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6.仲間集め 前編




 ルートレイは僕の出身であるフィフィライタ王国からだいぶ離れ、魔王の支配する魔国にほど近い――といっても隣り合ったりしているわけではなく、人間の生活領域という点で見ると他の土地より近いということになる――マクリリム公国の辺境に位置する。


 昔、マクリリム公国までリッテイ王国の領地だったのだが、先々代の魔王を討伐した勇者パーティーの大賢者、アーガイン・マクリリム公が独立を宣言して以降、一個の国として現在まで続いている。


「まだ大賢者アーガインは生きているなんていう都市伝説もありますよね」


「もう三百年以上も前の人間だよ?」


「そこはほら、大賢者の偉大な魔法でこう、なんとか!」


「アンデッドかな」


 とは言ったものの、確かに現代にも残る魔術を多数残し、魔術師の地位を飛躍的に高めた大賢者であれば、不老不死の魔術を完成させている可能性はゼロとは言い切れない。僕は呼んだことがないが、著アーガインの魔術大全は三百年が経った今でもなお作られている書物だ。たぶん勇者より歴史に名を残している。

 それでも先々代の勇者は僕みたいに軟弱じゃなく、仲間たちの支援を受けながら聖剣で魔王を討ち取ったという。


 聖剣かあ。僕も聖剣を持っていたら秘められた力とか覚醒したりするんだろうか。よーし、鍛冶の最終目的は聖剣を作ることにしよう!


 冗談はさておき。


「今日はどうします?」


「どうしますって……」


 通い妻か! と心の中で突っ込んだ。

 いや、まあ可愛いし、性格悪いなんてことは考えられないし、いい子なのは間違いない。間違いないけども。


 女性は男性より一目惚れしないっていうのをどこかで誰かから聞いたことがあったような……飲んだくれてた時に一緒に飲み明かしたオカマの人だったっけ? 話していてすごい楽しかった気がする。酔っていてあんまり覚えてない。


 ここは一つ、遠回しに聞いてみようか。


「アイリスはどうしてこんなによくしてくれるの?」


「困った時はお互い様なんですよ! だから私が困った時は助けてくださいね!」


「恩を売ってるってこと?」


「そうですそうです」


 口ではそう言うが、出任せとしか思えないくらい言葉が軽かった。演技は上手くないみたいだ。


「お、おじいちゃんにも言われましたし!」


 食い気味に僕との距離を詰めてきた。


「じゃあそういうことにしておくよ」


「そういうことにしといてください!」


 いじりすぎるのはよくない。アイリスが涙目になってきたので焦る。やりすぎたと反省した。



 アイリスが落ち着くまで静かに待ち、彼女は冷静になると口を開く。


「今日もお掃除ですか?」


「そうなるね。工房以外がまだとんでもないから……」


 思い出してげんなりした。埃という魔物が大量に潜んでいる。


「二人きりでやるのもいいですけど、このお家広いので全部綺麗にするとなると一週間くらいかかりそうですね」


「一週間もかかるか?」


「ルートレイの住民はのんびりやるものです」


 死ぬ気でやれば二日でできそうなものだが、死ぬ気でやる必要もないか。寝室さえ綺麗にすればこちらのものだ。


「寝室と台所をお掃除しましょう!」


「台所は使わないから後回しでいいよ」


「私が使うんです!」


 んんんんん!?

 何が起こったのだろうか。


 しかし僕はルートレイの流儀に則って気にし過ぎない精神で平静を保った。

 すると逆にアイリスが素っ頓狂な声を出して顔を背けた。

 僕の勝ちのようだな。


 ニヒルな笑みを浮かべ、そして年下の子をいじめたみたいな絵面になっているという事実を認識し、自分を冷笑した。


「きっ、気を取り直して! お手伝いしてくれる方を探しに行きましょう!」


「いや、でもそんな悪いよ」


 アイリスが手伝ってくれていることも申し訳なく思っちゃうくらいだ。さらに善意で助けてくれる人が現れたら申し訳なさで頭が下がりっ放しになりそう。


「安心してください! 一人は必ず手伝ってくれますし、もう二人ほど心当たりがあります」


 任せちゃってください、とアイリスは力こぶを作る。が、その白い細腕にこぶはできなかった。







 アイリスに連れられ、僕は町長の屋敷に訪れた。こんな辺鄙な土地には似合わないほど大きな屋敷だが、辺鄙な場所で土地が余っているから大きな屋敷なのか。いずれにしろ、権力の象徴としてこれほどわかりやすいものもない。


 アイリスは呼び鈴も鳴らさずノックもせず扉を開けた。それも当然か。ここは村長の屋敷であり、だからアイリスの家でもある。


 屋敷は大きいが、内装は決して豪華絢爛とはいえない。芸術品で飾った宮殿や貴族の屋敷より質素だが、居心地はこちらの方が数倍もいい。心が落ち着く。


「こっちです」


「こんなに広いのに侍女はいないの?」


「はい」


「アイリスのお父さんとお母さんは?」



「今は私とおじいちゃんの二人だけなんです」

 悪いことを聞いてしまった……。


「あ、でも、死んじゃったとかじゃないので気を落とさないでくださいね! なんでも、ちょっと旅に出てるんだとかで」


 話していると、町長がいるらしい部屋に着いた。


「おじいちゃーん、ただいま!」


「おお、もう帰ったのか、ってライン殿じゃないかね」


 あれ、なんで町長は僕がアイリスといることを把握していないんだ?


「まあなんだ、座りなされ」


 アイリスはソファに飛び乗るようにして座り、僕もそそくさと腰を下ろす。


「昨日ぶりだな鍛冶師の小僧」


 よっ、と片手を上げたのはズーエル。


「ズーエルさん、彼は小僧じゃなくてラインさんですよ」


「いや、小僧」


「ラインさん」


「昨日ぶりだなライン」


 折れるのが早いな。


「儂とは四日ぶりだね」


 ルートレイの町長、イワリフ・キューファビエ。頭髪は真っ白で顔や袖から覗く手には深くしわが刻まれている。好々爺を絵に描いたような人物だ。


「アイリスを寄越してくれてありがとうございます。おかげで掃除が捗りました」


「うむ、なんのことだ?」


「え?」


 僕と町長は互いに首を傾げ合った。


「わー! おじいちゃんちょっとこっち来て!」


 アイリスは顔を真っ赤にしてあたふたしながら村長を引っ張って退室していった。その鬼気迫る様子たるや魔王軍と戦う戦士の如し。


 僕とズーエルは揃って目を丸くし、閉められたドアを呆然と見つめていた。





 アイリスと村長が帰ってくると、何事もなかったように何食わぬ顔で座った。


「すまぬのライン殿、最近物忘れが激しくてな」


 とのことだったが、どう見てもボケが進行しているようには見えないし、何かを隠しているとしか思えなかったが、なんだか触れてはいけないような雰囲気があったので頑張ってスルーした。


「それはともかく、何をしに戻ってきたんだい?」


「そうだった。おじいちゃん、ズーエルさんを少し貸してほしいの」


「いくらでも貸してやろう」


「俺は一人しかいねえですよ」


「これでお掃除要員を一人は確保できました!」


 だそうだ。僕としては非常にありがたいことなのだが、とんとん拍子で話が進んだわりに肝心の当人の意思は微塵も尊重されていなかった。


 町長の屋敷を出てからズーエルにそのことを尋ねてみたら、


「世の中ままならねえもんだよな」


 溜息を吐いて諦観溢れる表情で答えていた。



 世知辛い。




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