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私立養成学園(凍結中)  作者: 森尾友彬
中原巴編
16/21

偵察

 六月三週。


 先輩たちの練習に熱が入る。シードを得られなかった養成学園高校は週末に一回戦目が入っている。相手は昨年の夏に三回戦まで勝ち上がった高校で、一年の俺と湯村にはある指令が監督から与えられた。


「太田、湯村。お前達に一つ仕事を頼みたい」


 そう言って監督はビデオカメラと手帖程のサイズのノートに筆記具を渡した。


「それと、外出許可カードだ」


 外出許可カードとは文字通り、これを守衛さんに渡せば学園の外に出させて貰えるカードだ。これを貰うには一枚一〇〇ゴルトと交換、もしくは先生や保険医の人から必要時渡される。それ以外には先生の用事を済ませるともらえる事もある。


「寄り道はするなよ。門限を遅れたら、分かっているよな?」

 と、言われて偵察に来た。


「偵察は初めてだから、ちょっと楽しいな」


 二回戦以降当たる組み合わせの試合を録画に来たのだが、撮影の殆どを湯村に任せっきりだ。


「機械は僕に任せて。何か気になった事があったら太田君もメモを取るんだよ」


 気になった事、か。試合を眺めていても何も思いつかない。データが欲しい高校は二回戦以降に出てくるシード校の方なので当然なのだが、いつも練習で見ている先輩たちの方が凄いとさえ思う。


「万全を期すためには必要なんだろうけど、警戒すべき選手とか居ないね」


 言われた通りに映像を撮って来れば最低限だろう。翌日や翌週にも行くことになるかもしれないが、その時はその時だ。


「少し寄り道をしたいんだけど……」


 撮影機材をしまい終わると湯村が言葉を発した。気持ちは分かる。けれど寄り道がばれれば説教コースに突入するのは目に見えている。


「寄り道をしても門限は大丈夫かもしれないが、何か嫌な予感がする。外出をするなら一〇〇ゴルトで許可証を買った方がいい。それなら誰にも文句は言われない」


「うーん。遅れると流石に監督が怖い。けど、次に学園から出られるか分からない」


 湯村は一人唸っている。迷う時間は短いだろうからグラウンドに視線を向けたまま、占いの事を考える。


「よし。帰る」


 湯村が立ち上がると俺もそれにワンテンポ遅れて立ち上がる。


 駅に向かう道中、一方的に見知った顔が向かってくる。実際は向かっているのではなく、通り過ぎようとしているのだけど。


「草刈?」


 草刈は女の子と一緒に歩いている。


「君たちは誰だい?」


 当然の反応だと思う。一方的にこっちが知っているだけなのだから。


「初対面なのだから知らなくても無理はない。二年後にお前を倒す者だ」


 草刈と隣に並んだ女の子はきょとんとした顔をしている。言った俺自身も何を言っているんだと思うレベルだ。


「俺、名前覚えるの無理なんで名乗らなくていいよ」


「俺は養成学園高校一年、太田智春だ」


 草刈と一緒にいる女の子が草刈の袖を引いている。


「お前、女と遊んでいるのか?」


 湯村が敵意をもって草刈に問い質す。


「本当は練習をしたいんだけどね」


 更に女の子は強く袖を引いた。


「マネジャーの私が考えた練習メニューはこなしているでしょ? これ以上は怪我の元よ」


 草刈は少し困った様に笑っている。


「文句は無いけどさ。練習していないと落ち着かなくて。あ、じゃあ」


 草刈はマネージャーの子と並んで俺達の横を抜けていく。


「クッソ。俺達が女子生徒と会えないし、その間に必死に練習しているのにあいつは女の子と遊んでいるとは。ゆ、許せない……」


 湯村は怒りに燃えている。理由は不純だが、それは言わないでおこう。


「はいはい。あんまり遅くならないうちに帰るぞ」


 バスと電車に揺られて学園まで帰る。


 しかし、湯村に女子関係ばれると面倒だなぁ。

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