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私立養成学園(凍結中)  作者: 森尾友彬
中原巴編
6/21

出会い

 四月四週、週末。


 一週間の練習を終えるとクタクタだ。体力づくりのランニングに筋トレ、それからボール拾いに玉磨き、ボールのほつれ直しが連続する。だから、週末の休みが有難い。


『俺がお前達に教える事は社会に出た時に役に立つはずだ。社会には勝者と敗者の二つしか無く、俺はお前達に勝利を教えてやる』


 確かこんな感じの事を監督が言っていた気がする。


 ふらふらとやって来たのは女子エリアに繋がる森だ。先週は開けた場所まで来たので、今日は海の匂いが流れて来ない方の道を行ってみるつもりだ。


「そろそろ気を付けないと……」


 シュッ、シュッ。


 風切り音が聞こえて茂みにしゃがみ込んだ。


 シュッ、シュッ。


 音から判断すると金属バットよりも細い物で、細長い棒? それにしては短い音だ。


「ガルルルルッ」


 ⁉


 突然、背後に嫌な気配を感じて背筋が凍り付いた。


「ん?」


 今度は風切り音が止んで、何者かが近づいてきている。


「誰ー? そこに居るのは」


 声を聞いてみれば女の子の声だった。やや、低い声だが確かに、久しぶりに聞く女子の声だ。


「くぅーん」


 背後のドーベルマンが急に怯えた声を発して走り去る。


「なーんや。お前か」


 一瞬ドキッとした。それは俺がここに隠れている事がばれたのかと思って、鼓動が早くなる。


「あッ」


 ドーベルマンが女子の方に掛けて行くのを見た俺は思わず立ち上がってしまった。


「ひ、ヒッ!」


 目の前に居たのは二メートルを超える棒を肩に引っ掛けた。身長の大きな女子だった。


 しかし、その女子は酷く怯えた表情と震えた膝で俺の事を見ていた。


「えっと、君は誰?」


 俺は極力悪い印象を抱かせない様に、そしてこの機会を逃さない様にと青いブレザーを着ている女子に尋ねる。


「えーっと」


 背の大きな女子は周囲を見回すとポンと手を取って、


「あ、ウチか? てか、ウチしかおらんね」


 怯えが無くなったのか、女子は普通に受け答えをしてくれるようだ。


「ウチは一年四組、中原巴言います。よろしく」


 中原巴と名乗った大きな女は「ん」と言葉を切った。


 次の言葉を待っていた俺はぼーっと彼女を眺めていたら、少し顔を赤くして、


「次はあんたが名乗る番でしょ? ウチ、名乗ったで」


 さっきの「ん」は言葉を切ったのではなく、俺が名前を名乗るのを促すためのものだったらしい。


「あぁ、まだ何か話したい事があるのかと勘違いしてた」


「ウチの事はどーでもええやろ? 相手が名乗ったら、それに答える。それが普通やろ」


 それもそうか。俺は被っていた野球部の帽子を取った。


「俺も一年だ。名前は太田智春。よろしくな。えっと中原さん」


 俺は中原さんの持っていた細長い棒に視線が吸い込まれ、一つの疑問が浮かんだので聞いてみる事にした。


「あのさ、君はここで何を?」


 中原さんは困った表情をして「ま、いいか」と呟いた後に答え始める。


「ウチ、一日一度は体動かさないと落ち着かなくてな。せやから、こうして……。で、あんたは? 何の理由も無く立ち入り禁止の森に入ったわけやないやろ?」


 聞いた事を後悔した。目の前の女子生徒に対し、嘘を吐くのもあれだし。どうしようか。


「どしたん?」


 ぐいっと中原が近寄ってきていた。少し驚きの声を上げてしまったが。


「いやぁ。この先に女子寮があるって聞いて……」


「女子寮か? だったらこの道の先だけど、一応ウチも女子生徒やし、どうぞとも案内も出来んで?」


「流石にばれたからには戻るよ。じゃあ」


 中原に手を挙げて元の道を戻る。


「そか。また、ね」


 そう言えば、ドーベルマンが逃げて行ったけどどういう事だ?

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