのに。
あっ、ネガティブ発言をしてしまった。
でも、心の中だからバレないバレない。
「もしかして、ネガティブ発言した?心の中で」
「ひぃいいいいいっ!!!」
「あーーっ!やっぱり!!」
「え、や、な、なななんでそう思ったの!?」
「その反応が証拠だよ、柚原くん!」
「ハッ……!?」
「ふふん、かまかけてみたんだが……やはりそうだったか」
「わぁあああああ、スミマセンッ!!」
「はい、じゃあ100円!」
語尾に可愛らしい、ピンク色のハートマークが見える……
女って怖ぇーな……と思いながら、僕は貯金箱に100円を入れた。




