~想い出 2~
僕が放課後、音楽室でピアノを弾いているとキミがやってきた。
「邪魔しないからさ……たまに、聴きに来てもいい?」
「えっ、あ……うん」
「ありがとう!」
僕は恥ずかしいような、緊張したような気持ちになり、ピアノをいつものように弾けなかった。
たまに、という割りには僕がピアノを弾く時には、ほぼ毎回来ていた気がする。
僕は僕の好きなように、想うままにピアノを弾く。
僕はコンクールに出ないし、先生でもない。
ただ、ピアノが好きで弾いているだけ。
ただ、自分の世界に浸っているだけ。
でも、そんな僕の世界にも客人が一人。
僕の好きな人が、僕のそばで目を閉じて聴いている。
ここは、僕の世界の小さなピアノコンサート。
即興で弾いたりもする。
キミを想っているんだと、口で言えない代わりにピアノのラブレターを弾く時もある。
キミが僕のピアノのラブレターを「素敵だね」って言ってくれるのが、僕の幸せだった。
それから、僕は作曲に没頭した。
どうやったら、もっとキミに伝わるかな。
どうやったら“好き”って伝わるのかな───
友達という安全な位置で、変わらない毎日を過ごせる方が良いというのは分かっていた。
だけど、このままずっと片想いし続けて藻掻き苦しむぐらいなら、いっそのことフラれた方が良いと思った。
だから僕は、ある日キミを放課後の音楽室に呼び出して、伝えたいことがあると言った。
僕はピアノに想いを託した。
あの時、僕を助けてくれたこと。
いつの間にか、キミに惹かれていたこと。
僕の演奏に、どれも「素敵だね」「すごい!」
「良い曲」って褒めてくれたこと。
僕はキミが“好き”なんだ。
この気持ちが伝わって欲しい───
僕は夢中で弾ききった。
僕はピアノでしか、この気持ちを表現出来ないと思った。
演奏が終わり、キミを見ると……
泣いていた。




