エルフと盗賊と勇者と魔法使い
第一幕、パーティーメンバーが揃います。
第一幕の1:パーティーメンバー
俺が部屋に入ると、そこには三人の冒険者がいた。
一人目は銀髪翠眼、尖った耳をした美少女。さらさらと流れる絹糸のような髪、透き通るような白い肌、深い叡智を秘めた瞳。そして神が持てる力の全てを注ぎ込んだ美しいかんばせ。その風貌はエルフの特徴を全て兼ね備えていた。完璧な美貌というのは、人に畏れさえ感じさせるのか。そう思わせる美貌だ。十五歳ほどに見えるが、エルフは超長命種。彼女とて見た目通りの年齢ではないだろう。二百歳という可能性もあり得る。
二人目は蒼い瞳が印象的な青年。こちらもエルフに負けず劣らずの美貌である。ただしこちらの青年は凄みのある顔だ。何だろう、どこかで見たような気がする。
そして特筆すべきは彼らが談笑しているため現れている謎の華やかさである。粗末な会議室の中でそこだけが異質に輝いている。はっきり言って眩しい。なんだ?美男美女にはフィールド支配能力でもあるのか?目が潰れそうだ。
ってか、あ。
この人、俺がクカルカと間違えて声かけた人じゃん。
やべえ、帰りたくなってきた。
気をとりなおして、最後の一人を見てみよう。
最後の一人は盗賊の衣装を着た少女。エルフよりと同じくらいの見た目だ。この場合の盗賊とは、潜伏などの隠密活動に長けた一部の人間が属する職種のことだ。依頼を受ければ盗聴、破壊工作、暗殺、密使など闇に紛れることなら何でもこなす。彼らの中には組織の子飼いの者もいるが、大抵はフリーで活動している。その理由はもっといい稼ぎがあるから。それは、迷宮探索への同行。物理的にも闇に紛れる事を得意とする彼らは、暗い迷宮の探索にもってこいの人材。大抵は迷宮探索のための臨時パーティーに参加することが多い。基本取り分は山分け、又は活躍に応じてで後払いというのが常識なのだが、彼ら盗賊には先払いで大金が振り込まれる場合がある。それほどに重要かつ希少な職種の人間なのだ。ただし、希少な職業であるため名の知られたものが多い。報酬だけもらって逃げたということになればあっという間に話は周り、盗賊のコミニュティから軽蔑を受け、パーティーに仕事を依頼されなくなり、ひどい時には盗賊の信頼を守るためコミニュティに暗殺されることもある。
そしてこの少女が幼い見た目をしているからと言って、その経験がないわけがない。彼ら盗賊は幼い頃に才能があると見込まれれば、(本人の意思も関係があるが)盗賊としての技術を徹底的に叩き込まれる。本来依頼を受けて働く事が出来るのは12歳からだが、盗賊に限っては幼くなくてはならない任務もある、幼少の頃から経験を積む必要があるなどの理由で例外とされている。そのため盗賊は年齢に関わらず戦力になるとされる。
そして俺は剣士、1番平凡な職業だ。魔法使いとして活躍できるほどの魔力はないし、(せいぜい火を起こすのが関の山だ)人族なので種族特有の力もない。それでもかっこよく魔物を退治する冒険者に憧れて、冒険者になった。案外この職業は地味な作業も多いんだけれど。
そんな俺がある日突然勇者になった。
気づいたら真っ白な空間に浮かんでて、不思議な女の人と出会ったんだ。夢かと思って眼をゴシゴシこすっても何も変わらないし、何よりほっぺたをつねってみたら痛かった。
それからその後はもう訳が分からなかった。『貴方が勇者です。魔王を倒しなさい』と言われ、混乱してるうちに元いた場所に戻っていたのだ。
取り敢えず白昼夢で無かったと仮定して勇者について調べてみた。幸い俺がその時いたのは本の町カテライデラ、知識人が多い。そうして勇者について聞いたり調べたりをした。
その結果解ったのは、勇者は女神によって任命される存在で、時々現れて英雄となる存在である事。そして勇者は必ず魔王を倒している事だった。
魔王は魔族を束ねる王。ちょくちょく侵略をしてくるため、魔王領に接している地域は大変らしい。俺は知らないけど。だけど疑問がある。
魔王だって王様なんだから、王を無くしたら魔族達が困るんじゃないか、というのがひとつ。そして、いち冒険者であるところの俺が魔王の打倒、つまり敵方の王様の暗殺なんて事をするのか、ということがひとつだ。
だいたい俺に魔王打倒なんてできる訳ないじゃないか。女神とやらもなんでそんな事を俺に押し付けたんだよ。もういいや、勇者なんて無視して普通に生活する。
と、そんな事を考えて、俺は冒険者として通常通り活動することにした。迷宮探索は元から予定していたし、仮に魔王打倒をしなくちゃいけなくなるとしたら強くなった方がいい。俺だって死にたくない。何だかんだ言って女神とやらの言う通りにしてる感もあるが。
まあとにかく…
「貴方がパーティー募集者?」
え?
話しかけてきたのはさっきの盗賊の女の子だった。どうやら美男美女フィールドには入れなくて退屈していたらしい。よく分かる。
と、その二人も俺に気づいたようだった。グッジョブ盗賊ちゃん。俺にあの二人に話しかける器はない。
「うん。…俺がパーティー募集者のエリスです。今回は迷宮探索のためにパーティーを組みたいと思います。迷宮探索は一回だけやった事があります。剣士で、冒険者ランクはC。よろしく!」
「こちらこそ、よろしくね。私はアラリエラ。盗賊よ。冒険者ランクはA。迷宮探索の経験はあるわ。」
アラリエラが後ろを振り向いて言う。
「貴方方も挨拶なさったら?迷宮探索に行くのでしょう?」
「ええ、そうね。」
エルフが落ち着いた声で言う。
「私はツィラ。エルフ。迷宮探索の経験は一度だけ。魔法は諸事情あって雷しか使えないわ。だから雷を併用しての剣士。冒険者ランクはB。よろしく。」
エルフなのに、魔法が使えない?
「それはどういう…事ですの?雷魔法を使うには他の魔法の作用も不可欠なはず…」
それはそうだ。だから雷魔法などの四大元素の魔法以外の魔法は難しいと言われるのだ。それしか使えないと言うのはどういう…
「その辺りはおいおい。エルフ故だと思ってもらえればいいわ。次は、ララカス様の番。」
呼ばれた青年は頭をかく。
「いやぁ…僕の名前はラルガスなんだけど…まあいいや、自己紹介行きます。」
大雑把なのか器が広いのか…
「僕はラルガス。魔法使いで、専門が水魔法、回復魔法も使えます。よろしく。あ、迷宮探索の経験はありません…冒険者ランクはBです、よろしくね。」
「ああ…よろしく。」
迷宮探索未経験者か…まぁ一人ぐらいなんとかなるだろう。盗賊がいるんだしな。
ご覧いただきありがとうございます!例によって第二幕があるかは分かりません!