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私立養成学園(凍結中)  作者: 森尾友彬
中原巴編
11/21

監督生(共通)

 五月四週。


 授業にはついてはいけないけれど、慣れてきた。しかし、野球部での同級生の間での関係性? あったかどうかも分からないが、変わった気がする。特に何かをされるとかでは無いが、距離を置かれている様な。


「オイ、そこのお前」


 山岡とは仲良くなれた様な感じがする。練習後の自主練にも誘われる事も増えた。


「聞こえているのか?」


 何か声が聞こえるが俺ではないだろう。


「はぁ、無視をするというのなら相応の対応を取らせてもらうが」


 顔を上げるとやや眉間にしわを寄せ、腕章を付けた奴が俺の前に立っていた。


「足元、簀の子の上は土足厳禁だ」


 すのこ? 何の事だ。


 そんな事を考えていると男は腕章の文字を見せ付ける。


「監督生だ。その板敷きの上に乗る時は靴から履き替えておくこと。一々、注意をさせるな」


「あぁ、すいません」


 言われて靴を脱いでスリッパに履き替える。


「よぉ、朝から災難だな」


 後ろからやって来たのは奥野だ。奥野は短髪を逆立て、目は吊り上がってそれが相手に恐怖心を与えるが、離してみれば結構いい奴という感じ。あれ以降、ちょくちょく声を掛けてくるようになった。


「見てたのか?」


 奥野は首を横に振る。


「いやいや、今来たら腕章を付けている監督生が去って行くのが見えたからな。あいつらが話しかける時は注意する時以外無いからな」


 確かに嫌味な感じのする奴だった。俺も同じ立場ならそうなるのか。


「まぁ、お前じゃ監督生になれないから安心しろ」


 目を見開いて奥野を見た。奥野はさして驚く様子も無く、笑っている。


「言葉にしていたら流石に、な。あと、あいつらに目を付けられない様にな。細かい所をチクチクされるぞ」


 まるで監督生に注意でもされたように喋る奥野を不思議に思って見た。


「べ、別に俺が何かやったとかじゃねーから。先輩が入寮した日に口を酸っぱくして言ってたからな」


「酸っぱく?」


 奥野は少し目を見開いた。その後少し笑ったような顔をする。


「物の例えだ。鉄山の言った通り面白い奴だ」


「鉄山? 誰だ?」


「山岡の事だ。あいつと俺は同じシニアでな。まさか高校も一緒だとは思わなかったが」


 キーンコーンカーンコーン。


 予鈴が響く。もう少ししたらホームルームの時間が始まる。これに遅れれば遅刻扱いになる。


「じゃ、午後練で」


 奥野と山岡が、か。おっと、俺も急がないとな。


          ***


 週末。


「また。来てしまった」


 会う事が無ければここに来る事も無かったのか、それともあの子だから来てしまったのか。


 確かめるために広場にやって来た。


 しかし、誰も居ない。当然だ。こうなれば別の計画に移行しよう。


 潮風のしない道ですらない所を抜けていく。


 目的地は、着いた。


「塀の高さは学園に入る時に見ていたけど、三メートルから四メートルかな」


 しかし、あの時とは違って塀の頂を直に見られている。来た時は一番上まで見られなかったのだ。


 少し距離を取って見てみれば都合よく縄か何かを引っ掛けられそうな突起がある。


「購買に縄があったかな?」


 同級生達の話によれば色々な物が購買で売られているらしく、月に一度はアンケートを取って新しく購買に商品を並べているらしい。


 壁をじっと眺めていると不意に壁走りに挑戦したくなった。そう思うと不思議にそう言う事が出来るような気さえしてくるのだ。


「やってみますか」


 大きく息を吐き、吸い込んだ。身を屈めてよーいの姿勢に移行した。


「やぁっ!」


 声を出せばいつもよりも力が出る。


 右足で踏み込み、次は左足で壁に吸い着く様に。映画で見たシーンを何度も脳内で反芻する様に繰り返す。


 壁を蹴ると次に逆の足でまた壁を蹴る。そして、三歩目。は、空を蹴る。


 見えるのは青い空と白い雲。一瞬の浮遊感後、背中から地面に墜ちた。


「痛ッ!」


 肺から一瞬で空気が押し出される。それから少し咳き込むと失敗した理由を考える。


「壁を強く蹴り過ぎたか。次はもっと優しく。ん? 音が大き過ぎたか」


 茂みに隠れると誰かが走り寄る音が聞こえる。心臓がバクバク。これは非常にまずい。


「大きな音がしたから何かと思いましたが、全くアンドロイドの私が警備員紛いの事をしなくければ……」


 女の声が止まった。同時に足音が近く、そして間違いなくこちらに向かっている。


「そこで隠れている貴方。出てきなさい。今出てきたら許して差し上げますわ」


 茂みから出るとそこにはブロンドの様な髪色を持った女子生徒が立っていた。胸元のリボンを見る限りでは同学年だ。


「犬たちに見つからずにここに来れたのは運が良かったわね。けれど、音を立てたのは失敗ね」


 丸縁の眼鏡を持ち上げながら女子生徒は言う。


「それよりもさっきの独り言、聞こえたかしら?」


 フルフルと首を振ると、「そう」と素っ気なく答えた。


「今回は見逃してあげるわ」


「あ、あぁ。ありがとう」


 その場を走り去るしか選択肢が無かった。


          ***


「全く、どうして男ってのはなんて馬鹿なの?」


「行動に移すか、移さないか。それぐらいしか変わらないんじゃないか? しかもそれをわざわざ俺に言いに来るのか」


 目の前には黒っぽいブロンドの女生徒が立っている。立場は俺と一緒でサンクティオ社から派遣された生徒。唯一違う事と言えば、俺が人間で彼女がガイノイドという事ぐらい。


「ここに来る前に崩月さんと話したけど、浅見さんの事を評価していたぞ。コンペで見たとか言っていたが」


 眼鏡の奥の瞳に強い意志が点った様な気がした。


「嫌な事を思い出させるわね。崩月さんは尊敬しているけど、あまりその話と絡ませないでちょうだい。それと私の体の事は第三者が居る可能性がある場所では話さないで」


「そうだな。あと、俺は薬飲んだぞ。それから、能力はまだ分からない。と言う事で社の方への連絡はよろしく」

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